ポジション



 毎度のごとく、傍から見たら悠々と、知ってる人が見れば明らかに挙動不審に動き回る絳攸の背中を見つめて、また迷子になったんだろうなぁ、と私は生ぬるい視線を絳攸の背中に送った。
 当の本人は微塵も気づかず、何故か庭園を右往左往し、しまいには立ち止まってがっくりと項垂れる始末。1人で行けないのだからいい加減どこぞに何かをしに行く時はお供でも一人つけるか、それとも誰かに任せればいいのに、と思いつつプライドの高い絳攸が他人任せができるはずもないだろうし、史部の状態を考えれば人手を裂くのは無理なのもわかっているので、結局いつも同じことの繰り返しになるのだ。というか紅尚書はわかってるだろうに、どうして絳攸にお使いをさせるのか・・・遊んでるんだろうな、きっと。
 その証拠にちょっと気配を探れば紅家の影の気配がする。過保護なのかなんなのか・・・まあ、別に構わないけれど、そろそろ助けにいくべきか。

「絳攸」
「、っ?」
「なにしてるんだ?」

 白々しいと思いつつ、そう問いかけながら振り向いた絳攸の傍までいく。
 彼はあからさま、といえるほどではないが見ればわかる程度に表情をほっと安堵に変えて、それから慌てて顔を引き締めると眉間に皺を寄せて、工部に、と呟く。不機嫌そうなのは自分の中で色々と葛藤があるのだろう、と解釈してそうか、と呟くと薄っすらと笑んだ。

「そ、そういうは?」
「ん?戸部に帰るところだよ」
「そ、そうか・・・」

 明らかに落胆した絳攸に口元の筋肉が崩れそうになるのを堪えつつ、笑顔を浮かべる。これで自称鉄壁の理性といってるんだから、笑えるなぁ。無論それが親しい人の間でだけ崩れるものだとわかっているから、ある意味で鉄壁の理性は間違いではない。
 まあしかし、その「親しい人間」に部類されてる私からしてみれば、鉄壁の理性は笑い話のようなものだ。特に楸瑛との遣り取りを見てみれば、怒鳴りっぱなしだし。その内ぷっつんと行くのではないかと思うぐらいだ。
 あれが一つのスキンシップだと思うからあえて止めはしないけれど。というか、楸瑛が心底楽しんでるんだものねぇ。さておき。

「あぁ、そういえば工部に突っ返す書類があるから、どうせだから一緒に行くか?」
「あ、あぁっ!」
「(・・・!笑える・・・!!)じゃぁ行くか」

 しゅん、と項垂れていた絳攸がたちまち立ち直るのを笑いをかみ殺しつつ見守って、さっさと背中を向ける。背後でほっと安心している絳攸の気配を感じて、くつくつと喉を鳴らしながらあれで気づかれてないと思っているんだから、絳攸は可愛いねぇ、としみじみと思う。
 微妙に絳攸の前を歩いて先導しつつ、ぐちぐちと紅尚書に対する愚痴なんかに適当に相槌を打っておいた。
 まあなんていうか、紅尚書については全てにおいて今更だろう。