鏡
パチン、とどこかで泡が弾けるような音がした。
いや、そんなような気がした、というだけか。呆けたようにパチパチと瞬きをして、目の前の食べかけの食事を見下ろす。今日の料理のメインは鶏もも肉のソテーにオレンジソースをかけたものだ。瑞々しいサラダリーフに鮮やかなパプリカと紫玉ねぎのサラダにかかったドレッシングは確かキッチン担当の手作りだったか。甘みの強いコーンをふんだんに使用したコーンスープは、かといって濃厚すぎもせずに丁度良い。
相も変わらずこの騎空団の料理のレベルは高い。食が満たされることは非常に良いことですね、と思いながらじっとオレンジソースのかかった鶏肉を見下ろしていると、カタリ、と椅子を引く音がして緩慢に顔をあげた。上げた視界に、この艇の団長とその相棒の小龍、それから団長の愛し子といっても過言ではない青い髪の少女が座り、不思議そうな顔で私を見つめていた。
「どうしたんですか?ルシオさん。ぼぅっとして」
「手が止まってるぜ?」
青い髪の少女と小龍の問いかけに、一度瞬きをするとにこり、と笑みを浮かべる。団長はすでに私と同じメニューを切り分けていたが、視線が同じように問いかけてくるものだったので、微笑みを浮かべたままいえ、と言葉を濁した。
「今日の昼食担当は誰だっただろうか、と思いまして」
「今日?今日は確かエルモートとアルルメイヤと、ヴェインだったよ」
「・・・その3人だけ?」
「うん。ローアイン達は夕食を担当することになってたはずだから」
それが?とばかりにこてり、と3人の首が倒れたところで、そうだっただろうか、と思うものの、振り返ってみたキッチンの中には確かに忙しそうにしている3人の姿しか見えない。小さなハーヴィン族の彼女が、恐らく台にでも乗って配膳をしている姿を横目に捉えながら、一層口元の笑みを深めた。
「今日の食事も絶品だな、と思っただけですよ」
「はい!今日もご飯がとっても美味しいですっ」
「夕食も楽しみだよね。お昼がお肉だから、夕飯は魚とかかなぁ」
「オイラは林檎があればなんでもいいぜー!」
もう、ビィってばそればっかり、と笑う姿を目を細めて眺めつつ、もう一度キッチンに視線を向ける。忙しなく動く3人が、ようやく余裕ができたのか談笑している姿を視界に入れ、じっと見つめるがその様子は変わらない。男が2人に、女性が1人。女性はハーヴィン族なのでヒューマンの子供と同じぐらいの背丈で、台にでも乗っていなければキッチンの影に隠れて姿も見えやしないだろう。ぱちり、と瞬きをしてから視線を逸らし、食べかけのソテーに再びナイフを入れた。すんなりと切れるのは良い肉だからか、ナイフの切れ味が良いからか。
口に運べば肉の旨みにオレンジソースの酸味が舌の上で蕩けて、美味、という単語が脳内を巡る。
「美味しいですね」
だけど、何かが足りない。そんな気がした。
※
違和感、とは1つ気になれば存外に他のことでも感じるようになるもので。
それはとても些細な、そう、なんてことはない一瞬のことであったり、次の瞬間には忘れてしまうような小さなことであったり。ただ、妙に座りが悪いな、と思う瞬間があるだけだ。
それは瞬きの内に消えてしまうようなものだったから、大して気にしていないといえば、確かにそうなのだけれど。それでも、数が重なればそれなりに、やはり気にはなってくるというもので。違う、というよりは、足りない、と思うのだ。まだそう長くこの艇に乗っているわけではないし、自分が乗船してからも、いくらかの出入りがあったので(思いの外、この艇の団員は自由で、自分の好きなように依頼を受けては乗ったり下りたりをしている)別段人数の増減については気にもしていなかったはずなのだけれど。時には食客として一時的に艇に乗るような人間もいるので、グランサイファーの団員はあまり安定していない。しいていうなら、初期団員、とも呼べる仲間だけは、常に団にいるようだが、それ以外は比較的長くいるものもいれば、時折現れては消えるような人間もいる。
