03: もう理性がぶっ飛びそうだって知ってるか



「どうだい。とても綺麗な蘭の花だろう?お前に似合うと思って取り寄せたんだ」

 いいながら極上に微笑み、部屋一杯に所狭しと咲き誇っている様々な蘭花。しかしその中にも赤い蘭がないのは、やはり紅家を思わせるからだろうか。
 別にどうでもいいことだが。大きな花は美しく並び、確かに見事さに圧倒されかける。
 唖然とするほどの大きな蘭、中くらいの蘭、小さな蘭、と大きさも一揃えありよくまぁここまで、と感心すらした。パチパチと瞬きをして、そっと口元に袖を持っていく。にっこりと、瞳を細めてしとやかに華やかな微笑みを心がけ。

「まぁ、三兄様。本当に見事な蘭ですわね・・・わたくし、圧倒されそうですわ。この量に
「ははそうだろう。たくさんあった方が嬉しいと思って部屋一杯用意させたからね」
「えぇ本当。部屋一杯ですわ。華やかですわねぇ」
の方が可憐で華があるがな。そんなに気に入ってもらえたなら私も嬉しいよ」
「おほほほほほまあ三兄様ったらお上手なこと」
「真実だよ。私の可愛い妹」

 ニコニコニコニコニコニコ。張りつけたような笑みをお互い交し合い(いや、三兄は本気で笑っているのだが)俺はみしり、と拳を握り締めた。

「おほほほ、本当にたくさんですわねぇ、足の踏み場もないぐらいに!
「隙間という隙間にいれたからな」
「えぇ、えぇ。本当に隙間という隙間にですわね。わたくしの室の面影はいずこ?というぐらい」
「あはははは見えないね」
「うふふふふ見えませんわね」

 自らの室の手前、入り口で二人して立ち往生しつつ延々と笑みを交し続ける。入り口からすらも蘭の花が飛び出ている状態で、扉すら閉められない。
 咽かえるような花の匂いと、花自身に埋め尽された自分の部屋。寝る場所もなければまず入れもしないという自分の部屋なのに閉めだし状態。あーっはっはっはっはっはっはっはっはっ。

とっとと片付けやがれ愚兄が!!俺の部屋を勝手に蘭博覧会会場にすんじゃねえぇぇ!!!」
「そんなに褒めないでおくれよ。確かにこの蘭達は見事だが」
「褒めてねえぇぇぇ!!!ミジンコたりとも褒めてねぇよ馬鹿兄!!!限度考えろ限度を!!どこの世界に花に部屋から締め出される人間がいんだよ!!」
「路頭に迷ったら私の部屋にきても全然構わないよ。むしろ来る?」
それが狙いかテメェェェェ!!!!!!!誰が行くかちくしょう!!ちょっとそこのあなた?!この花とっとと片付けてくださいませんこと!?」

 胸倉掴んでガックンガックン揺らしても朗らかに笑うばかりのこいつは化け物だ。
 そのまま舌噛んじまえ、と思いながらも埒があかない、と悟るや否やぺいっと放り捨てて近くを通りかかった家人に言いつける。お泊り会も楽しそうだよね、などとほざく三兄はとりあえず無視だ無視。こいつらのところに泊まったらそれだけで精神が疲弊する。
 くそっ。稽古から帰ってみりゃこれかよ・・・!俺なんか恨み買うようなことしたっけか。
 それがいわゆる三兄の愛情の形なのだとは理解していても、傍からみりゃただの嫌がらせ。そして全ての花が部屋から出されるのに、丸1日かかったせいで結局拉致されるように藍家本邸の三兄、否三つ子の部屋に強制連行されたのは、一体なんの修行だというのか。誰かこいつら止めてくれ。