誘いの歌唄い 後
風に乗って届いた音に、振り向いて。
※
高く、細く。繊細に響く音。柔らかさを伴って白い指先が竪琴を爪弾き、そっと風に乗って、音が届く。奏でられる旋律は美しく、細かに空気を震わせ鼓膜へと吸い込まれた。
風が、強く吹きぬける。音を乗せた風に、月光のような青白さを帯びる銀の髪が靡いた。細工の施された竪琴を抱えて緩やかに爪弾く姿は、まるで一つの彫像のように艶やかな印象を与える。
白い肌を滑る銀の煌き。閉じた瞼を縁取る睫毛の陰が微かに震えて、美しい音色が、そこから広がっていく。思わず感嘆の息を零してしまいそうなほどに、張り詰めた旋律。音だけを、純粋に聞いていれば。
「なに?この音色?」
「きれいな音色ですねぇ」
私よりも遅れて音の存在に気づいたトリスが辺りを見まわし、アメルがほぅ、と吐息を零して音に聞き入った。まだ誰も、私以外にその存在を掴めていない。不意に、腕と足に、弱弱しい力が加わって張りつけていた視線を動かした。腕には寄りそうようにして縋りつく瑪瑙と、足元にはしがみつくハサハ。視線に気づいたのか、瑪瑙が何かを言おうとして、けれど言葉にならないのかもどかしげに眉を寄せると掴んだ手の力が強まる。
ハサハは、耳をピンっとたてて、カタカタと細かに震えながら私の足に顔をうずめた。ただならぬ様子に、瑪瑙の肩を叩き、ハサハの頭を軽く撫でる。そうすれば、一瞬強張った体の緊張がとけて、二人の呼吸が緩やかになった。それから視線を、ピッタリと寄り添っているバルレルに向け、険しい顔をしているのを見てから視線を戻す。こちらなど気づいていないようにただ爪弾く姿が、何故かその瞬間白々しく見えた。尚も奏でられる旋律に、マグナが視線をさ迷わせ、ぱっと顔を輝かせる。
「あ、あそこにいる人が演奏してるみたいだよ」
「本当だ。ちょっと行ってみない?」
「私は、いい。ここで待ってるよ。・・・瑪瑙とハサハが、気分悪いみたいだから」
うきうきとした調子で言ってきたトリスに、小さく微笑みを浮かべて首を横に振る。その瞬間、トリスとマグナが心配そうな顔をして二人を伺った。アメルが手を伸ばして、青褪めている瑪瑙の額に手を這わせる。
「え?大丈夫なの?メノウ、ハサハ」
「うん・・・平気。ちょっと、疲れただけだから・・・」
「でも、顔色悪いよ?お屋敷に戻る?」
「大丈夫でしょ。ちょっと休めば直る程度のものだろうし。ここで待ってるから、三人は行っておいで」
心配そうな三人に、逆に明るく言ってのけてひらひらと手を振る。それでも尚ふんぎりのつかない様子に、瑪瑙が淡く微笑んで諭すと、ようやく頷いて三人は銀の髪の男に向かっていった。それを見送り、びくびくと何故か脅えた様子のハサハの両脇に腕を指し入れ、抱き上げる。片腕にハサハを乗せ、もう片腕を瑪瑙の肩に回して引き寄せることでさらに密着させた。どうも、気分が悪いというよりも脅えた様子の二人にはこれが一番の方法だろう。
横で私の足元にぴったりと寄り添っているバルレルが、不機嫌そうに・・・あるいは忌々しげに瑪瑙を横目で睨みつけるが、当の瑪瑙はその視線に気づく余裕もないらしい。寄り添った状態で私の肩口に顔を埋め、懸命に震えをどうにかしようとしている。
「・・・どうしたの?」
小さく問いかけると、瑪瑙は顔をあげて、物言いたげに唇を震わせてから搾り出すように声を出した。
「わから、ない・・・ただ、すごく、・・・・怖いの・・・」
「・・・ハサハも、怖いの?」