変わった艇だな、と乗った当初は思ったものだ。あまりに多くの人と、種族と関わり、全てを受けいれる癖に、全てを縛りつけもしない。止まり木のようだ、と思う。大空を行く止まり木。ほんの少し、羽を休める場所を提供して、いつか飛び立つ時の邪魔もしない。それはこの艇を束ねる人間がそのような気風のものだから、この騎空団もそのようになっているのかもしれない。悪くはないと思う。そういうおおらかな艇だからこそ、このように人が集い、慕い慕われ、縁を繋げていくのだろう。悪くはない。好ましい。良い艇だ。変わってはいるけれど。・・・けれど、可笑しい、と思う。何が、とは言えない。どこが、とも。
ただ、例えば、食事の時。料理を作る人間の中に、もう1人、いたように思う時もあるし、味も、もっと違ったように感じる瞬間がある。けれど、先述したようにこの艇は存外に出入りが激しいので、もしかしたらもう艇から降りた団員のことかもしれないし、ただそう思っただけで、それが誰、などと明確に思い浮かびもしないのだから気のせい、で終わる範疇の話だ。
例えば、団長が仕事をしている時。若いとはいえ一騎空団のトップを務めるのだ。その仕事量は馬鹿にならないし、団長でなければならない内容もあるだろう。部屋に籠り、慣れぬ書類に四苦八苦していたり、依頼によって向かう人員を選抜したり、中のいざこざや不満を上手く纏めたり。そういう仕事をしている時に、ふと、それは団長がしていたことだろうか、と思うのだ。いや、しているはずだ。して当然のことで、何も不思議に思うことは無い。その姿は良く見ているし、そこに違和感はないのだけれど、ただ、もっと効率よく、手際よく、誰かがサポートをしていたような。無論、団長1人に背負わせてはいないし団員の誰かが手伝う光景もよくみるのだけれど・・・それとは別に、もっと内政に向いたものがいたような、そんな気もする。
例えば、艇の備品の管理とか。誰かが聞いて、どうだったか、などと話を聞くと、あの人に聞けば早いのに、と思う瞬間がある。けれどそう思う一方で、その「あの人」がわからなかった。そう思ったけれど、具体的に誰が、というのが出てくるでもなく、何故そう思ったかもわからない。結局備品の件は偶々知っている人間や自分達が確認することで事なきを得ていたが、過ぎった考えが妙なしこりとなって残ったことを覚えている。
そうやって、少しずつ、ちょっとずつ、違和感を感じて、些細なことが、気にも留めなかったことが、形を成していく。降り積もった何かが、山のようになってきたところで、目についたのは、グランサイファーの「物置部屋」だった。
はて。今まで、あそこにあんな部屋があっただろうか。思わず廊下の真ん中で立ち止まり、首を僅かに傾げる。鍵がかかっている風でもないドアの前で、何時からこのドアはあったのだろう、と考えて、何時からというのは可笑しな表現だと気づく。
まさか後から増設された場所でもあるまいに。あるとしたら「最初から」だ。だというのに、今まで何度も通ってきた場所だというのに、何故今更この部屋が目についたのだろうか。
「ふむ」
考えるように顎先に指を添え、そっとドアノブに手をかける。誰かの部屋なのか、それとも別の用途の部屋なのか。一通り艇の説明は受けたはずなのだが、記憶を浚ってもこの部屋が誰のものでどんな用途のものだったか思い出せない。まるで突然に現れたかのように、静かにそこに佇むドアの存在は不可解だ。わからないならば開けて確認すればいい。それぐらいの軽い気持ちでかちり、とドアノブを回した瞬間、背後からかけられた声にびくん、と肩が跳ねた。
