終わる愛より、始まる恋に微笑んだ



 長義が働く国は、木造の建物の少ない綺麗に整えられた石畳と鮮やかな壁面を備えた家屋が立ち並ぶ美しい北欧の島国だ。母国と同じ島国であるからして、周りは一面鮮やかな海に囲まれ、四季に関しても割とはっきりとはしているが全体的に寒い国柄なのは否めない。春は初冬の、夏は春と初夏が混ざったような、秋は初冬で、冬は極寒。
 日本で言えばまだ秋の、気温でいえば残暑もまだ厳しい時期に、コートを引っ張り出して着込む程度にはノースメイアという国は長義には少しばかり寒い国だった。
 今はまだ秋口でこの寒さなのだから、本格的に冬を迎えればどうなるのか。北海道の冬さえ経験のない長義には想像のつかない次元である。
 ノースメイアは日本とはまださほど交流が盛んではなく、極々最近王政から民主制へと変わったというオーロラと流氷、それから物珍しい壮麗な宮殿が観光名所の音楽の溢れる美しい島国だ。国民は皆幸せそうな笑顔を湛えているものが多く、極々最近まで王政を取っていた王族への敬愛と尊敬を抱えた、長く民主制を保っている日本の国民である長義からすれば少し物珍しくも思える。とはいっても、王族…長義の側から言えば皇族である天皇への尊敬や敬愛といったものに似通っているので、そこまで抵抗感があるわけでもないのだが。突き詰めていけば、ほとんどの国民が当然に国王、並びにその一族へと深い情を持っていることが物珍しい、というべきか。
 王政から民主制へと変わった背景には色々あり、今尚ゴタゴタと国政は荒れているようて、若者中心に王政への復帰を願う運動もあるのだとか。街に出れば時折そのようなデモも見かけるので、落ち着くのはまだまだ先になりそうだと思いつつも、長義のするべきことは情勢を見極め、会社の利益を出すことだ。まだ日本とさほど交流があるわけでもなく、これから進出を始めるだろう国と早くから繋ぎを取っていたい。王政から民主制になったというタイミングも手伝い、こうしてノースメイアに赴いて仕事をしている。
 そういえば、日本の人気アイドルグループにもノースメイア出身の者がいたな、とキーボードを叩いてメール文を作成しながら長義は記憶のページをぺらりと捲った。
 生憎と長義はそこまでアイドルというものに関心が向かないので一般的な情報程度しか持たないが、友人がひどく熱狂していた覚えがある。ライブのチケットの為に心血を注ぎ徳を積む姿は一種の殉教者にも似ていたが、そういえば彼女は無事に手に入れることができたのだろうか。そこまで考えて、カタカタとキーを叩いていた指が止まる。綺麗に整えられ、艶のある淡いピンク色の爪がカツ、と小さく音を立てた。
 家族は元気だろうか。夏頃にも帰れなかったから電話だけで済ませてしまったけれど、あれからの様子は確認していない。友人ともそこまで頻繁に連絡を取り合っているわけではないので、今何をしているかはわからない。時折無料通話アプリやメール、時には長義に習って手紙でのやり取りは稀にあるけれど、ここしばらくは音沙汰はなかった。便りがないのは元気な証拠というが、それは長義に限らずあちらにも言えることなのだろうな、と一息いれるようにデスクの上に置いてあるタンブラーに手を伸ばした。
 こくりと中身の紅茶を口に含んで、視線を正面に向ければ止まった文字列と白い画面に薄らと映る自分の姿を見つめた。

