無知の幸福
美少女は電波な人でした、というオチで意味もわからず無理心中させられた私、ことは更に意味が分からないことによくわからん過去らしき世界で第二の人生やっています。死後の世界とはこういうものなのか。まさか某死神漫画と似たような世界だったとは!と思ったが、どうにも現実的過ぎて多分違うんじゃないかと思い出して一年。だってあの漫画じゃお腹がすくのは霊力がある人間だけだったけど、この世界じゃ誰もがお腹が空く。
しかも死神が住んでいる場所すらないわけで、神様っているの?と聞けばお空の上にね、と返される始末。ここは天国でもなけりゃ地獄でもなさそうだ。
そこからここを現実と理解するのに二年、受け入れるのに一年、諦めるのに三年、開き直るのにもう一年。多分私頭のどっかの螺子が飛んでしまっているのだと思う。でなきゃこんなこと受け入れられない。
きっとあの電波、現代でちょっとその系を知っている人たちにしてみりゃヤンデレと言われる人種に刺されたときからどっか可笑しくなったんだと思う。健全な私を返せ。
しかも現実を理解した瞬間にあの女の恐ろしい台詞も思い出してまさか近くにいるんじゃなかろうか!?と怯えに怯えた日々でした。だって「ずっと一緒にいようね」だ。私と同じようなことになっているのだとしたら、もしかして近くにいるかもしれない。
マジ怖い。また殺されたらどうしよう。ていうかあんな人間が近くにいるのかもしれないというだけで軽く人間不信に陥る。そんな引きこもり万歳と言わんばかりに根暗に過ごした時間も、開き直ればなんかもうどうでもいいよ、と思えてくるから不思議だ。
幸いなことに、どうやらあいつは私の近くにはいないようだ。あるいは本当に天に召されたのかもしれない。中身はあれだったけど美少女だしな。いきなりあんなことしなきゃきっと天国にいけるほど良い子であったに違いない。でも人殺しだしな。しかも私の意思総無視。思い込みも甚だしい子だったので、ありゃ多分地獄行きだ。あとはもしかしたらこことはまた違った世界で転生とか・・・あるいは場所は違うけどこの世界に生まれているのかもしれない。・・・絶対遭遇しないようにしたい・・・!また殺されるなんて真っ平御免だ、とそんな根性で開き直ること数年。私は今度は簡単に殺されないように、と、とある学園に入学する。
行儀見習いも兼ねているが、ここで生き残る術を学ぶのだ。ちなみに忍者になる気はないです。あんな危ない職業は真っ平御免です。私、卒業したら実家に帰って見合いでもして今度こそ人生真っ当するんです。そんであんなのに出会っても今度は殺されてなどやるものか、という決意をしながら三年ほど平和に過ごしていた矢先。
いつも騒動の耐えない学園に、今年一番の騒動が落ちてきた。
「・・・・・・わぁお」
何故か死ぬ前とまるっきり同じ姿で(私はまだ小学生だっていうのに!)、あの電波な女が学園にやってきたのだ。
ちょ、おま、死んだんじゃないの!?いやこの世界にいるのはいいとして(私もそうだからね!)なんで容姿変わってないの!?私全く別人になってるのに超怖いなにあれ!!
相変わらず美少女な容姿で、性格もすこぶるよろしいようだが、実際は天使の顔して病んでる大層危ない人物だ。天女がきたとかどうとか興味はなかったけど(いや同じ世界かもしれないという時点で気になってたけど)、名前を聞いてまさかと多い、姿をみて確信して、もう私は混乱した。いやいやいやいやどうしようマジどうしよう。あの電波女がここにきちゃったよ同じ場所にいるよどうしよう見つかったら私またなんかされるの!?
殺されないにしても(これでも三年この学園で学んできたのだから、あの白魚の手で私を殺すことは最早できないだろう)、下手に関わったらなんかめんどそう!
だって最初こそ受け入れられてなかったようだが、何時の間にやらあの他称天女な電波は学園を制覇していたのだから。いやすごいよ本当。プロに近いといわれていた六年生ですら攻落し、学園の縁の下な五年生も落して、四年なんか我先にと言わんばかりだし、三年も甘酸っぱいことしてるし、二年は初々しいし、一年は微笑ましい。くの一ですら一部は嫉妬やらあるようだがそれも少数で、大部分は好意的だ。相変わらずすごい。愛される子だとは前々から知っていたけれど、この支配具合は寒気を覚える。
その状態で関わったら?しかもどうやらあいつ、私のことを好きらしいから、そうなったらもう考えるだけで怖い・・・!私そっちの趣味ないし!真っ当に男好きだし!あぁぁぁぁ考えるだけでもう鳥肌が立つ。
そうなったら結論は一つしかない。幸いにも私はあれと違って以前とは姿も違うし年も違う。性別は同じだが、それにしても別人といっても差し支えのない姿形に声をしているのだから、関わらなければ多分大丈夫だ!きっとあれが執着しているにしても昔の私であって、今の私には興味の欠片ともないに違いない。要するに、知られなければいいのだ。
「私が「私」だと、気づかれなければいいよね」
だとするならば、さして難しくは無いだろう。幸いにも学園には天女に夢中になる奴は多いが、全てではない。悪意を持つ人間もいるし、さして興味のない人間もいる。ただやはり好意を持つ存在が多いので、最近学園が桃色状態でやかましいけれど、まぁそこはどうでもいい。つまり私が彼女に興味を抱いてなくとも構わないのだ。おかしくない、おかしくない。私、彼女のことが怖いし正直気持ち悪いと思うけど、嫌いではないし。うん、悪意はないから周囲からどうこうということもないに違いない。あとはできるだけ接触をしないことだ。幸いにも彼女は事務員という立場になったようだから、強制的に関わることもないだろう。
これで食堂の手伝いとかだったら食堂に行くたびに接触があるだろうからもしもが起こる可能性もあったが、天はまだ見捨てていなかった!(多分)
「そのまま真っ当に男とくっついてください」
学園で人気の男共がこぞってゾッコンなんだから、今度こそ普通に恋愛して幸せになってくれ!間違っても他人巻き込んで心中はかるようなことはしないでね!と忍たまの校舎のほうに向かって手を合わせて、南無南無とお経をあげた。ぶっちゃければ、あれがまた誰かと無理心中はかろうとも、私が相手じゃなけりゃどうでもいいのである。
他人の生き死ににこれほど関心を寄せなくなったのも、きっと私が狂った証なのだろう。