「なにやってるの、ルシオ」
「・・・団長」
後ろを振り返ればあどけない茶水晶の瞳がきょとんと瞬きながら己を見上げており、その眼差しの真っ直ぐさにたじろぐようにドアノブにかけていた手をそろりと放した。
瞼を縁取る睫毛がしきりに瞬き、大きな丸い目が一度逸れると、やはり不思議そうな声音で団長が首を傾げた。
「そこ、物置部屋だよ?」
「物置部屋」
「使わなくなったものとか、壊れたものとか、そういうのを置いておく部屋。前にルシオにも説明したと思うけど・・・」
「そう、でしたか?・・そういえば、中を見たことがないな、と思ったもので」
「そうだっけ?でも、そういう部屋だから見ても面白くないよ。次の島ぐらいで、この部屋の中も片付けようと思ってるし」
「片付け・・・?」
「そう。要らないものの部屋だもの。中の物もいい加減捨てないとね」
そういって笑うと、団長はそんなことより、おやつの時間だからルシオも行こう、と誘いをかけてきて、促されるまま部屋の前から遠ざけられた。自然と繋がれた手で引かれつつ、ちらり、と後ろを振り返る。物置部屋、というからには、中から誰が開けるわけでもない部屋は沈黙していて、やや薄暗い廊下の影に溶けるように馴染んでしまって。
・・・あそこは、本当に、物置部屋だっただろうか。そんな疑問だけが、ちらりと脳裏を横切った。
※
いい加減、この奇妙な違和感に終止符を打つべきだ。
漫然とした心地のまま過ぎていく日々にそう思い立ったのは、ある意味必然というものだったのかもしれない。心地の良い空の旅、荒れるでもなく平穏なその日々の中で、チリチリと降り積もる違和感は、最早見過ごせないほどに大きな山となって己の胸の内に聳え立っていた。
塵も積もればなんとやら。1つ1つはなんてことのないものばかりだ。けれど、積もり積もればそれらは大きな違和となって己を蝕んでいく。あの物置部屋の前を通る度、己の認識と周囲とで齟齬が生まれる度。ふつふつと湧きあがるものが、無視できないものへと姿を変えていき、胸の内に巣食うそれがいつか取り返しのつかない何かに変容してしまいそうで、僅かな恐怖に突き動かされるように、件の部屋の前に立っていた。
「ここに、答えがあるといいんですが」
物言わぬ扉の前で、僅かな希望に縋るようにひとりごちた。
まぁ、本当にただの物置部屋かもしれないのだけれど、その時はその時である。むしろ、そうであると確信さえできれば、このなんともいえない違和感や居心地の悪さもなくなるような気さえしている。全ては、この部屋の中を確認できれば。一応、周囲に自分を呼び止めるような人影がいないことを確認して、そっとドアノブに手をかけた。ふと鍵がかかっていたらどうしようか、とドアノブの下にある鍵穴をみて思ったが、ガチャリ、と回ったノブにそれも杞憂だったかとほっと胸を撫で下ろす。引っかかることもなく回りきったドアノブを固定して、ゆっくりと力を入れてドアを押す。蝶番が軋むような音もなく、すんなりと開いたドアの隙間から、長いこと掃除をしていないのか、いささか埃っぽい部屋の空気が流れ出た。
廊下の明かりが薄暗い室内に差し込むように筋を伸ばす。自分の影が同様に部屋の中で長く伸びると、私はひっそりと息を呑んだ。
「これ、は・・・」
言葉を詰まらせながら、そっと部屋の中に踏み込む。きし、と踏み締めた床板が小さく軋み、ぐるりと中を見渡して、息を吐き出した。
部屋の中は、物置部屋とは言い難い有様だった。明り取りの窓の下には艇に備え付けられているベッドが置かれ、壁際には書き物用のテーブル、本棚と備え付けられ、反対側には背の低い衣装箪笥が置かれている。端の方には鞄やコートをかけるポールラックが静かに佇んでいた。