 ――南泉は、どうしているだろうか。

 扇形に広がる銀色の睫毛を憂うように伏せて、胸の内に蟠り、燻るものに微かに唇を戦慄かせる。長義が置いてきた、長義が唯一人求めている存在。秋の稲穂を思わせる金の髪が瞼の裏に浮かんだところで、長義はふっと小さく息を吐いた。
 昔馴染みの友人達は、頻度こそ多くはないがそれなりに連絡を取り合っているけれど、もう半年以上は経つのに、南泉から長義へと連絡が取られたことはない。それは長義も南泉に連絡を取ったことがないのでお相子だと言えるのかもしれないが、それにしたって薄情なのではないだろうか、とむっと眉根を寄せて止めていた指の動きを力強く再開させた。
 幼馴染の女子が、不本意だったのだろうとしても元恋人が、そして長義にとって有難くも迷惑な前世という腐れ縁が、見知らぬ異国で1人で奮闘しているというのに近況を尋ねる連絡一つしてこないとはなんとも不人情な男ではないか!
 苛々をぶつけるようにメールの本文を叩き上げ、誤字や脱字、可笑しな文がないかを舐めるようにチェックして長義はカチッと送信ボタンをクリックする。まぁそりゃ、前世の関係からしてわざわざ密に連絡を取り合うような仲ではなかったけれど、むしろどちらかというとお互いそういうことには干渉し合わないような性質であったので、ある意味でらしいな、といえる状況なのだけれど。しかし、それはあくまで前世であって今世でのことはまた別ではないのか、ときちんとメールの送信ができたことを確認して長義は椅子を引いて立ち上がった。
 デスクの下に置いてある鞄を手に取り、椅子に引っ掛けているコートに袖を通し、長義はまだ残っているオフィスの仲間を見渡してお先に、と気軽に声をかけた。暖房で温かい室内で、窓硝子の向こうの街並みが少し曇って見える。長義の声に各々返事が返ってくる中、颯爽とコートの裾を翻した。外に出ると、ピュウ、と冷たい風が吹き付けて思わず首を竦めた。暖かな中にいたからか、余計にその冷たさが身に染みる。
 雪はチラつかずとも、北欧の秋は日本に比べて気温が低いことは確かで、ダウンとまではいかずともしっかりとしたコートは欠かせない。これから本格的な寒さが訪れるこの国で初めて迎える冬に戦々恐々としながらも、仕事場の現地の人間はこの国の美しいオーロラや流氷を楽しげに語り、長義にもぜひにも見て欲しいと謳うので長義は夜空に浮かぶだろうベールが楽しみだった。
 吐き出した息が白く曇る中、ともすれば丸くなりがちな背中を伸ばしてヒールの踵を石畳にかつんとぶつけた。颯爽と街中を歩き出せば、長義の姿はひどくその空間に馴染んでいた。背中に流れる銀色の髪も、宝石を嵌めこんだような瑠璃の瞳も。白く透き通る肌でさえまるで現地の人間のようで、長義の美貌は母国ならず異国でも衆目を集めるに十分だった。とはいえ、ノースメイアの王族もまたかなりの美貌を持つらしく、美しいもので溢れているこの国は恐らく日本以上に審美眼は厳しいものがある。しかし、それを押して尚、石畳と赤褐色の煉瓦の通りに長義の美しさは映えるばかりだった。
 ――もっとも、如何に衆目を集めようと、引き寄せたい相手は別にいるので長義にとって周囲の視線はさほど大きな意味を持つことはない。聞き慣れた賛辞も当然と思い、しかし褒められれば悪い気もしないとはいえ、それ以上の価値を感じることはそうなかった。いつでも微笑み、ありがとう、と言えるだけの場数は踏んでいる。綺麗だと、本当に思ってほしい相手にそう思って貰えないのなら、全く意味がない…とまでは言わないけれど、価値を下げるには十分だ。