それだけいって、また肩口に顔を埋めた瑪瑙から視線を外し、首に両腕を回してピッタリと密着させているハサハに向ける。ハサハも、小さく一つ頷いて、それ以上のことは何も言わなかった。原因がわからないからこそ、こんなに怖がっているのだろうか。
・・・・いや、原因ならある程度予測できる。二人に向けていた視線を外し、正面を向くと、トリス達があの男の前で何か話しこんでいた。もう、音は聞こえない。
「・・・・・・・・人、なのかしら・・・・」
ポツリと、確信のない疑心によって零した言葉が心中で波紋を描く。姿形は紛れも無い人だ。それも、飛びっきりの美人に分類される。けれど。
「違う・・」
何かが、違う。じぃ、と食い入るように男を見つめ、見極めるかのように瞳を細める。まるで朧のよう。ぼやけて本来の形が見えない。作り物のようでいて、けれどもしっくり馴染む有り様は一体どういうことなのか。巧みに隠されて気づき難い、けれど確かに周りから感じる物とは程遠い何かを彷彿とさせる、それ。身近に感じたことがある、もの。
ふと、赤い瞳が向けられたことに気づき、男からバルレルへと視線を向けた。赤い瞳が揺れる。どうするべきなのか計りかねるかのように。
「・・・・・・・・・・帰るぞ」
「は?」
しばらくの沈黙の後、バルレルはそう言った。思わず間の抜けた声をあげて、怪訝に眉間に皺を刻む。ちっと舌打ちをして、バルレルは眼光を強くさせて再び言った。
「帰るんだよ。あいつに会うべきじゃねェ。つか俺が会わせたくない」
「いや、帰るも何も、私ここで待ってるって言ったし・・・というか知り合い?」
「いいから!とにかく帰るんだよっ。オレとしてはどうでもいいが、ここにいたらそいつ等もよくなんかならねぇからな」
心底嫌そうに、不本意だと顔に書いて唸ったバルレルに首を傾げ、確かにそれは一理ある、と逡巡する。
会うべきじゃない、という言葉も気にかかるし、会わせたくないとはどういうことだ、と思わないでもないが、まずそこは置いておこう。たぶん、瑪瑙とハサハがこれほど脅えているのはあの男から感じる何か、あるいは男自身、ということなのだから、ここから離れるのが得策なのは判る。判るが、しかしトリス達は何も感じていないようだし、何よりここで待つと言った手前、勝手に動くことは出来ない。
迷っていると、苛々したようにバルレルが舌打ちをし、問答無用で―――触れる一瞬、躊躇ったように指先が止まってから―――外套の裾を掴む。そのまま、引っ張るように足早にここから動こうとしたバルレルに、思わず声を出そうと口を開き、はっと視線を前に動かした。先程まで瞼の裏に隠されていたのだろう、サプレスのサモナイト石のような、透き通った紫水晶の瞳が視界に入る。
その眼差しは、食い入るようにこちらを見つめて―――視線と、視線が、交差する。
「―――」
瞬間、男の口唇が震えた。戦慄き、微かに動く唇の動きは、何かの音を形作ったように思ったけれど、その声は聞こえなかった。小さ過ぎて、届かなかったのか、その瞬間横切った風に遮られたのか、それはわからない。ただ、ただ、男は飽きることなく私に視線を向け、その眼差しは音を為したと思われた瞬間から、これ以上ない輝きに満ちた。
歓喜。――――――焦がれるほどの、慕情を秘めた、至極の。
ひどく覚えのある、その感情の有無。あれは、何処だっただろうか。
「!」
思わず見定めようと溺れ出した思考が、その楽しげな声に引っ張り上げられる。はっとして―――丁度バルレルが舌打ちを零して―――意識を向けなおす。
そこに、腕を振りながらトリスとアメルが駆け寄ってきていた。マグナが、男の手を引いてこちらに駆けてきている。バルレルの外套を引っ張る力が強まる。ハサハの腕の力が強まり、瑪瑙が身を固くして。