物置部屋などととんでもない。明らかに、「誰か」の私室だった。
「部屋の主は・・・女性・・・?いえ、でも、何故・・・?」
ラックにかけられているコートや鞄、ベッドのシーツなどを見ると、部屋の主はまだ若い女性のように思える。そっとベッド脇まで近寄り、綺麗にメイキングされているベッドのシーツに触れて眉を潜めた。これは、問い詰めるべきだろうか。明らかに誰かの生活の形跡がある部屋を、「物置部屋」などと称して近づけないようにしていたのか。
要らないものの部屋。そう言って笑っていた団長の笑顔が脳裏をちらつき、ぞくりと肌が粟立った。咄嗟に二の腕に触れて撫で擦ると首筋に視線を感じて、はっと後ろを振り向いた。
そこには、扉の影になって丁度死角になっていたのか、小さなアンティークのドレッサーが置いてあった。本来ならば閉じられているだろう三面鏡が開いていて、自分の姿が克明に映りこんでいる―――はずだった。
「っ」
息を呑み、目を見開く。鏡は、克明に部屋の中を映していた。丁度鏡の正面に位置するベッドも、窓も、壁も、天井も床も。斜めに開いている左右の鏡も、それぞれ壁や棚、ドアを映しこんでいるのに、たった一つだけ、映していないものがある。
「な、ぜ・・・」
カラカラに乾いた口内で貼りつく舌を動かし、震える声で呟いた。全てを写し取る鏡には、「私」の姿だけが映っていなかった。まるでそこにいないものであるかのように、佇む己の姿だけを綺麗に除いて、三面鏡は静かに己の仕事をこなしている。
なんだ、この鏡は。何故。どうして。自分の姿を映さない。信じられないものを見つけた心地で、よろよろと鏡の前まで歩いた。しかし、近づく自分の姿を映すことは無く、触れられるほど近くに立ったというのに、相変わらず鏡は部屋の中だけを映して、私の姿は一向に映さない。混乱の極みだ。何故、鏡が、鏡なのに、己を映さないのか。綺麗に磨かれた鏡は手入れもきちんとされているのだろう。曇り1つもなく美しいのに、ぞっとするほど不気味だ。
これは本当に鏡なのか?そんなことさえ考え始めた刹那、ぎし、という足音が響き、息を止めて振り返った。
「なにやってるの、ルシオ」
「団、長・・・」
切り揃えられた柔らかな金髪を揺らし、廊下の明かりを背に少女が佇んでいる。・・・少女が佇んでいる?
「・・・ぁ」
「ここ、物置だって言ったのに。わざわざ入るなんて、変なルシオ」
コロコロと笑いながら近づいてくる団長から無意識に右足を後ろに引いた。
ずり、と足裏を擦り付けるように後退しながら、まじまじと少女・・団長を見下ろす。
淡い金糸を襟足で切り揃え、ピンクのバンダナで洒落っ気をだし、細く白い首筋から続く鎖骨と、華奢な肩幅。女性特有の胸部の膨らみに、きゅっと絞られた腰からなだらかに続く臀部と、ピンクのスカートから伸びる白い足。戦う者故、多少筋肉質にも見えるが女性であるが故の柔らかな脂肪の乗った太腿を晒して、目の前で笑う少女は自分が身を寄せる騎空団の団長である。そうであるはずだ。いや、
「貴方は、」
「え?」
知らず、問いかけが滑るように唇から零れ出る。きょとん、と瞬く表情は、確かによく似通っているけれど、あぁ、しかし、あまりにも違う。じっと見つめてくる茶水晶の瞳も、ともすれば同じなのでは、と思うほどによく似た煌めきをしていたけれど、自分の中で違いに気づいてしまったらもうダメだった。これは違う。この者は違う。これは、「私」の団長殿ではない。
薄らと笑みを張り付けて、唇を震わせた刹那。
「ルシオさん。探しましたよー」
いささか呑気な声が、私を遮るように割って入り咄嗟に言葉を飲み込むと揃って視線を後ろに向けた。
開けっ放しの部屋のドアから、僅かに身を乗り出すようにして、見知らぬ少女が、・・・見知らぬ少女?
