人も歩けば人に当たる 4
今日は計り知れないことがやけに多いな。
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目の前でニコニコと細い目で笑みを浮かべる、なんとも和風な格好をしたお兄さんを前にして私は平仮名で書かれたメニューを片手に顎に手を添えた。左隣ではバルレルが至極面白くなさそうな顔でそっぽをむき、右隣ではハサハがピクピクと耳を動かして嬉しそうにお兄さんの手元を見ている。
「ご注文は何にしますか?」
「そうですねぇ。ハサハは何がいい?」
「・・・・お揚げ」
「ふむ。バルレルは?」
「酒」
「はいはい。キツネ二つに天ぷら一つ。ついでに稲荷寿司があったらそれも一つ」
「おい待て一つもオレの意見が入ってねぇぞ」
「承りました。ちょっと待ってくださいね」
「おい、こら待てっつってんだろ!何聞かなかったことにしてんだテメェ等!!」
バルレルの抗議を二人で快く聞き流しながら早速作り出したお兄さん・・もといシオン大将の手際をぼんやりと見つめる。ハサハはお稲荷さんとキツネのW揚げがよほど嬉しいのか、ぱたぱたと尻尾を振って口元を綻ばせていた。うーん。それにしてもなんだ。
「まさかこんな所でお蕎麦の屋台に出くわすとは思いもよりませんでした」
「おや、さんは蕎麦を知ってるんですか」
「えぇ。故郷に全く同じものがあるんで」
聞きとめたシオン大将が興味深そうに訊ねかえすのに、こくりと頷きながら答える。少し汗のかいたお冷やを片手に喉を潤して、喋りながらも流れるような動きで蕎麦を湯掻くシオン大将の姿はほれぼれするぐらい職人だなぁ、と頬杖をついた。
やや昼時も外れている時間帯故か、丁度客足が途切れた時に通りかかったのか。私達の他にお客もいない屋台のカウンター席はガランとしていて、ただ町の雑多な喧噪と蕎麦を湯掻く鍋の音が聞こえるぐらいだ。そんなのんびりとした時間だから、大将も私たちの相手をする余裕があるのだろう。湯掻いた蕎麦をぐるぐるとかき混ぜて、シオン大将ははて、と小首を傾げた。
「故郷、と言われるとさんはシルターンの?」
「いやいや違いますよ。召喚獣には変わりないですけど」
「ほう・・。それは・・・もしかして、名も無き世界、ですか?」
少し手を止めたけれど、すぐさままた動き出して今度は天ぷらを大将は揚げ始めた。大きな油の音にびくんっとハサハの肩が跳ねる。私は、いともあっさりと名も無き世界と言い当てた大将に向かって瞳を細めた。
「へぇ。よく知ってますね。名も無き世界だなんて」
「こういう商売をしていると、やっぱり色々噂話は耳に入ってきますから」
「なるほど」
情報屋になれそうだね、それは。表は蕎麦屋の店主、裏は有能な情報屋。果たしてその実態は!みたいな?あはは。こんなファンタジーな世界ならそんなことも当たり前かもしれないなぁ。ま、とりあえず腹ごしらえ腹ごしらえ。
「お待ちどうございました。キツネ二つに天ぷら一つ、稲荷寿司はもう少し待ってくださいね」
「あ、どうもー。そうだ。小さい御椀ってあります?」
「小さい御椀ですか?ありますけど・・・」
「どもども。ほら、ハサハ。こっちに取ってあげるからそれで食べようね。バルレルもそうする?」
「するか!!餓鬼扱いすんじゃねェよッ!!」
見た目は思いっきり子供なんだけどねぇ。思うけど口には出さない。口に出したら確実に怒るからね。そう思いつつ(視線が痛い)パキン、と割り箸を割って蕎麦に箸をつける。
ハサハも美味しそうに御揚げに噛り付く辺り、キツネは揚げが好きというのはもしかして異世界でも通説なのかもしれない、とかどうでもいいことを考えた。実際本当にキツネが油揚げが好きなのかは知らないけど。少なくともハサハは大好きみたいだ。あーていうか。
「美味しい」
「それはよかった」
「私今まで蕎麦よりもうどん派だったんですけど・・・大将の蕎麦は美味しいですね」
「それは光栄ですね。そこまで言って貰えると作り手として本望ですよ」
バルレルもぶつぶつ私に対して悪態をついているものの、蕎麦自体に文句はないのか黙々と食べてるし。ハサハは心底嬉しそうだし。あぁ、本当に美味しいなぁ。
ずるずる、と音を立てて食べながらお揚げを頬張る。いやマジ美味。この麺の歯応えといい、ダシ汁の旨味といい、揚げの汁の染み込み具合といい・・・・文句ないね!