「っ聞いて!あのね、あの人はレイムさんっていってね、吟遊詩人で、真実の歌を探してるんだって!」
興奮したように一気に語り出したトリスに微苦笑を零し、詰め寄るのを片手で制してストップをかける。
「はいはいどうどう。落ち着いて、トリス。いきなり言われても判らないわよ?」
「あ、そっか」
「もう、トリスさんったら」
くすくすと可笑しそうに笑い声を零したアメルに、トリスが照れたように頭を掻く。その様子から視線を外し、さっと瑪瑙を後ろに隠してハサハの頭を肩口に押しつける。
マグナに手を引かれて目の前まできた男に視線を向けて―――薄っすらと、頬を染めて私を見つめる男に愛想笑いを浮かべた。肌にピリピリと感じるささやかな何かを、知らない振りをして男を見返し、微笑する。
「初めまして。・・・・レイムさん、ですよね?」
確認するように舌に乗せて問いかける。妙に舌に馴染んだ名前に、男は一瞬、本当に一瞬、顔に翳りを帯びて、次には華やいだ笑みを浮かべた。あまりにも一瞬過ぎて気づけなかった、その翳り。頬を染めて、心底嬉しそうにする男に気を取られ、私は怪訝な感情を少しの間、忘れてしまった。
「はい。吟遊詩人のレイムと申します。どうぞ、レイム、とお呼びください」
「そうですか?では、遠慮なく。私はといいます。演奏、トリス達が邪魔しませんでしたか?」
あえて、瑪瑙たちの紹介はしない。ただ自分が前に出るようにして応対しながらも、物腰が柔らかく謙虚に言葉を紡ぐ丁寧な態度に好感を覚えた。だが、どうしても、どうやっても、疑心が消えない。若干茶化すように、トリス達に視線を向けて言うと、マグナが慌てたように手を上下させた。
「そ、そんなことないよ!」
「ふふ。えぇ。マグナ君達は邪魔などしていませんよ。私は吟遊詩人ですから、聞いて頂くのが仕事のようなものですので」
「それもそうですね」
微笑んだレイムに、納得して軽く頷き笑みを返す。しげしげと相手を観察してみるが、これといって瑪瑙達が脅えるほどのものは感じられなかった。ただやはり、常人ではなさそうだという気配は感じるのだが。あるいは男から流れる、お世辞にも善とは言い難い空気のせいだろうか。それが二人をこんなにも脅えさせるのだろうか。だがしかし、ハサハと瑪瑙は脅えているが、バルレルは忌々しげにしているだけで、トリス達にいたってはにこにこと気にした風もない。対照的な対応の周りに、こんなにも別々の態度を招く男も珍しい、と目を細めた。
「・・・そういえば、そちらの方は?」
「あ、そうだ。レイムさん。今に抱っこされてるのがハサハ。俺の護衛獣なんです」
「それと、のマントを握ってるのがあたしの護衛獣のバルレルで、後ろにいるのが、メノウっていうんですよ」
そういって、マグナがハサハを、トリスがバルレルと瑪瑙を示して教える。あ、ちょっと、人が折角紹介を省いたってのに!・・まぁ、相手から聞かれたんじゃ答えないわけにはいかないだろうけどさぁ・・・。
笑顔でそれを聞いていたレイムが、ハサハを見て、バルレルをみて、くっと口角を吊り上げた。それはさも面白い、とでもいうようにどこか意地の悪さすら見えて。バルレルが心底忌々しそうに舌打ちをして、ギラリと下から睨んだ。バチィ、と両者の間に火花が散ったような?なんだこの険悪な雰囲気は、と一瞬眉を潜めると、レイムはさっとバルレルから視線を外して、私をうっとりと見つめ――背後の瑪瑙に視線を留めたとき、美しかった紫水晶から、光が消えた。