「まぁ、今更なんだけどね」

 少しオレンジ色の入ったリップで艶を持つ唇を動かして、独り言をぽつりと漏らす。通りを歩く人の横を通り過ぎながら、想い人を思い浮かべた。
 南泉にとって、長義の美しさは当たり前のものだった。決して嫌われてはいないだろう。むしろ、長義の顔に南泉は弱い節さえある。有体に言えば南泉にとって長義の顔は非常に良い武器ではあるのだが、同じぐらい見慣れたものでもあるので南泉からの賛辞など早々受けられない。女性を褒める言葉を惜しむのは愚の骨頂だと思うが、息をするように口説き文句を口にされても誰だお前、と長義は南泉の頭の中を心配する羽目になるだろう。ジレンマだ。南泉にならたくさん美しい、綺麗だと、可愛いとすら思って口にして貰いたいと思うのに、実際にそうなってしまえばきっと長義は気味悪く思う。
 近すぎたのだなぁ、と改めて思いながら、そして長く共に居すぎたのだ、とも考える。離れてみてよくよくわかった。
 今なら素直に思えるのだ。口にするかは別として、自分は南泉に世界一綺麗だと思ってもらいたいし、可愛いと誉めてもらいたかった。実際長義の容姿は酷く整っていて、それを維持する努力も磨く労力も惜しんだことはないけれど、美しいことは当たり前だったから必死だったかというとそんなことはなかった。南泉だってそれは認めていたことだし。
 横には常に一番の人間がいて、それが昔からの当たり前だったので、今更そこまでの努力をしなくても、と少し怠惰であったことは否めない。まぁ、結局のところその努力を怠ったからこんなことになったのかな、と冷静に長義は自分を見つめ直していた。
 腐れ縁の関係から脱却するほどの努力を、していなかったのだ。言い訳をするなら長義にそんな記憶はなかったし、まさか南泉がそんな視点で長義を見ているなんて思いもしなかったのだから、そこに至る努力をしなければならないなどと考え付きもしないのだが…それでも、もう少し察し良くできなかったのかと、長義は歯がゆい気持ちで過去の自分を罵りたい気持ちに駆られる。気が付くのが遅い!!と拳を振り抜きたいが、過去の自分に何を言っても始まらないのは確かだ。
 時は先にしか進まない。未来しか待ち構えるものはなく、生きているの今だけだ。
 遠くにいるから、長義は今南泉をとても恋しく思う。触れあえるだけ近くにいたのに、今はその顔も声すら届かない場所にいるという事実が、長義の右側をすぅすぅと冷え込ませる。こればかりは、冬の気温がどうの、という問題ではない。春でも夏でも、南泉が横に居ない長義の隣は空虚だった。
 離れれば世界が開けて、もしかしたら考え方が変わるかもしれない、と考えたことがないわけではないが、結局何を見ても誰と会話しても南泉を越える者はいなかった。
 もしかしたら南泉など忘れて別の誰かに恋をするのやも、と見えない未来に想像を働かせて即座に無いな、と自分で切り捨てる。長義が求めるのは一文字南泉ただ一人なのだとよくよく思い知って、しみじみと「いや、私重くないか?」と震えが走ったがむしろ私がこれほど思っているのだから南泉は果報者なのでは?と考え直す。
 だって私だぞ。この私が、他の誰でもない南泉よりも性格の良い地位も名誉もあるような人間を差し置いて彼だけにこれだけ心寄せているのだ。ちなみに顔面レベルに関しては例え芸能人であろうと早々南泉レベルの人間はいない。人外ってやっぱり美形すぎるんだな、と古の記憶に深く深く頷いた。
 こんなに一途に思われて、南泉にはもっと感謝して欲しいぐらいだ。まぁ、その一途さが怖いと言われたら確かに、と納得する程度には理性的でもあったが。我ながらくっそ重くて笑える、とハハ、と乾いた声を零しながらも、長義は自分の感情を忌避する気にはならなかった。そもそも長義が南泉を大好きだなんて昔っから当たり前のことであったし、だからといって依存的な関係を築いていたかと言われると鼻で笑うぐらいには互いに自立している。極論を言えば、この恋が実らなくとも、長義は自分が生きていくのには支障がないとわかっていた。無論、開いた穴も風が通り抜ける隣の寒々しさも、一生埋められないと理解しているが、それを抱えてなお立ち続けることは可能だと自負している。
 長義は、南泉がいなくとも生きていけるけれど、ただ南泉がいなければ世界はとても詰まらないのだと理解しているだけだ。
 隣に立つなら南泉がいい。想いを寄せるのも寄せられるのも南泉がいい。一生を沿うなら、南泉でなければ意味がない。会わない時間が、会えない距離が想いを募らせるなど少女漫画や恋愛ドラマの出来事かと思えば、なんてことはない。立派に長義も恋する女だというだけの話だ。
 だからこそ、長義から南泉への連絡は最低限に留めている。詳しく言うなら、この国に来た当初に一回、ポストカードを送った程度。それ以降、長義から南泉へのアクションはない。長義からしてみれば、向こうから接触してくるのが筋だと思っている。
 だって南泉からプロポーズをしてきたのだ。記憶の有無やどんな考えだったかはさておき、向こうの方から長義と結婚しようと動いたのだから、相手側から長義へとアクションを起こすのは当然の筈だ。――それが、どういう結末を迎えるのかは、わからないけれど。ふっと自嘲を零して、思考を切り替えるように一度強く瞬きをした。ぎゅっと閉じて、目を開ける。
 借りているアパートメントにある冷蔵庫の中身を反芻しながら、今日の夕食の献立を考える。さすがに日本の食品が手に入るようなスーパーは長義の住む地域には少なく、大体が現地の食材や調味料で成り立つので半年もいればすっかり長義はこの国の食材にも慣れた物だった。スーパーもいいけれど、休みの日なんかには市場に寄って買い物に耽るのもいい。テントの下で山盛りになった野菜やフルーツを思い描いて、次の休みには果物を買ってスイーツでも作ってみようか、なんて心を浮き立たせる。日本食が恋しいと思わなくもないけれど、まぁでも食べようと思えばどうとでもなるものだし。
 煮え切らない男の動向に思いを馳せるのは今日はここまで!少し重たくなりがちだった足取りを軽くしてスーパーへと足先を向けた瞬間、後ろからチョーギ!とややカタコトに近い発音で名前が呼ばれた。この国で日常的に聞かれる長義の名前だ。日本人ほど滑らかではないけれど、親しみの浮かぶ声音はどこか面映ゆい。振り返ると、ひらりとカッコつけでもなく自然な動作で右手を上げる同僚の姿が見えた。
 明るい茶髪は少し赤味がかって、白い肌は北欧の人間らしく透き通るように白い。白すぎるからか少しソバカスが浮かぶ顔はどこか愛嬌があって、水色の双眸はキラキラと光って見えた。鼻が高く、目元の彫りは深くてはっきりとした濃い顔立ちは東洋人にはない顔立ちだが整っていて、ニコニコと朗らかな笑顔は春の陽だまりのよう。職場であってもその明るくユーモアのある人柄はムードメイカーの役割を持って、大体の人間から好かれるような存在だ。
 長義もまた、なにくれと気にかけてくれた同僚の事を好んでいて、自然と足を止めて体ごと振り返った。