「・・・・・・・・・・・・・・?」
「え?だ、誰?」
「あー・・・ギリギリだったかな。ほらほらルシオさん。早くここから出ましょう」
長らく間を開けて名前を呼ぶと、少女が僅かに顔を顰めてちょいちょい、と手招きをした。その手招きに誘われるように団長、いや、こちらこそが見知らぬ少女である彼女の横を通り過ぎると、呆気に取られていたのか意表を突かれて思考が停止していたのか、固まっていた少女が慌てたように声を上げた。
「ルシオ!?え、なに、誰なのその子?!」
「誰、とは可笑しなことを聞きますね。この艇の総料理長ではないですか」
「え?は?総料理長??」
「いや、違うし。そんな大層な役職貰った覚えはないから」
「おや、そうですか?この艇の料理番といえば、真っ先に貴方の名前が出るものだとばかり」
「長くいるだけで、専門職でもないんだけどな・・・いいから、早くおいで。時間がなくなりますよ」
溜息を小さく零し、呆れたように目を半目にした彼女はドアから半身を乗り出したまま、促すように手を差し伸べた。専門職であろうとなかろうと、この艇の誰に聞いても、この少女こそが艇の食を預かるものだと答えるだろうに。自覚がないのか、わかっていてあえて目を逸らしているのか。往生際の悪いことだ、とふふ、と笑みを浮かべるとぐっと刻まれた眉間の皺に、おっと、と急いで差し伸べられた手を取った。ここで手を引っ込められたら堪ったものではない。離さないように、ぎゅっと強く握りしめると少女ははぁ、と1つ大きな溜息を零して、ちらり、と私の後ろを見た。
つられて後ろを向くと、ポカンとしている間の抜けた顔があり、思わず笑みが零れる。ふむ。よく似ていますね。まぁ、似ていても、私にとっては意味がないことではあるのだけれど。
「さようなら」
私の団長ではない、団長さん。
餞別、とばかりに華やかに微笑んで見せて、ひらひらと手を振った。そして、彼女に手を引かれるままドアの向こうに出て、そのドアが閉じる瞬間「待って!」という呼び止める声がしたが――振り返りもせず、パタン、と閉ざされた音がすると、一切の音が掻き消えた。代わりに、慣れ親しんだ艇の廊下が長く伸びるだけで、手を繋いだ先には何かを考えるように顎先に手をあてる少女がいる。その旋毛を見下ろして声を駆けようと口を開くと、一瞬にしてパっと少女が顔をあげた。
「あ、いたいたルシオ、!おやつが出来たって、ローアイン達が探してたよ!」
ぶんぶんと手を振って、廊下の先からこちらに駆け寄ってくるのは・・・見慣れた、「私」の団長だった。茶色い短い髪を跳ねさせて青いトレーナーに快活な笑顔。体つきはまだ成長途中のものながらもっと固く筋肉質で、肩幅だって広い。間違っても胸部の膨らみなんか欠片ともない、そこにいるのはただの少年である――ただ、きらきらと輝く瞳だけは、とてもよく似ているな、と思って。
「・・・帰って、きたんですね」
眩しげに瞳を細めて、口角を引き上げた。その呟きが聞こえたのか、見上げてきた視線を見つめ返すように見下ろして、そっと背を丸めて少女の耳元に唇を寄せる。びくっと跳ねた肩にくすりと笑って、注ぎこむように囁いた。
「あとで、説明してくださいね?」
うわぁ、とばかりに歪んだ顔が面白くて、くすくすと笑うと団長が不思議そうに瞬いた。
「え?どうしたの?」
「なんでもありませんよ。あぁそうだ、団長。この艇の総料理長は誰だと思いますか?」
「総料理長?・・・でしょ?」
「違うよ!?」
渾身の否定も意味を為さないなんてわかりきっているだろうに、本当に往生際の悪い裏団長さんですね。