ピキリと、穏やかだったはずの空気が、音をたてて凍る。面に浮かぶ微笑すら、刹那全てが消えたのだ。能面のような無表情が晒される。けれども、光の消えた瞳は、ひやりと尖った鋭い氷柱を喉につきつけるようだ。穏やかだったはずの瞳の奥底で、冷たい熱が孕む。例え様もないほどの嫌悪。取り繕うことすら忘れたように、燃えあがる絶対零度にも等しい焔が、氷山のようにその瞳に浮かび・・・消える。
「―――――初めまして、メノウさん」
平坦な声が零れ、何事もなかったかのように笑みが浮かべられた。誰も、気づかない。それは一瞬の出来事。向けられた本人と、間近で見た私しか、きっと気づいていない。
あの瞬間浮かんだものは、紛れもない憎悪だ。
「・・・・・・・・・・・・っ」
「おや?顔色が悪いようですが・・・気分でも優れないのですか?」
口元だけに鮮やかな笑みを浮かべて。瞳だけは、まるで凍える氷山のように鋭く猛々しく、感情が灯らない。心配そうな声を出して、顔を覗きこむ姿は、感心するほどに巧みだ。
なんていう、演技力。私には決して向けられなかったものが、白刃となって瑪瑙に向かう、そんな光景が瞼裏に浮かび、弾けた。
それに触れたら、瑪瑙は傷つく。どうしようもない、傷を負ってしまう。思った刹那、気遣うように伸ばされたレイムの白い手を、掴み取った。驚いたような視線が周りから向けられ、口角を持ち上げる。
レイムが目を瞬き、食い入るように私を見つめた。その顔が、歓喜と悲痛に歪められたのを、あえて無視をする。
「心配無用です。少し休めば治る程度ですので」
「・・・そうですか。これは、余計なことをしてしまったようで・・・申し訳ありません」
「いえ。お気遣いは感謝します。マグナ、私は瑪瑙を休ませてるから、レイムの相手していてくれる?」
「え・・・あ、!?」
落ち込んだように・・・演技とは思えないように本気で落ち込んだ様子の相手に、どこまで本気なのか、と疑いながら薄ら笑いを浮かべてマグナに顔を向ける。唖然としていたマグナが、焦ったように引きとめるがそれに構わずハサハを下ろして・・・下ろそうとしたのだが、ハサハがきつく首に腕を回して離れないので、仕方なくそのまま抱いて瑪瑙の腕を引寄せ、踵を返した。背中に感じる視線を無視し、青褪めて震える瑪瑙の手をきつく握り締める。呼吸も荒く、今にも倒れそうな瑪瑙が休める場所を探して視線を走らせた。
軽く辺りを見まわし、丁度影になっている木の根元を見つけて瑪瑙の手を引く。
「行こう」
「・・うん・・・」
元気のない弱弱しい声を聞き流し、木陰に向かって歩いていく。辿りついた木陰で、そっとハサハを下ろして(かなり渋られたが)瑪瑙に座るように促した。木の幹に背中を預けさせ、前髪をかきあげて顔を覗きこむ。大分顔色が悪いな・・・水でも持ってきたほうが良いだろうか。
「水、いる?」
「・・・いら、な・・・おねが、い・・・ちゃん・・・・・・ここ、に・・・・っぅくっ」
カタカタと震える瑪瑙が、口元を押さえて低くうめいた。俯いた拍子に蒸し栗色の髪が両頬を滑り、表情を隠す。僅かに髪の間から見える肌の色が驚くほど悪い。
白いを通り越して土気色になっていく頬に目を見開き、不規則に刻まれる呼吸音が耳に届く。ぜぇぜぇと荒く吐かれる息と同時に、瑪瑙の服に丸い染みが点々と出来ていった。
汗とも、涙ともつかない、けれどそれは決して良いものではなく、あまりにも痛々しい。
「魔力と、憎悪にあてられたか」
「魔力?」