まあ理屈こねても結局行き着く所は美味いという所にしかないわけで。美味しいなぁ。
「あ、そうだ大将」
「はい?あ、お待ちどうございました稲荷寿司です」
「うわぁ、これもまた美味しそう。よかったね、ハサハ」
「・・・」
こくん、と頷くハサハに稲荷寿司を一つあげつつ、バルレルにも一つ小皿にとって置いた。一瞥されて、けれど何もいわず頬張る姿は愛らしい。ちなみに私も一つ食べる。うん。やっぱり美味しい!ビバお稲荷!むしろビバあかなべ!
「で、話しの続きなんですけど亜麻色の髪をした長い髪の女の子と、紫がかった髪の元気溌剌とした女の子と、青みがかった髪のまるで小犬みたいな男の子と、蒸し栗色の髪をした絶世の美少女、みませんでした?」
「うーん。残念ながら、見かけてはないですね」
「そうですか・・・」
首を傾けて申し分けなさそうな顔をした大将に、少しばかり落胆してずるり、と麺を啜る。ちっ。大将ならなんか知ってそうだと思ったのになあ。どこかこの人も計り知れないし。
ていうか掴み難い人がたくさんいるな、この世界は。もう一つ稲荷寿司を食べようとしたバルレルに取ってやりながら溜息をつく。
「申し訳ありません。お役に立てなくて」
「あ、いやいや。こんな美味しい蕎麦が食べられただけで十分ですから。ま、残念ではありますけど」
眉根を下げる大将に、ニッコリと微笑んで手を横にふる。しょうがないしね、こればっかりは。実際これだけ美味しい蕎麦が食べられたんだ。それだけで十分お釣がくるって。
「あぁ、そういや大将って名も無き世界のことについて知ってるんですよね?」
「知ってるというほどではありませんが・・・それが何か?」
「いやね。名も無き世界ってまだ解明されていない世界なんですよね、確か」
「そうですね・・・まだ判らないことばかりだと聞き及んでますが」
「前例って、やっぱりあるんですか。人がそこから召喚されたっていう」
そこん所、少し疑問に思ってたんだよねぇ。ミモザさんとギブソンさんの話しでも、なんとなくそこの所仄めかすのがあったし。前例があるのなら・・・あるいは帰れる話しもどこかにあるのかもしれない。ま、詳しいことはあの2人に訊ねることも出来るとして、もう少し情報が欲しい所だ。
「そうですね・・・ないことはないそうですよ。召喚事故で呼ばれることがほとんどらしいですが」
「事故?それはまたなんとも言えない状況な・・・」
「本来召喚するつもりだったものと、なんらかの原因が交差して、召喚される・・・私の知り合いにもそういう方達がいますよ」
「え、大将知り合いにいるの?名も無き世界出身者が」
「えぇ、まあ」
「へぇ」
やっぱり大将の人脈にはただならぬものを感じるよ。まあ、世界は広いけど狭いから。案外身近にそういうもんはあるんだろうなぁ。もし身近にいる人だったりしたら話しが通じるかな。あぁ、もしかして俗に言う神隠しって、ここに召喚されて起きていることなのかもしれないや。違うかもしれないけど違わないかもしれない。世界ってやっぱミステリー。
「是非その人達と会ってみたいですね」
「機会がありましたら、こちらからもお話を通しておきますよ」
「よろしくお願いします」
にこやかにそう協力宣言してくれる大将に、こっちもにこやかに返してお稲荷を一つ取る。うん?ハサハはもういらないの?小食っぽいもんねぇ。蕎麦だけで満足したのか、箸を置いたハサハに、差し出しかけた稲荷寿司を引っ込める。代わりに自分が食べながら、もぐもぐと咀嚼した。甘酸っぱいみりんもいいけど、デザートもあればいいのになぁ。餡蜜とか。
