血塗れ月下美人
あまり見たことのない両刃の剣が、僅かな月明かりを反射して煌いたときにはすでに遅かった。吸い込まれるようにして切っ先が肩へと切れ込みを入れ、鮮血を滴らせる。
反射的に体を後ろに逸らして急所こそ外したものの、肩に刻まれた傷は甘く見るには無理なほど深く、激痛が痺れるように全身に走る。追撃の刃を激痛を押さえながら回避し、同時に苦無を目標に向かって投げつけたが、それは剣に弾かれて虚しく地面に落ちていった。
距離にして五メートル。空いた距離にけれど安心などできようはずもない。利き腕でないことが不幸中の幸いか、左腕から滴り落ちる生暖かい血液が地面にぽたぽたと染みを作ると、利吉は眉間に皺を寄せて舌打ちを打ちたいのを堪えた。目の前で、たった今利吉に傷を負わせた男は何を考えているのかとんと掴ませない無表情で、血塗れの剣を握って立ち尽くしている。どう仕掛けるのか考えているのだろうか、五メートルから先動かない様子は、隙だらけのようで隙がない。利吉は男の行動を何一つ見逃さないように、痛みに意識が持っていかれないように、全神経を集中させて睨みつけていたが、その行き詰る殺気にも、どうしてか。男の表情にも雰囲気にも揺らぎの一つも見当たらなかった。
それはいっそ腹立たしいほどに、男は平静で、殺し合いによる高揚も、死が間近にある恐怖も、何も感じてはいないようだった。その淡々とした姿が、いっそ恐ろしい。亡羊とした眼差し。整った面は鬱蒼と生い茂る木立の影に紛れて儚く、木々の合間から漏れいる月光が俄かに男を照らし出す。ほぼ無いに等しい月明かりのはずなのに明るいと感じるのは何故だろう。
血液を送る鼓動の音を五月蝿く思いながら、利吉は目の前の得体の知れない男に歯噛みした。
今回の仕事は、簡単ではないが決して難しい仕事でもなかった。
無論、忍びの仕事なのだから安全なものではなく命のやり取りも交えた危険なものなのは当然であったが、しかし己の実力を考えれば決して、そう決して難易度の高い任務ではなかった。それを能力があるからという驕りであったというのなら、確かに文句の一つも言えないことではあったが。途中までは巧くいっていた。特に不測の事態が起こるでもなく、無事に屋敷から密書を掠め取り追ってきた同業のものは返り討ちにするなり巻くなりしてやりすごしていた。あとは奪った密書を外で待っている仲介者に渡せば、それで利吉の任務は終わるはずだった。どこでこうなってしまったのか。それはきっと、屋敷から外へと逃亡を図ろうとしたあの時だろう、と利吉は瞳を眇めて男を見やった。
あの時、一瞬月光を遮った影に気づかなければ確実に利吉は切り殺されていた。
風を切る唸り声。視界の端を掠めた長く豊かな髪。亡羊とした光のない双眸と、感情の削げ落ちた顔。見慣れない両刃の剣を持って、男はまるで壁のように利吉の前に立ち塞がったのだ。細い細い弓張りの月光を、柔らかに浴びて。
それから、だ。相手を翻弄するはずの利吉が翻弄され、あまつさえ今窮地に立たされている。懐の密書の存在にいくばくかの安堵を覚えたが、しかし目の前の男をどうにかせねば、彼に活路はない。剣豪と呼ぶに相応しい、男。しかし剣豪と呼ぶには気迫が足らず、存在さえも儚く、そのありようはまるで影から影へと身を潜める忍びの有り方にも似ていた。