「チョーギ、今から帰りかい?」
「そうだよ。まぁ、その前にマーケットに寄らなければならないけどね」
「ワァオ!それならなんてタイミングがいいんだ。君さえよければだけど、これからベネディクティンの家でホームパーティがあるんだ。君も一緒にどうだい?」
「えっ。…でも、急に行っても迷惑なんじゃ…。それに手土産も何も用意がないし」
「ベニーはそんな細かいことを気にしないのは君も知っているだろう?それに、君のことは元から誘う予定だったんだ。メールは見ていない?」

 言われて、そういえばしばらく携帯を見ていなかったな、と気が付いておもむろに鞄に手をいれ、携帯を取り出すといくつかの通知がきていることに気が付いた。大体が広告のそれだが、そこに紛れて確かにパーティへの誘いの通知が来ていた。まぁ来ていたのも昼過ぎぐらいで、どうせならもうちょっと早めに知らせてくれれば、と思わなくもない。
 軽く目を走らせて、どうやら急に思い立って人を集めようとしているらしく、パーティというよりは本当に気楽な集まりのようで人数もさほど多くはないらしい。
 ふむ、と顎先に指を添えて少しばかり考えると、律儀に長義の答えを持っている同僚に向かって顔を上げた。…まぁ、1人分の食事を作るよりも、仲間内でワイワイと食べる方がいいか。食費も浮くし、と考えて怜悧な美貌にニコリと華やかな笑みを浮かべる。

「折角の誘いだからね。是非参加させて頂くよ」
「チョーギならそう言うと思った!時間はまだあるから、よければ一緒にベニーへの手土産でも見ようよ」

 イエス!と喜ぶ相手に微笑ましく目を細めて、そう誘いをかけてくる彼にそうだね、と一呼吸置いていや、と首を横に振った。

「一旦家に帰って、着替えないといけないから。勿論手土産は持っていくけど、少し時間がかかるかもしれないから君は先にベニーの所に向かうといい」
「ふむ。…それなら、家まで送らせてくれないかい?君は美しいから、君に一目惚れした悪魔が君を攫ってしまうかもしれない」
「おや?私がそう簡単に悪魔に攫われてしまうとでも?」
「まさか!チョーギならきっと悪魔も魅了して平伏するだろうけれど、あいつらもしぶといからね。僕が心配なだけだよ」

 僕の為を思って、送られてくれやしないかい?と乞われて、長義も少しばかり眉を下げた。ノースメイアの治安は良い方だけれど、情勢がまだ落ち着いていないところがある。大丈夫だというには不確かで、送られるだけならば、と了承するとパッと顔を明るくさせるのだから適わないな、と思う。それにしても、本当に海外の男は女の立て方を知っている。これが日本の男ならば、送らせてくれないか、なんて言い回しはしないだろう。まぁ一概には言えないけれど、少なくとも南泉は言わない。言わせる前に長義が引っ張るし、言わずともそういう行動を取る男なのであれはあれでスパダリと呼ばれるに相応しいと思ってはいるが、今は関係のない話だ。
 長義の右側に立ち、車道から長義を遠ざけるように自然と位置を入れ替えた同僚に目を細めて、帰宅の道を辿った。道中の会話はウィットに富んでいて、長義も相槌や会話を繋げやすい。こういう会話が得意なのも彼の良い所だと最近家の倉庫に住みついた野良猫の話に目を輝かせた長義は近くなったアパートメントに気が付いて視線を流した。
 野良猫の話はまた、ベニーの家ででも聞かせて貰おう。そういえば私のアパートメントはペットも可だから、なんならその野良猫を招いても、と思っていると、不意にピタリと足が止まる。突然歩みを止めた長義に、数歩進んだところで同じように隣を歩く彼も歩みを止めた。振り返り、怪訝な顔で口を開きかけて長義の視線が真っ直ぐに、食い入るように一点に集中していることに気が付き、追いかけるように首を巡らせると険しく眉根を寄せた。咄嗟に、長義を庇うように前に立つ。2人の視線の先で、長義の住むアパートメントの前に見慣れぬ人影が佇んでいるのを見つけたからだ。
 影はゆらりと動いて、長義たちを振り返る。夕暮れ時の斜陽に当たり、オレンジに光る稲穂色の髪。逆光を背負って、影になった顔の中で何故かその両の目だけが爛、と光るのを見た気がした。知らず、ごくりと鳴った喉は誰のものか。

