さながら、兄弟。



!」
「おー?どうした、ユウ」

 書庫室から出てきたところで、つい最近教団に入団した弟分にしがみつかれた。突進するように足にしがみつかれたわけだが、まあ伊達に鍛えているわけじゃない。
 子供の突進ごときで揺らいでたらあいつ等に馬鹿にされるっての。それだけはゴメンだ、と思いながらびくりとも揺るがないで、ユウの頭に手をぽん、と置いた。そのまま手触りのいい髪をくしゃくしゃと撫でると、猫のように目を細めてユウがパッと顔をあげる。

、修行に付き合えよ!」
「あー?俺は今から本読むんだよ。そもそもお前の師匠はティエドールだろうが」
「やだ、がいいっ」
「お前、それティエドールが聞いたら泣くぞ」

 ユウ君ひどい、ってショック受ける様子が目に浮かぶ。そして俺に嫉妬の視線を送りやがるんだ。愛息子を取られた父親の目をしやがって。なんであいつはああも子煩悩なんだ?
 しょうがねぇだろ、最初にユウの面倒見たのは俺なんだから懐かれるのも自然な成り行きだ。しばらくはユウに英語を覚えさせるのと、教団の環境に慣れさせるために俺が細々と世話を焼いてたわけだが、最終的に師匠についたのはティエドールだからな。
 まあ、元帥であるあいつが次代を育てるのにも適任ってことで(弟子仲間もいるようだったし、切磋琢磨には丁度いい)お鉢が回ったわけだが・・・あー、あん時のユウを宥めるのは大変だったなぁ・・・。思わず遠い目をすると、それが気に食わなかったのかぐいっとストールを引っ張られた。ずるりと肩から落ちそうになったそれにおっと、と声を出しながら視線を元に戻せば、むっすりと眉間に皺を寄せる顔が見える。随分と感情豊かになったもんだよなぁ、と思いつつ苦笑を零し、軽く額を小突いた。

「せめてマリから一本取れるぐらいまでになったら相手してやるよ」
「っマリは大きいから!それにデイシャになら勝てるっ」
「バーカ。AKUMAは普通の人間よりでけぇんだよ。自分よりでかい相手に勝てなくてどうする」

 昨日だって一本取った!と地団駄を踏むユウに、笑いながら頭の上に手を置けば、むぅっと唇を尖らせてそっぽを向く。

のケチっ」
「ケチ、ねぇ・・・。ならケチはケチらしく、今日のおやつは俺が独り占めするかな」
「っ!!・・・・やだっ」
「どうすっかなぁ。俺はケチだもんな?ユウ」

 にやにや笑うと、ユウは顔を真っ赤にして、下から睨みつけてくる。だがまあ、子供の睨みにびびっててエクソシストが勤まるはずもない。余裕で受け流すと、ユウはふるふると肩を震わせながらストールを握り締める手の力を強めた。あー、こいつ反応面白いからからかいたくなるんだよなぁ。かといってあんまりやると泣きかねないから、ほどほどのところでやめておくが。ていうか泣かせたらティエドールがうるさい。そしてティエドールに怒られる俺を見てあいつらが笑うんだ。それはそれで最悪だ、と自分で想像しておいて眉をひっそりと潜め、ふ、と頬の筋肉を緩めた。

「修行が終わったら部屋にこいよ。今日は一日部屋にいるつもりだからな」
「・・・今日は、マリから一本とってやるからな!見てろ、馬鹿!」
「期待して待ってるよ」

 拳を握り締めるユウに、ニ、と口角をつりあげてふわりとストールを翻す。その動きを目で追いかけられていたのに気づきながら、ふと横目を向けてから視線を外す。分厚い本を手に持って、重さを確かめる。さて、この本何ページ分まで読めるかな、と口元に角を押し当てて、ばたばたと走り去っていく慌しい足音にくつりと喉を震わせた。