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はさーとぉーってもズルくて卑怯で酷い人だと思うんだぁ、ボク」
「中々に最低な評価を貰ったわね、私」

 そういって、面と向かって罵られたにも関わらず微笑むに、ボクはやっぱり酷いひと、と目を細めた。ベッドの上に押し倒され、白いシーツに漆黒の髪が広がっている。結わえたままだと痛いだろうから、解いた髪はたっぷりと流水のようにしなやかにの頬を、首筋を、背景を、彩って飾り立てていた。やっぱりには黒がよく似合う。黒こそが、のための色だと信じて疑わず、うっとりと目元を染めた。
 の上、腰の辺りに跨り、広げた足のせいで短いスカートがより大きく広がる。もしかしたら下着が見えているかもしれない。薄ピンクと黒のボーダー。小さなリボンとレースの縁取りがしてあるお気に入りの一品だ。だから見られてもオッケー。むしろそれで欲情してくれたら嬉しいけど、だからきっとそれはないんだろうなぁ、と思うと切なかった。きゅん、と震えた心臓を服の上から握り締めて、きつく皺を寄せる。

が許してくれなかったら、こんなことボクしないし」
「そうね」
「こうやって触るのだって、本当はすごくドキドキしてるし」
「指が震えているものね」
「―――どうしてそんなに優しくしてくれるの?」

 決して、受け入れてなどくれないくせに。泣きそうに笑って、ぎゅっと胸元の服を握り締める。
 きつく皺を寄せて、じっと見つめるとは艶やかに微笑んだ。赤い唇が弧を描く。
 夜色の双眸が笑みを浮かべる。ほんの少しのからかいと、大多数の本音を混ぜて。
 ――あぁ、ダメだ。

「ロードが好きだからよ?」

 やっぱり、酷いひと。零れそうになった涙を誤魔化すために、体を倒しての胸元に顔を埋めた。
 ぴったりと体を寄せ合い、密着して、隙間なんてないほどに。顔を横にして、耳を下にして。左胸に押し当てると、とても柔らかな感触。そして聞こえる、憎らしいほどに平時と変わらない心音。とくん、とくん、とくん。ボクの心臓は壊れそうなほどに脈打っているのに、の心臓は全然、何一つ、変わらない。こんなにドキドキしているのはボクだけで、はボクにドキドキなんかしないのだ。
 ポロリと涙を零して、ぎゅっとの服を握り締めた。くしゃくしゃに皺を寄せて、ひどい、と呟く。苦笑する気配が伝わって、視界の横で動いた腕が、優しく頭を撫でた。

「ロードが好きよ」

 言葉に含められた意図は決して欲しいものではないのに、だけどその響きだけで幸福が押し寄せる。幸せだった。幸せだった。幸せすぎてどうにかなりそうで、幸福とはこのことだと実感して。
 心臓の高鳴りが止まらない。いつか壊れる日がくるのならば、どうかこの腕の中で果てたいと望んだ。この人の腕の中で死ねるのならば、死など恐れるに足らない。目的が果たせずとも構わない。あぁ、それとも、腕の中だなんて贅沢はいわない。ただ一時、その瞬間を視界に納めて貰えたのならば。それは紛れもない幸福であったのに、けれどひたすらに悲しくて仕方がなかった。すき、と同じ言葉を返しても、すき、に込められた意味は決して重ならない。だから声もなく泣いた。変わらない心音を聞きながら、暖かな体を抱きしめて、唯一無二に焦がれてボロボロになりながら。与えられる甘美な幸福と残酷な仕打ちに、自分は縋りついて微笑むのだ。甘えるように頬を摺り寄せて一杯に彼女の匂いを肺に取り込む。頭を撫でる手の動きが心地よい。瞳を閉じて、目尻に溜まった涙をまた一つ、落として微笑んだ。
 このまま、の一部になれたらいいのに。