「作れないことはないですよ。餡蜜」
「マジですかっ?ここ屋台ですよね?」
「お客様のご希望には出来るだけ沿いたいですから。さんも甘い物はお好きですか?」
「嫌いじゃないですよ。まあ私よりも友人の方が好きですけど」
「んなもんより酒だろ、酒。ここに酒はねェのかよ」
「焼酎ならありますけど、バルレル君にはまだ早いでしょう」
「オレは餓鬼じゃねえ!!」
噛み付いても相手がシオン大将じゃそよ風にもならないよなぁ。あぁ、本当に食えない人。害はないからいいけど、害があったら徹底抗戦だな。満足そうにしているハサハの掌をお絞りで拭き取り、ガミガミ言っているバルレルとニコニコ糸目で流しているシオン大将をそこはかとなく無視する。よし。綺麗になった。しかしそろそろ行動しないとなぁ。こんな所で和んでる場合じゃ・・・。
「あぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」
「っぅえ!?」
突然背後からの大声にびくんっとハサハ共々肩を大きく上下させて、恐る恐る背後を振り返った。バルレルも驚いて目を見開いたまま後ろを勢い良く振り返る。
シオン大将もさすがに突然の大声には度肝を抜かされたのか、バルレルから視線を外して前を見つめた。
「!と、ハサハ、バルレルっ。こんなとこにいたの!?」
「ちゃぁんっ」
「あ、瑪瑙。・・・て、のぅわあっ!!」
半分泣きかけの瑪瑙が走りより、遠慮なく私に特攻をかます。瑪瑙、ナイスタックル。ちょっと背骨にカウンターが当たって痛いかな、これは。ぐぎって言ったよ、今。ぐぎって。うおぉ、と背骨の痛みに顔を顰めると、横から鋭い声が割って入った。
「から離れろ!!」
「え、きゃあっ」
「バルレルっ?」
怒鳴りながら、バルレルが憤怒の形相で乱暴に瑪瑙を私から引き離す。その仕種があまりにも乱暴で、尚且つ瑪瑙に向ける目が鋭すぎるほど鋭い。
怒りよりもまさにそこには憎しみのような暗い感情しか伺えず、パチパチと大きく目を瞬いた。なんで、そんな目を瑪瑙に向けるの?
「に、テメェが触るなッ!!」
「バ、バルレル?!どうしたのよっ」
腹の底から、叩き付けるように言い放つバルレルの、ただならぬ様子にトリスが目を白黒させて問い詰める。私自身も、当事者っぽいのだけれど全然事情が掴めず眉を顰めた。
しかし、そんな怒り心頭の(何が逆鱗に触れたのかさっぱりだ)バルレルから視線を外し、引き離された瑪瑙を見る。顔面蒼白にして、泣きそうに顔を歪める瑪瑙の肩がカタカタと震え、脅えたような色が瞳に走っている。しょうがない。これはバルレルが明らかに悪い。瑪瑙は何も、していないのだから。(背骨痛かったけど)
「瑪瑙、おいで」
「ちゃん・・」
「っおい、ッ」
「五月蝿いバルレル。何がそんなに気に食わないのか知らないけど、瑪瑙は何もしてないでしょ?あんたが怒る理由が判らないわ。・・・ほら、瑪瑙」
冷ややかにバルレルを見据え、それからゆっくりと微笑みを瑪瑙に向かって浮かべる。腕を伸ばして、さぁ飛び込んできなさい!と言わんばかりに瑪瑙に差し出した。少し、迷ったように瑪瑙の飴色の瞳がバルレルに向かうが、それでも私の誘いには逆らえないのか、少しはにかんで今度はゆっくりと私に抱き着く。背中に手を回してよしよし、と撫でてやりながら、向けられる視線に笑顔を少し固まらせた。・・・いや、そんな羨ましそうな目で見ないでマグナ。アメル、複雑そうなその顔はなんですか。女同士でやるのはやっぱり可笑しい?でもこれもスキンシップ。友情の確かめよ!