「…どうして」

 ぽつり、と、零れた声は困惑を色濃く映して空気に溶け込む。その声に同僚が後ろを振り返れば、常になく動揺したように、意思の強い青い双眸がゆらりと揺らめくのを見た。

「チョーギ?知り合いかい?」
「…そう、だね。ここにいるはずがないんだけど」

 その反応から、どうやら全く見知らぬ他人ではないらしいと悟って、同僚が問いかける。それにどこかぎこちなく答えた長義は、猜疑心を込めて再度正面の男を見据えた。
 一定の距離を開けて、2人の視線が交差する。沈黙は重く互いの間に横たわり、時だけが過ぎていく。何時間もそうしていたように思えるし、瞬きの間の事のようにも思える。しかし、耐え切れなかったのは長義でも訪問者でもなく、彼らの間に遮るように立つ同僚だった。

「君はなんだ。チョーギに用なのかい?」

 少しばかり強張った声は、ただならぬ様子に緊張しているせいか。沈黙を破るその声に、ピクリと身じろぎをした相手はすぅ、と吊り上り気味の猫目を細めた。ギクリ、と威圧感が増す。喉元に刃先を突き付けられたような鋭い気配にひゅっと息を呑むと、すっとその前に白い手が踊った。前に身を乗り出すように、長義が訪問者と同僚の間に立ち塞がる。それに誘われるように、訪問者の視線が同僚から長義へと移ると、ほっと安堵の息が零れた。

「連絡も無しにやってくるなんて、少々礼儀がなっていないんじゃないか。南泉」
「それは悪かったな。まぁオレも、目的も無しに来たわけじゃねぇしよ」
「ふぅん。そう…アントン。悪いけれど、今日のお誘いはなかったことに。礼儀知らずの野良猫が遊びにきたようだから」

 言葉はわからない。きっと長義の母国語なのだろうそれに首を傾げつつも、振り返って穏やかに微笑まれると相手も頷くしかなかった。遠い故郷から知り合いが来たというのなら、確かにパーティになど参加している場合ではないだろう。けれど、どうにもただならぬ様子ではあり、同僚は戸惑いながらも伺うように長義を見下ろした。

「そ、そうか…えっと、チョーギ?」
「うん?」
「…大丈夫か?」
「大丈夫だよ。古い知り合いなんだ。埋め合わせはまた後日に」
「わかったよ。あー…また、明日」
「ふふ。あぁ。また明日」

 彼は敏いな。長義は背を向けながらも気遣わしく名残惜しげにちらちらと振り返る彼に緩く手を振って安心させるように笑みを浮かべ続ける。実際、相手が相手だけに何の危険があるわけではないことは確信していて、心配されるようなことは何もないのだ。
 ただ、ちょっと長義が動揺を見せすぎただけで。だが、それも仕方がない。まさか、連絡もすっ飛ばしてよもや本人が目の前に現れるなど、長義でさえも考えていなかったのだ。せめて事前に通告でもしておいてくれれば、と思うが、目の前の現実がなかったことにはなりはしない。やがて同僚の背中が見えなくなるか、という頃合いで、長義はゆっくりと後ろを振り返った。視界に飛び込む懐かしい姿に、思わず眩しいわけでもないのに瞳を細めてしまう。
 瞼を閉じて思い浮かべた稲穂色の金髪が、そこに夕闇に溶け込むように佇んでいた。とくり、と跳ねる心臓を誤魔化すようにさっと視線を自宅のアパートメントに向ける。

「部屋に行こうか。もてなしはできないけど、お茶ぐらいなら…」
「どこに行くつもりだったんだ」
「…は?」

 家の中には生憎と誰かを万全にもてなせるような蓄えはない。買い物に行こうかと思っていたぐらいなのだから当然のことではあるが、どうしてこのタイミングなのかと溜息も吐きたくなる。部屋は定期的に掃除もしているし、招くに恥ずかしい様相はしていないはずだが、それともてなしが万全かと問われるとそうではない。
 連絡もしないで、と不満気に唇を引き結ぶと、どこかじっとりと険の含んだ低い声が、長義を問い質した。意表を突かれたように、ポカンと長義の目が丸く見開かれる。
 いつの間にか近づいていた南泉が、眉間に皺を寄せるようにして長義を見下ろしていた。

「あいつと、どこに行くつもりだったんだよ」

 これは、なんだ。不機嫌そうな南泉に困惑を隠せず、長義は怪訝に眉を潜める。何故再会早々こんな喧嘩腰で募られなければならないのか。別に、感動の、とつくような大層なものではないしお互いそんなに情感豊かでもないのでやり取りとしては淡泊なものになるだろうが、それにしたって開口早々に問い詰められる謂れもない。
 何故そんなことを聞く、とばかりに瞳を眇めると、南泉は殊更に顔を顰めて、ムッとした顔のまま長義の腕を取った。

