熱く胸を焦がし続ける
「、!この服どーぉ?」
言いながら目の前でひらりとスカートの裾を広げながら回転してみせたロードに、読んでいた本から顔をあげた。くるっと華麗な一回転を決めて、正面に向き直ったロードの胸元でワインレッドのリボンが揺れる。返答を待つかのように頬を紅潮させ、後ろで組んだ両手でじっと上目遣いにこちらを伺う様子に、しげしげと見渡してニコリと笑みを浮かべた。
「可愛いよ。ロードによく似合ってる」
「ほんと?!」
「ほんとほんと」
子供だからこそまだ肉付きがいいとはいえないけれども、パニエで膨らんだ短いスカートから覗く足は細いし、すらっとしていてまるでカモシカのように躍動的だ。まだ膨らみの欠片も見えない胸だが、補うようなフリルとレース、それに大きなリボンは十分に愛らしい。半ばトレードマークのようであった、ボーダーのニーハイソックスは今回はやめて、編み上げのブーツからチラっと見せているレースのハイソックスもポイントは高い。本の間に指を挟んで、椅子をきしりと軋ませながら目を細めれば、ロードは白い頬を赤く染めて極まったように飛びついてきた。予期していた行動だったから、なんなく正面から受け入れて、首に齧りつくロードの頭を軽くぽんぽんと撫でる。その後ろで、レロが器用にも顔面を蒼白にさせて泡食って声を張り上げた。
「ロードたま!!たまに抱きつくなんて恐れ多いレローーーー!!」
「知ってるよォ。でも、が抱きついてもいいって言ってくれたから、抱きついてるんだよ」
でなければ抱きつけない、とぎゅうぎゅうと体を押し付けてレロに反論するロードに、別に抱きつくぐらい気にしないしねぇ、とぼそりと呟いた。これが男だったら笑顔で切り捨てるが、小さな女の子相手だ、大した重みでもないし、そもそもロードは私が嫌がるようなことはしない。でもでも!と傘の部分をくねらせながらどうにかしようとしているレロに、ふ、と口角を持ち上げてゆっくりと手をあげて言葉を遮った。
「いいのよ、レロ。下手に距離置かれるよりこれぐらいの方が気が楽だから。最初はこんなスキンシップしてくれなかったしねぇ?」
「・・・に簡単に抱きつけるわけないでしょー。自覚してないんだからァ」
ぷくり、と頬を膨らませてそっと首に回した腕を外し、自分の胸に手を添えるロードがぎゅっと胸元を握り締める。その位置にある心臓に目を細めながら、そう言われてもねぇ、と苦笑を零した。生憎とそんな触れるのも恐れ多い、なんてそんな対象に自分がなるほど立派なものだという意識はないし。いや、まあ秘色やらレイムやらバルレル他諸々の行動で免疫はついてるけど、世界を越えてまでこうされるとむず痒い。まあ、あちらよりはまだこちらの方がフレンドリーだからいいんだが。あぁでも、最初の頃は似たり寄ったりだったか。説得したからこそここまでになったわけだし。それでも、知っている。触れる手の震えがなくならないこと、一瞬、どうしても一瞬、躊躇いが生まれること。緩やかに笑んで頬を軽く撫でれば、ロードは頬にパッと朱を走らせて、潤んだ目で恍惚の吐息を唇から零した。
「ねぇ。折角着替えたし、と一緒に外に行きたいけど・・・だめぇ?」
「んー今はちょっと本が読みたいんだけど」
「じゃあじゃあ、本を読み終わったら、一緒にいってくれる?」
「あぁ。まあそれなら別にいいけど・・・ちょっと時間かかるかもよ」
「全然構わないよぉ!といられるなら、何時間だって、何十時間だって、ずっとずぅっと待ってるから」
力強く断言され、私はいや、そんなには待たせないけど、と言い返しながら、じゃあ終わったら呼ぶから好きにしてていいよ、と小首を傾げる。ロードはここにいる!と言って私の正面の椅子に腰を下ろした。ばふっと勢いがついてスカートがひらりとまたしても翻るのに、小さく口角を持ち上げて、テーブルのお茶菓子をつい、と指で示した。
「じゃあ、お菓子でも食べて待ってて。暇だったらそこにも本があるから、それ読んでてもいいからね」
「うん」
言えば、ロードは心底嬉しそうに頷いて、お菓子に手を伸ばして捻ってある包装紙をくるりと回して解いていく。その動作を見た後で、閉じていた本を再び開いて活字に視線を落とした。
「ロードたま、本を読むレロ?」
「まさか。を見てたほうが本を読むより有意義だよ」
そういって、蕩けるような幸福を浮かべてみせた。