ぞっとする。まるで人とは思えないその有り方。生きている人なのかと疑う、その希薄さ、空ろさ。忍びでさえ、あくまで生きている人間であるのに、殺気の一つ、感情の揺らぎ一つ、あれは見せない。まるで、最初からそんなもの、存在していないかのように。
あぁ、男がわからない。ぞっとするほど何も見せない男に、焦燥感を煽られながら利吉は数少ない苦無を取り出して握り締めた。例え腕の一本がなくなろうと、受けた任務は遂行する。それが忍者に課せられた義務であり、利吉のプライドだ。得体の知れない男と対峙して、利吉の瞳が鋭く光る。男は、一瞬眼差しを伏せると、片手に握った剣を揺らして間合いを詰めてきた。利吉の血で塗れた両刃剣が、てらてらとぬめりを帯びて、光った。
全く、動きを読ませない。視線の動き方、足の配り方、向けられる殺気すらなく、どう攻撃を察知しろというのか。なんて厄介な相手だと、乱暴とも言える無造作な一撃をかろうじて苦無で受け止めて利吉は地を蹴って男の腹部目掛けて蹴りを放った。
しかしそれも、男は僅かな体捌きだけで受け流し、苦無と火花を散らした剣を引いて、真横に振り払う。利吉は的の大きい胴を狙ったその横薙ぎを体を深く沈みこませることで空振りにさせ、頭上の風切り音を聞く。と、同時に地面を滑るように相手の足を払った。
ガツッ、と音をたてて当たった足に、利吉は僅かに笑みを口角に浮かべた。払われた足に体勢を崩した男の体が大きく傾いだのだ。例え転げなくともそれだけ隙が出来れば、十分に相手に傷を負わせることが出来る。いや、一撃でいい。ただの一掠りさえすれば、それで。閃いた刃物の鋭い切っ先が空を裂いたとき、確かに男の目と目が重なったと、利吉は気づいていた。重なったのだ。目と目が合い、線上で交わり、視線が交差した。
確かに利吉は男を見て、男は利吉を見たというのに。
なのに、どうして見られている気がしない?!
その腹の底が煮えくり返るような、それとも水をかけられ瞬時に冷却されたような激情に、利吉の目の前がくらりと歪みを帯びる。それは、今まで繰り返してきた任務の中で、確かに。
致命的な、失敗だった。
「っ!」
スピードに乗っていた苦無の切っ先は精細に欠け、唐突に伸ばされた男の掌の側面を抉るように過ぎると、体を引く間もなく大きな手が利吉の喉下を掴んだ。がっと勢いよく突き出された手が喉を絞めると、一瞬気道が締められ呼吸が止まる。
「が はっ」
酸素が一瞬脳に回らないだけで眩暈がする。目の前がチカチカするような違和感を覚えれば、そのまま胸元を探られてはっと目を見開いた。慌てて振り払うように取り落とすことなく握り締めていた苦無を振り回すと、思ったよりもあっさりと喉を絞めていた手が離れていく。狭まった気道が開くと、一気に巡り始めた酸素にやはりこれも眩暈を覚えた。どちらにしろ視界が歪みを帯びるようで、体を飛びのかせるとけほりと咳き込んで男を睨みつけた。
(なんて失態だ・・・!)