「部屋行くぞ」
「ちょ…っと、待て、南泉。そこは私の家なんだがっ?」

 ぐい、と引っ張られて蹈鞴を踏みつつ、お前は招かれる側で招く側ではないだろう!と声をあげるも気にかけた様子もなく南泉はアパートメントの前に立つと無言で長義を見た。その視線に、色々と文句を重ねたいところではあったが家の軒先で言い合うのも見てくれが悪い。近隣に見咎められても困るので、仕方なしに長義はこれみよがしな溜息と共に部屋の鍵を取り出して、いささか様子の可笑しい南泉を連れて自宅へと案内した。
 がちゃり、と鍵を回してドアをあければ、玄関から奥へと続く廊下が見える。日本のように靴を脱ぐ習慣がないからか、境目のわかりにくい玄関で長義は後ろを振り返った。

「靴はそのままでいいから。中に入ったら、とりあえず座って待っていなよ」
「…あぁ」

 自宅だけなら日本式でもよかったのだが、他人を招くことも多々あるのでここは郷に入りては郷に従えの精神で、長義は海外方式を選択している。土足のまま踏み入れば、少しばかりの躊躇のあと、南泉も同じように土足で家の中に入った。
 室内の作り自体は日本とそう変わらないはずだが、やはり北欧のテイストが濃いと日本の家屋とは趣が変わってくる。物珍しげに見渡す視線にくすりと笑って、長義はキッチンに向かうと湯沸かし器を片手にミネラルウォーターから水を注いで、台の上にカチッとセットした。お湯が沸くまでの僅かな時間で、何か出せるものはないかと辺りを見渡す。まぁ南泉相手なのだからそこまで気に掛ける必要はないのだけれど、一応客なのだから最低限は、ということで、運よく残っていた市場で買った手作り感のあるクッキーを小皿に出して、同時にピー、と湧いたお湯に誘われてお茶も手早く淹れてしまう。
 こだわるならティーポットでじっくり蒸らして、など拘りたいところだがそれをする時間も惜しい。なにせ、じっと長義の動きを観察するように南泉の視線が突き刺さってくるのを感じるのだ。じぃっと向けられる視線は慣れたそれであるはずなのに、たった半年ぽっちの時間離れていただけで妙に圧を感じるような気がして、どこか落ち着かない。
 可笑しいな、と思いつつも表面上は気にしていない様子を取り繕い、長義はすました顔でティーパックで淹れた紅茶をトレ―に乗せてクッキーと共に南泉が待つテーブルに持っていった。
 さして大きくないテーブルの上に、クッキーとお茶を並べて、南泉の向かい側に腰を落ち着ける。南泉はじっと長義を見つめてから、いただきます、と小さく口に出して紅茶に口をつけた。その様子を、今度は長義がじっくりと観察する。観察、そうだ。あの視線は、正に観察されているようだった、と得心がいったかのように長義は内心で頷いた。今更何を観察する必要があるのかとも思うが、久しぶりに恋人、いや、現在元恋人は、別れる前と変わっていないようで、でもどこか変わっているような気もして、思わず南泉に負けじとマジマジと見てしまう。長年見続けていた顔のはずなのに、仕草だって口調だって、記憶となんら相違はないのに。でも、どうしてだろう。今の南泉は、長義の知る南泉とは少し違うようにも感じた。ツキン、と微かな、針の先でちょいっと突かれたような痛みが胸に走るが頭を振って追い出す。
 半年以上、一年近く。顔を合わせも、声すらも聴いてこなかったのだから多少の違和感は仕方がないのだ。会わない間に、長義の知る南泉ではなくなっていても、離れる選択をした自分には何を言う資格もない。

「見すぎだろ、お前。顔に穴が開く、にゃ」
「最初に見ていた君に言われたくないな。ふふ、その可愛い語尾は相変わらずだね」
「可愛くねぇ。お前の憎まれ口もマシになったかと思ったが、全然変わらねぇな」

 少しばかり居心地悪げに、カップをソーサーに置いた南泉はむっすりとした顔で長義を睨みつけた。金と緑の混ざった猫目に、長義の喉が機嫌よく笑い声に震える。
 ブランクを感じさせない応酬は心地よく、長義が好む可愛らしい語尾もそのままだ。あぁ、なんだ。やっぱり変わらないな。そう安堵の息を内心で吐いたところで、南泉がで、と口を開いた。

「あいつと、何処に行くつもりだったんだよ」
「…そんなに気になる?」

 再度蒸し返されたそれに、長義は不思議に思いつつ首を傾げる。見つめる南泉の目は先ほどよりは落ち着いて見えたが、それでも何かを探るように、懸念を覚えたように長義を見据えていて、僅かの沈黙の後、長義はふっと短い吐息を零して口角を持ち上げた。