ぽつりと零されたバルレルの呟きを拾って眉を顰めたが、そんなことよりも今は瑪瑙の方が大事だとバルレルから視線を外す。小刻みに震える瑪瑙は、すでに痙攣を始めてしまったようだ。呼吸も荒く、なのに細くて頼りない。酸素を吸い込もうとして出来ていない、という印象が与えられる。それに眉を顰め、とにかく落ち着かせなければ、と考えてそっと瑪瑙に腕を伸ばした。後頭部に手を添え、ゆっくりと胸に押しつける。もう片方の手は背中に回し、一定のリズムを刻むように背を叩く。小刻みに震える瑪瑙をゆっくりと抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫。・・・・・私は、ここにいるからね」
耳元に唇を寄せてひっそりと囁く。とくり、とくり、と、心臓が奏でる音を瑪瑙の耳に届けて、繰り返し、囁いた。大丈夫を繰り返し。心臓の音を繰り返し。落ち着かせるように、ただ幼子のように震える瑪瑙を抱きしめて、繰り返した。そのうち、瑪瑙の強張りがとけていく。
服を握り締めていた拳を解き、ゆるゆるとその手が背中に回されて抱きしめ返される。白いけれど、土気色ではなくなった頬に、ほんのりと赤みが差し始めて瑪瑙が目を閉じた。聞き入るように心音に耳を傾けている様にほっと、安堵を零して微笑む。
「・・・平気?」
「・・・うん。ありがとう、ちゃん。・・・でも、もう少しだけ、もう少しだけ、このままでいさせて・・・・」
囁くと、擽ったそうに身をよじって、瑪瑙は胸に顔を押し付けた。ぎゅ、と、背中に回された腕に力が篭る。その腕の強さに安堵しながらも、その甘えに苦笑した。
「しょうがないなぁ・・・あと少しだけだよ?」
「うん。・・・ちゃんの音、とっても落ち着くわ・・・」
「生きてる音ですから」
なんとなく、片膝をついていたのを崩して地面に座りこみ、抱きしめるというよりも抱え込むようにして瑪瑙をすっぽりと覆う。そこまで体格に差があるわけじゃないけど、胸に顔を押し付けている瑪瑙は華奢で、私でも体勢の一つでも変えれば容易に包み込めるのだ。
これがまた男の守ってあげたい精神を擽って瑪瑙をもてさせるのだな、と感慨深く思いながら横からの嫉妬と羨望を孕んだ視線に横目を向けた。嫉妬はバルレル。羨望はハサハ。
どちらも共通しているとすれば、瑪瑙にその視線が向けられているということだろうか。思いつつ、今はこの甘えたな親友の小さなお願いを聞き届けるだけに留めておく。
木陰のさわさわという音を聞きながら、自分以外の体温に浸った。ふと、視線を元来た道に向けてみた。マグナ達がレイムとの会話を終わらせたのか、急ぎ足でこちらに向かってきていた。その動きを目に止め、そのまま視線をその後ろに流し―――ひたりと、合わさった瞳に、目を細める。
紫水晶の瞳が、熱を帯びて私を見つめていた。
最初に目が合ったときと同じように。ただ、私だけをその眼差しは捕らえる。私なんて見ても、さして面白いものなどないだろうに。日本では有り触れた黒髪に、黒い眼。瑪瑙のように光りに透かせば金にも見える蒸し栗の髪でも、甘い飴色の瞳でもなく。
容姿も眼を惹くほど上玉ではない。中の上、上の下、そんな程度をフラフラしてそうなものだというのに、レイムの眼は、私を捕らえて動かない。一心不乱ともいえる眼差しに、やはり何処かで覚えがあると思考を鈍く回転させて。なんとなく見返し続けたレイムの、銀の髪が緩やかに風に踊り、散らばった。す、と抱えていた竪琴を構えて、レイムの白い指先が弦にかかる。一つ、ピンと爪が弦を弾いて。遠目に、レイムの唇が微かに動いたのをみる。
唄は、聞こえなかった。
「ずっと・・・・・・・・ずっ、と、」