それは男に対する怒りではなく、自分への苛立たしさに目の前が真っ赤になりそうな錯覚を利吉は覚えた。なんという屈辱、なんという失態、なんという醜態!!一瞬にして頭の天辺まで上り詰めそうになった血を、しかし忍びとしての本能が押さえ込む。
ここで冷静さを欠けば、それこそ己はもう忍びとしてはいられない。その資格すらなくなると、我を見失いそうになる怒りを寸前で押さえ込み、利吉は念じた。
(いや、冷静になれ。今あの男は手に傷を負ったはずだ。そうだ、この切っ先は確かに男の体に傷をつけた)
僅かに刃先が濡れた苦無を握り締め、利吉は今日初めて覆面の下で笑みを浮かべた。
忍びは正攻法など使わない。奇策、時に卑怯と罵られる技を用いてでも生き残る醜さが忍びの本質だ。そう、自分達は「生きて」任務を真っ当せねばなんの意味もないのだから。
例えそれが致命傷にはならずとも、構わない。”傷を負わせること”が目的であり”致命傷を負わせること”が目的ではないのだから。それを思うと己の行動は確かに失態ではあったが、成功でもある。苦無により傷ついた手からぽたりぽたりと血が筋を作るのを見つめ、利吉の武器を持つ手も強くなる。もうすぐだ。あの亡羊とした、酷くイラつく―――何も見ない双眸が、きっと驚愕に歪むはずだ。相手を仕留めるために、この苦無には毒を仕込んでいたのだから。それは死に至る毒ではないが、体の自由を奪うには十分な代物だ。
傷自体に問題はなくとも、僅かな掠り傷から進入した毒物は男の体の自由を奪い、利吉に勝利をもたらすだろう―――あれがその事実に気づき動揺を示したとき、利吉は己の溜飲が下がる心地がした。だが。
「・・・書物は、そこか」
「?!」
初めて聞いた声は、低く不思議と耳に滑りが良かった。おぼろげな月明かりに照らされながら、傷ついた手に気にしたそぶりもなく・・いや、体を巡っているだろう毒にすら、関心を払わずに。濡れた剣を、血を飛ばすように一振りして。それは、一度瞬くと、驚愕に動揺する利吉へと間合いを詰め、剣を薙ぎ払った。
ざしゅっ、と。剣先が物を切り裂く音が木立に響く。肩の痛みを押して仰け反らせた上半身、その胸元の装束が盛大に切り裂かれ、破れ、無残な有様を晒すと同時に、その破れた隙間から零れ落ちた巻物に、利吉の目が大きく見開かれる。空中を飛ぶ胸元から零れた巻物。咄嗟に手を伸ばしてそれを掴もうとしたが、利吉の手が届く一歩前に、別の手がそれを掴み、引き寄せた。それは、紛うことなく利吉を切りつけた男のしなやかな手だった。
毒に侵されているとは思えない俊敏な動作と、熱のない表情は、ようやく利吉に彼が何を求めていたのかを察せさせた。いや、何を目的としていたか、だ。
奪われた巻物を、奪い返す。男の手の中にしっかとある巻物に利吉の顔から血の気が引いたが、即座に奪い返そうと体を動かす。ビリリ、と肩の激痛が全身を走り抜けたが、利吉の目的とて巻物だ。奪い返されて、おめおめと逃げられるはずもない。
しかし、軽い混乱が利吉の脳内を駆け巡っていた。何故男は平然としているのか、何故男が動いていられるのか、何故倒れない、何故動きを制限されない、何故、あの眼差しは変わらず亡羊としているのか―――答えを導き出すとするのならば、ただ一つ。
男には、毒に対する耐性があったのだ。そうとしか考えられない。しかし、滅多なことでは毒への耐性などつけられるはずもなく、利吉の中で想定外の出来事ばかりが重なって驚愕が間をおかず押し寄せてくる様は、肩の傷も踏まえて男から巻物を奪い返すことを至難の技としていた。わかっている。このままここにいても悪戯に時間を消費し、また別の追っ手がかかるかもしれない。任務は失敗だと、見切りをつけて逃げるが正しい選択なのだと。
分かっていながら、できなかったのは、あまりに男が虚無的であったからだ。あまりにも、あの男が。しかし、そんな内輪の雑念など、今この場では余計なものでしかない。