「それにしても、さんもバルレル君もハサハちゃんも、いきなりいなくなるからビックリしたんですよ?」
「そうだよ。後ろ見たら3人共いないし、俺すごい慌てたんだから」
ちらり、と沈黙してしまったバルレルを横目で見て、そう切り出したアメルにマグナも詰め寄ってくる。私も隣のバルレルをみるが、ふいっと視線を逸らされてしまったらどうにもならない。そんなすねなくてもいいのになぁ。多少言い方はきつかったかもしれないけど。
「慌てたのはこっちも同じ。大体、そっちが後ろも見ずにさっさと行くからでしょう?」
呆れたように溜息を吐きながらじとりと見れば、さっと視線を外すマグナとトリス。自覚はあったのね。はぁ、ともう一度大きく溜息を吐くと、宥めるような低い声が口を挿んできた。
「まあまあ、とりあえずマグナ君達がさんの探し人で間違いはないんですよね?だったらいいじゃないですか。無事に合流出来たことですし」
「大将。・・・・・・・それもそうですね。ま、この件はこれで終了ってことで・・」
柔和な笑みを見つめ、その言葉にこっくりと同意する。まあ確かに。責任云々問い詰めた所でどうにかなるわけでなし。ぶっちゃけて合流出来たんだから、それでいいか。
「ちょっと待って!、もしかして大将の所でお蕎麦食べたのっ?!」
「うん。丁度お昼も過ぎてたし・・・偶々見慣れた屋台を発見したから思わず、ね」
「あ、そういえば・・・御蕎麦屋さんなんだね。ここ」
「美味しいよ、ここの蕎麦。絶品なのよ。あ、稲荷寿司まだあるから一つ食べる?」
「いいの?・・・じゃあ、頂きます」
差し出した稲荷寿司を瑪瑙が嬉しそうに頬を緩めて一口頬張る。ついでに私も一つ。うーん。あと三つか。だったら。
「いる?」
「「いる!!」」
聞けば即答で返してくる兄妹。アメルも興味津々に覗き込んでお稲荷さん一つ手に取った。はい。これにて終了。食べ終わったら帰らないとねぇ。
「それひしへもずるいほさんにんだけへ蕎麦たべるにゃんへ」
「口の中の物をなくしてからしゃべりなさい。行儀の悪い」
眉を寄せて、水を差し出しながらそう言い返す。何を言ってるかなんて判りきってるけどさ。
「もぐもぐごっくん。・・・・ずるいよ!俺達一生懸命達のこと探してたのに三人だけで大将の蕎麦食べてるなんて!」
「そうは言ってもねぇ。丁度良い具合に大将の屋台があったわけだし・・・って、マグナ、大将の事知ってるの?」
そういえば蕎麦のことも知ってたよね。失礼な話しだけど、マグナとトリスが蕎麦なんて一部にしか知れ渡ってないような食べ物知ってるとは思えないんだけど。リィンバゥムに蕎麦が定着してるようにも見えないし。シルターンの料理でしょ?私達の所では名も無き世界の料理でも通じるけど。疑問に首を傾げてシオン大将を振り返ってみる。大将は、柔和な掴み所のない笑みを浮かべてくつり、と喉を震わせた。
「実は以前、マグナ君とトリスさん・・・それにバルレル君にハサハさんもここで蕎麦を食べたんですよ」
「へえー。なるほど。だから知ってたのね。・・・ていうかそれならバルレルとハサハの2人がいる時点で私の探し人に見当がついてたのでは?大将」
「えぇ、実は。でももしかしたら違うかもしれませんし、何より私の知らない人が2人ほどいましたしね」
「ふぅん。ていうかバルレルもハサハも知り合いなら教えてよ。そして大将も知り合いなら反応してください。そしたらもっと効率よく行けたのに・・・」
「ケッ・・・」
「・・・ごめん・・・なさい・・・・・」
「まあいいじゃありませんか。こうして無事に合流出来たんですから。・・・おや?」
「ん?」
