人形
なんだ特異点。ニヤニヤと気持ちの悪い顔をしてこっちを見るな不愉快だ。
・・・なに?昨日、とどこに行っていた、と?別に君には関係ないだろう。俺がどこに行こうと関係ないはずだが?なるほど、俺は関係なくとも彼女は君の妹だから関係がある、と。特異点は妹の行動まで把握していなければ気が済まないということか。違う?だが言ってることはそうだろう?俺と彼女が共に動いたからといってなんの障りがあるというんだ。・・・別に気に入っているわけではない。ただ、・・・彼女はあれで珈琲への造詣が深い。淹れるのも上手いからな。その点では他の者よりも多少話が通るというだけだ。
俺は部屋に戻らせて、・・・・・・・・おい、服の裾を掴むな。だから!別に何もないと言っているだろう?!放さないか特異点!!・・・くっ、この馬鹿力め・・・そのジョブを変えろ!!何故そこまで詮索したがるんだ・・・は?俺と話がしたい?馬鹿か?君は。俺と話したところで得るものなど・・・そういうことではない?なんなんだ、一体・・・。
あぁわかった、わかった。話せばいいんだろう。全く、君といい蒼の少女といい強引な人間ばかりだな、ここは。彼女はそんなことはないというのに・・・そうだな、ただ話すのも癪だ。飛びっきりの珈琲を飲ませてやろう。無論、砂糖もミルクもいれずに、な。どうした特異点。顔が引き攣っているぞ?嫌ならさっさと服を放して、・・・はぁ。そうか。君も大概強情だな。・・・・・。ほら、淹れてやったぞ。とくと味わえ。それが町に出かけた理由だからな。あぁ、そうだ。珈琲豆が減ってきていたからな、補充に出ただけなんだが・・・別に示し合わせてと共に出たわけではない。偶々町に出たら遭遇しただけだ。彼女は珈琲ではなく紅茶を求めていたようだがな。その後は、・・そうだな。珍しいものをみた。
人形供養、というものだ。どういうものかだと?古くなった人形やぬいぐるみなどお役目を終えたものを供養する儀式だと、彼女は言っていたな。簡単に言うと、とも。要するに不要なものを体裁よく言い換えて処分しているにすぎないのだろうがな。人間とは不都合なものや醜いものを美化して己の都合の良いものに変える天才だな。君もそう思うだろう?・・・ふん。まぁ、あの町の人形供養は多少形が違っていたようだが。先に言ったように、人形供養は古くなった人形、壊れたぬいぐるみ等を供養するための儀式だ。そこには多種多様なものが集まるのだろうが、俺がみたのは全て同じ人形を櫓の火にくべている光景だ。そうだ、全て「同じ」人形だ。・・・特異点。さっきから珈琲が減っていないようだが?冷めてしまっては美味しさも半減してしまう。熱い内に飲むといい。・・・おい。もっと味わって・・・はぁ。なるほど、それほど気に入ったのであれば特別に2杯目を淹れてやろう。いらない?遠慮をするな。話が聞きたいのだろう?くくっ。君は本当に、いや。なんでもない。それで、あぁ続きだな。とはいってもそれだけだ。あの町の人間は何故だか知らないが多くの家が同じ人形を持ち、時期がくると供養といって1か所に集めて燃やす。そういう風習があるというだけの話だ。不思議?そうだな、確かに不思議な話だが、それが風習というものではないのか?一見しては異様ともいえるが、中から見ればそこにいる人間からは極当たり前のことだ。外から来たものが異常だ変だと騒ぎ立てるのはナンセンスというものだろう。
まぁ、変なものは変だがな。なんだその顔は。思うことは自由、なのだろう?そもそも、その人形が変わっている。形だけを象り、顔のない人形など好き好んで飾る人間の気が知れんな。あぁそうだ、その火にくべられていく人形の全てに顔はなかった。その癖やけに形は精巧に人を模している。ご丁寧に関節球までつけて動くようにしているのだから、そこまで丁寧に作るのなら顔の1つや2つ入れてやればよいものを。そんなものが大量に集められて燃やされているんだぞ。正直言って不思議というよりも不気味だ。あの場の空気も異様だったしな。誰もが口を噤んで一言も発しない。俯いて燃える人形を見ようともしない。どんどん人形は火に投下され、黒煙だけが天に昇っていく。火の勢いは衰えることなく、けれど煙は影のように揺蕩いながらぐるぐると渦を巻いている。・・・異様だったな、あの空間だけは。
・・・そういえば、あの中で1人だけ、燃える人形を見ている奴がいたな。まるで決まり事のように全員が俯いている中で1人だけ。まだ幼かったからだろう。好奇心にでも駆られたのか、顔をあげて・・・魅入られたように炎を見つめていた。いや、あれは・・・人形を見ていたのか?それに、あの様子をみていたもやけに険しい顔を・・・まぁ、どうでもいいことだな。俺には関係ない。
ん?どうした特異点。その人形をお前も貰っただと?・・そういえば、町中で何か配っている奴がいたな。あんな気味の悪いものを受け取るとは大概お人好しだな君は。俺はどうしたって?断った。いらないからな、あんなもの。見るからに気持ちの悪い人形を受けとる方がどうかしている。善意だろうとなんだろうと不要なものは不要といっただけだ。も受け取ってはいなかったぞ。苦笑いしていたが、受け取らない方がいい、とも。観光地では強引に押し付けて金銭を請求する性質の悪い押し売りがあるといっていたからな、それを警戒していたんだろう。それで?君は金銭は請求されなかったのか?・・っはっ。されたのか。それみたことか。なんでもかんでも受け取るからそういうことになる。妹に伝えておいてやろう。やめてくれ?さて、どうするかな。珈琲のお代わりが欲しい?ふむ。なら今度は違う豆で淹れてやる。君も味がわかるようになるといい。
その後はどうしたって?普通に別れて艇に帰った。はどうしたんだって?さてな。用事ができたとは言っていたが、それに付き合う義理もないからな。普通に別れたさ。・・・なんだその顔は。本人がついてこなくていいといったんだ。ならばそれに従う、・・・待て。忘れろ。別に流れだ、そういう会話の流れになっただけの話だ。そのニヤニヤした顔をやめろ特異点!!・・・あぁ、わかった、そういうことならばこちらにも考えがある。・・・特異点の妹!こいつがさっき――