男に仕掛けようとした利吉を食い止めたのは、同じ任に当たっていた者からの矢羽音だった。作戦実行であり要となるのは確かに利吉であったが、恐らく長くやってこない利吉に痺れを切らした相手側が様子見にやってき、そして現状を悟り指示を出したのだろう。
どうやら矢羽音には気づいていないらしく、この奇妙な男は巻物を手にしたまま、そこに佇んでいた。利吉に留めを刺そうと仕掛けるでもなく、ただ、何も読ませない能面のような顔で、そこにいるだけ。利吉の中でこれから巻物を奪い返せたら、という気持ちが湧き上がったが、動かない利吉に重ねて音による信号が送られると、動かないわけには行かない。ただでさえ任務失敗という文字が重く圧し掛かっているというのに、これ以上相手側からの不評を買うわけにも行かない。何より、冷静に考えて。この肩の傷と、動揺した感情のままでは、到底この人形のような男相手には戦いきれないと、悟っていたのだ。
プロとしての意識が、誇りが、これ以上の醜態を晒すことを拒んだ。ぎりぃ、と激しく奥歯を噛み締め、ひどく苦々しく・・・いっそ恨み辛みを込めた憎憎しげな眼光で男を睨んでから、利吉は一足飛びにその場から飛び去った。引き止める声も、追いかける気配すら、なく。
木の枝に着地を果たすと、反動で枝が僅かに音をたてて揺れる。がさりと豊かな葉が利吉の姿を下から見えないように隠すと、その視線の先。男はさももう用はなくなったとばかりに背を向けていた。なんの、躊躇も、興味も、ない。その背中は、もはや利吉と対峙し、まさに命のやり取りを行っていたことさえも、忘れたかのように揺らぎがなかった。
そのことに、ひどいショックを覚えたように拳を強く握り締める。歯が砕けるかと言うほどに噛み締め、利吉は射殺さんばかりの眼光で去り行く男の背中を見つめながら背中を向けた。枝を蹴り、樹上を駆け抜け、冷たい風が頬を撫でる。痛みを間断なく訴える肩でさえも、今の利吉にはただ煩わしいものという認識しかなかった。
血に塗れ、切り裂かれ破れた装束のみっともなさ。奪われた巻物、完膚なきまでの敗北と失敗。汚点にしかならない醜態に、――――一度として認識されなかった、その事実。
「・・・・屈辱だ」
屈辱だ、屈辱だ、屈辱だ、―――――屈辱だ!
低く、獣のような声で利吉は呟いた。全身で、表情で、雰囲気で、視線で、声で。全てで告げた、表した。屈辱だ、と。
あれは一度も利吉を見なかった。自分を殺すかもしれない存在を、自分が殺すかもしれない相手を、ただの一度も、瞳に写し取っても決して見ることなく。まるで空気のように。取るに足らないものであるかのように。
利吉など、歯牙にもかけず。あの硝子玉のような瞳は目が合った相手すら見ないのか。
あの能面のような顔は、己の体に毒が回ろうと何一つ顔色を変えないのか。
あれほどまでに邪魔をしておいて。あれほどまでに力の違いを見せ付けて。あれほどまでに、利吉の矜持をズタズタに引き裂いておきながら。
あれは、そんなことなど興味もないと、一瞬の後には忘れてしまうような些細なことだと、告げたのだ。余韻もなく、背中を向けたあの時点で。いや、あるいは、邂逅を果たしたあの瞬間から、月に空ろが照らされた瞬間から。
「屈辱だ・・・・!」
侵された矜持、踏み荒らされた己。利吉を嘲笑うかのように頭上で煌々と輝く月が、自身の血で塗れた利吉を照らし出す。まるでこの荒ぶる感情の全てを暴こうとするかのように、追いかけて。
指先を傷口に触れさせると、濡れた感触が伝わり利吉はガリッ、と傷に爪を立てた。
無論そんなことをすれば痛みは途方もなく全身を駆け巡るのだが、それを凌駕する憤怒が利吉の感覚を麻痺させている。いや、痛みを与えることでこの激情を押さえ込んでいるのかもしれない。深く、深く、肉に食い込むように、爪をたて、指を食い込ませ、刻み付ける。あの、化け物を。