「君に関係があるのかな」

 突き放すように言ったのは、ほんの少しの悪戯心だ。さすがに、久しぶりに会った元恋人、まぁそこに拘らずとも腐れ縁が見知らぬ他人と共にいて気にならないのかと言われると多分誰もが気になるだろうと長義も察していた。特に深い仲というわけではないけれど、男女が距離も近くいればさすがに口に出さずにはいられないだろう。
 そこに嫉妬だとか不安だとか、そういうものが含まれているだなんて長義は考えもしない。だって、私はともかく、南泉が嫉妬する理由が見つからないのだ。別れる前、切り離した彼は、長義を山姥切だと見続けていたのだから。その姿がこびりついて、ちょっとの可能性も思い至らないまま当たり前の機微かな、と思いつつも、あえて口出しをしてくれるな、という体を装って長義はニコリと作り笑いを浮かべた。そうすれば南泉は少しムッとして、それでもそうかよ、と溜息と共に気にしないだろう。そうしたら、長義は笑いながら事実を話せばいい。何も、険悪な空気になりたいわけじゃないのだ。折角会えた、しかも南泉の方から会いにきてくれたのに、口喧嘩だけで終わりたくはない。
 まさか、南泉の方から会いに来てくれるなんて思わなかった。多分、きっと、長義に会いに来てくれたのだ。そんなことしそうもないのに、どういう心境の変化かはわからないけれど、長義はあの南泉が自ら動いたという事実に胸を躍らせる。そういえば、彼はホテルを取っているのだろうか。どうせなら家に泊まってもらって、あ、でも荷物がないから、やっぱりホテルなのかも。なら料金が勿体ないかな、と思いながらしかしどうやって引きずり込んでやろう、と作戦を練っている長義に、南泉はすっと鋭く目を眇めた。

「そうかよ」
「ふふっ。あぁ、そうだよ。まぁでも、折角日本からここまできたのだから、教えてあげても――」
「じゃぁ、これで文句はねぇだろ」
「え?」

 想像した通り。ぶっきらぼうな返事に、長義は笑いを噛み殺しながら勿体ぶった素振りでニンマリと口角を持ち上げた。しかし、その余裕も南泉が問答無用で身を乗り出し、長義の手を掬い取ったことで掻き消える。見開いた目に、南泉の手元で鈍く光るものがキラリと反射した。
 南泉のごつごつと節ばった左手が長義の左手に添えられる。伸ばした白魚のような指先がピクリと動き、視線だけで動くなと牽制された。動くなと言われても、動けない。呆気に取られている間に、行儀よく並んだ指の一本にするりとなんの閊えもなく根本までそれが収まった。丁寧に押し込まれて、指の根元に今までになかった重みが加わり南泉の手が逃がさないように長義の手を握りしめる。

「好きだ。結婚しよう。…………にゃ」

 締まらない。最後の最後で零れ出たそれが、痛いほどの沈黙をもたらして南泉の肩がわなわなと震える。長義はポカンと呆けていたが、そのまろびでた語尾をからかう余裕もないのか、それとも気にしていられなかったのか、南泉に握られた手を振り払うこともできずにこれでもかと目を見開いていた。
 続く沈黙に耐え切れなくなったのか、羞恥が限界点に達したのか、顔を赤くした南泉はギリィ、と奥歯を噛み締めた。

「おい、こら。なんとか言え、にゃ!」
「…………………可愛い語尾だね」
「違ぇ!!おっ前…っ。そうじゃねぇだろ!?」
「だって!!!」

 やっと出てきた長義の台詞があんまりで、南泉の眦が吊り上る。怒鳴るように口調が荒ぶると、それを遮るように高い声が静かなアパートメントに響き渡った。その剣幕に、ハッと南泉も咄嗟に口を閉ざす。見つめた先の長義は、混乱と驚愕で必死の形相で唇を戦慄かせた。

「だって、そんな、いきなり、こんな…。どういうつもりなんだ、君は…」

 狼狽したように、潤んだ目で長義の顔がくしゃりと歪む。歓喜よりも、それはまるで恐怖や不安を覚えているようで…南泉は、俯いた長義にはぁ、と小さな溜息を零すと、握って離さないままの手にもう一度力を籠めてくん、と軽く手前に引っ張った。

「言葉のままだ。お前が好きだから、結婚したい」
「…っ」
「信じられねぇか?」
「だ、…って。君は、私のことを、」
「腐れ縁だよ。ずっと、ずぅっとな」

 きゅっと、下唇を噛み締めて俯く。それみたことか、と長義は目元に力を込めた。だから嫌だと言ったのに。それは嫌だと、伝えたのに。そんなものが欲しいわけではないのだと、言ったはずなのに。腐れ縁でいいなら、結婚など言わなくていいじゃないか。昔がいいなら、それで満足すればいいじゃないか。どうしてわざわざ、異国にまで来てこんなことをするのか。家族にでもせっつかれたのか。それとも、何か止むにやまれぬ事情でもあるのか。だとしたら長義を巻き込むなと言いたい。
 一度深呼吸をして、長義は南泉の手を振り払おうと力を入れた。どういう意図かはわからないが、少なくとも事情があるのだろう。不誠実なことはしないとわかっているので、わざわざ長義にプロポーズをした意味があるはずだ。傷つかないわけではない。むしろこいつ一度刺してやろうか、と思わなくもない。それと同時に、南泉にそう言われて歓喜に震えた自分の心臓を一番刺し殺したいと思いつつも、一応、話だけは聞いてやらないこともない、と寛大な気持ちで顔をあげかけて、握られた手が振りほどけていないことに気が付いた。きゅっと、眉根が寄る。