何処となく策士なシオン大将に半眼で睨むと、くすくすと笑って流される。これだから同じ属性の人はやり難いのよ。流されるから。私も流すけど・・・やっぱり年の甲なのか・・・・やり難いな。顔を顰めた所で、大将の眉がピクリと動く。
「あ、あれ、フォルテさんじゃないですか?」
「本当。フォルテー!こっちこっちーーー!」
アメルも気付いたのか、顔を向けた方向にあの若草色の頭を見つけて頬に手を添えた。
トリスがそれに、何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回しているフォルテに向かって大きく手を振る。お願いだから目立つようなことあっさりとしてくれるなよ・・・。自然と注目を集めてしまったことにうな垂れながら、立ち上がる。
「おぉ、見つけた。こんな所にいたのか、お前等」
「どうしたんですか?フォルテさん」
息を切らして私達の前にやってきたフォルテに、軽く小首を傾げて瑪瑙が問い掛ける。それに、にっかりとフォルテが笑った。
「吉報だよ。特に、アメルにはな」
「え?あたしに、ですか?」
脈絡のない台詞に、突然名指しされたアメルが驚いて自分を指差す。・・・アメルに、吉報。なるほど。
「じゃ、早く帰らないとね。大将、お代、ここに置いておきますね」
「はい。あぁ、どうぞ、これ。お近付きになった記念として」
「おおー散らし寿司!ありがとうございます、大将。これでネスティ達への貢ぎ物が出来た」
「ちゃん、貢ぎ物って・・・なんだかその言い方怪しいと思うんだけど」
苦笑した瑪瑙に、気にしない気にしないと手を振ってさっさと外套を翻す。それに、きょとんとした顔でトリスが問い掛けた。
「待ってよ、。吉報が何かわかったの?」
怪訝に問い掛けるトリスに、マグナも見当がつかないのかじっと私を見ている。アメルは自分に関係があることらしいので、同じくやや不安そうに私を見ているし。
ていうか、私よりもフォルテに訊けよ。吉報持ってきたのは私じゃなくてフォルテだっつーのに。それに、判らないのか。今のこの状況でアメルへの吉報なんて一つっきゃないのに。
はぁ、とわざとらしく溜息をついてフォルテを見れば、フォルテは大将に一つ水を貰ってる所だった。説明を私にしろというのかお前!
「あのねぇ、アメルに対して吉報なんて、今の所一つしかないでしょ?」
「・・・・・あっ!もしかして、あの人達が?」
呆れた様に肩を竦めながら言うと、瑪瑙が察したように呟いた瞬間に、アメルの瞳が大きく見開かれ、唇が戦慄く。
「もしかして、・・・ロッカと、リューグが・・・・?」
「それってっ!」
「うわ、だったら早く帰らないと!フォルテ、水飲んでる場合じゃないよっ」
「ぶふっ。ちょ、マグナマント引っ張るなって・・・・どわああぁぁ!!」
マグナ・・・君って奴は見た目よりも馬鹿力なのですね。フォルテのマントを引っつかむと問答無用で走り出すマグナの後に、トリスもバルレルの襟首を引っつかんで続いた。
あーバルレルが喚いているよー。窒息死しそうだよね、あれって。アメルはそのことに思い至った瞬間、走り出してたし。後に残されたのは、ぶっちゃけてそこまで関わりのない私と、瑪瑙と、のんびり屋のハサハだけで。大将はそれこそ関係ない上にお店がここにあるしねぇ。
「・・・・・・・・・・・行こうか。それじゃあ大将、また食べにきますね」
「あ、私も。今度はお蕎麦、ちゃんと食べにきますね」
「えぇ。お待ちしてますよ。さん、と、メノウさん。それに、ハサハさんも」
にっこりと手を振ってくる大将にひらひらと振り替えして、私達も走りだす。もうすでにほとんど見えない彼らの後ろ姿を追いかけながら、ギブミモ邸を目指して!