※
「うひょー!なんすかこの銭の山!なにやってこんなに稼いだんすかさん?」
麻袋に詰め込まれた銭をじゃらじゃらと音をたてて弄りながら、口の端から涎を垂らしてきり丸がを見上げた。半分ほど伏せられ、きり丸を見つめる双眸は綺麗にきり丸の影を写し取り、腰に佩いた剣を抜き取りながら無言で家屋の中へと上がる。そして無造作に壁に剣を立てかけたところで、はぼそりと口を開いた。
「屋敷の、護衛をしていた」
「えっ?そんなことしてきたんすか?!」
その動きを追いかけながら、目を小銭に変えてあひゃあひゃと浮かれた声をあげていたきり丸は、の答えにぎょっと目を見開いて慌てて草履をはき捨て土間に上がり、腰を落ち着けたの横に体を滑り込ませる。しっかりと相変わらず小銭の入った袋の口は握っていたが、心なしかその顔は青褪めているように見える。
横に座って顔を覗きこんでくるきり丸をぼぅ、とした目つきで見やりながら、こくりと頷く。
その拍子に、僅かに乱れてた髪がするりと肩を滑り胸元に落ちると、きり丸は眉を潜めて唇を尖らせた。
「それって、この前盗賊から助けたおっさんのとこの?」
「あぁ」
「あの後さんに話しかけてたからなんだと思ってたけど・・・そういうことなら言ってくださいよ!いきなり出て行くって言われて俺すげぇビックリしたんすからね?」
「そうか」
「そうか、じゃないっす!ったくもう・・・まぁ、こんだけ稼げたんならいいっすけど。でも、これからはもうちっと言葉足してください」
でないと、言いかけて、きり丸は口を閉ざすと泣きそうに顔を顰め、視線を床に落とした。
いなくなったとき。引き止める言葉すら思い浮かばなかった、向けられた背中。元より無理矢理ついてきたようなもの。いつ、こうして去ってしまうか分からない、そんな糸の切れた凧のような曖昧な人であるのだと、わかっていたから。自分がいつまで、この人の傍にいることができるかなんて、わからなかったから。あぁ、いなくなるのかと、受け止めるしか、なく、て。両手を床について、ぐっと爪を立てるように握りこむ。唇を噛み締めて、小さく声を落とした。
「・・・怪我、ないですか」
問いかけは僅かに掠れて、震えていた。護衛というからには何かあったのだろう。何より常より汚れている衣服、視界に入った袖に、赤いものが付着しているのも見つけて一層の不安が煽られる。平然とこうしているのだからきっと大きな怪我はなかったのだろうが、この人のことだ。どんな怪我をしていようと変化など無きに等しい気がする、ときり丸は上目に見やると、は睫を震わせて手の甲を返した。
「しているが」
「なんで手当ての一つもしてないんすかーー!?」
極々普通に告げられ、思わずきり丸の声が荒ぶる。ざっくりと手の側面を裂いている傷口は、血こそ止まっているものの見ていて痛々しいことこの上ない。
慌てて乾いてこびりついている血を取るために水を用意しようと立ち上がったきり丸は、一度を振り向き、そして僅かに唇を震わせると、くっと真一文字に引き結んだ。
そして慌しく台所の脇に置いてある水瓶の中から水を柄杓で掬い取ると、水面に己の顔を映して覗き込む。見えた顔はあまりに情けなく眉尻が垂れ下がっており、きり丸自身情けない顔、と笑ってしまうほどだ。しかし、ぷっと吹き出したはずなのに、相変わらず見える顔は泣きそうに歪んだままで、あぁ、と吐息を零す。息が吹きかかった柄杓の中の水面は波紋を描き、きり丸は目を閉じると、か細く、頼りなく、震える声で、項垂れた。
「・・・かえって、きた・・・・」
ただそれだけのことが、こんなに胸を、満たす、だなんて。浮かんだ涙を、ごしりと袖で拭き取り、振り向いたときには、彼の瞳に涙など、欠片とも見えはしなかった。