「南泉?」
「長船長義っていう腐れ縁を、愛してる」
「…え?」

 するりと、薬指の根元を撫でられた。そこには、南泉が長義に嵌めた指輪が収まっている。ふと、その指輪をちゃんと見ていなかったと気付いて長義は視線を落とした。そうして、はつり、と稚い仕草で瞬きをした。

「これ、」
「オレが、指輪を贈りたいって思った奴が欲しがったヤツ。同じもんじゃねぇけど、にゃ」

 そういって、宝物のように南泉の指が触れる。ごてごてとした、長義が身に着けるにはあまりに滑稽な、偽物の輝き。見る人が、なんて言わずとも、誰の目にもそれがちゃちな偽物で、子供だましの玩具なのだとわかる作りのそれ。
 おもちゃ屋で、例えば祭りの縁日で。よく見かけるような幼い少女が求める安っぽい玩具の指輪が長義の左薬指に収まり我が物顔で部屋の明かりを跳ね返していた。
 青い宝石を模したプラスチックは、長義の目をイメージしているのだろうか。土台の金メッキはどんな指のサイズにも会うように少し切れ目が入っていて、だからこそ長義の指にも無理なく収まっている。遠い記憶が揺さぶられる。それは前世という記憶ではない、長義と南泉の、幼い頃の記憶。初めて買い与えられた、南泉からの、贈り物。

「っ」

 うそだ、と声にならずに唇だけが動いた。嘘だ。だって、こんな。こんなやり方。

「いつか、本物をやりたいって思った。それは、南泉一文字じゃなくて、オレが、思ったことだった。…悪かったよ。気付かなくて」
「君は、鋭い癖に、時々、ほんとうに、鈍感だね」

 遅いよ。遅すぎる。不可だよ、と俯いた長義から零れる震える声に、南泉は眉を下げて悪い、と謝る。罵りも文句も、確かにそうだと納得して受け入れるしかない。なにせ生まれてこの方20年近く。それから加えてこの1年近く。これだけの時間をかけてしまったのだから、長義の罵りも甘んじて受けよう。
 けれど、それとこれとは別だ、とばかりにくん、と左手を引く。俯いた長義が顔をあげると、南泉はじっと彼女を見つめた。真っ直ぐに、逸らすことなく。金緑が、瑠璃を奪う。

「返事は?」
「…っしょ、しょうがないね。遅すぎるぐらい遅いし、本来なら期限切れだと言いたいぐらいだが、……この指輪に免じて、許してやってもいい」
「お前にゃぁ…あー…もうそれでいいよ。で?」

 溜息は、素直じゃない長義への愛しさに溢れている。しょうがない奴だな、という慈しみはもうずっと長義が南泉に与えられてきたもので、離れてから触れられなかった優しさだ。とくり、と動く心臓に、抗う術は長義にはなかった。

「私と、結婚してください」

 君の、お嫁さんになりたかったんだ。
 ずっとそれが、長船長義の変わらぬ夢だったのだと言えば、君はどんな顔をするのだろう。
 泣く寸前のような微笑みで。浮かべた涙で目は潤み、染まった頬は薔薇色で。握り返された手は華奢で柔らかくて、南泉は衝動のままに長義を引き寄せた。ガタリ、と音をたてて椅子が揺れる。思ったよりもけたたましい音はすぐにシン、と静まり返って、抱きしめられた長義は僅かに瞬くと、幸福の吐息を漏らして擦り寄った。背中に回った腕が、ただ、熱い。

「本物は、2人で選ぼうね」
「そうだにゃ。お前が好きな奴、選ぶか」
「ふふ。この国には素晴らしい宝飾店があるんだ。案内するよ」
「ん。楽しみにしてる」
「あぁ。楽しみにしてくれ」

 くすくすと笑い声が零れる。抱きしめあって、体温を分かち合って。
 さぁ、やっとスタートラインだ、と。長義は南泉に抱きつく力を強めた。返される力が増したことに、胸の中が言いようもない充足感で満ちていく。胸に顔を埋めて、とくとくとくと早鐘の心臓に恍惚と溜息を零した。


 覚悟しなよ、南泉。


 自覚したからには、これから長義が望むように、燃え上がる恋をしようじゃないか。