06: 淋しくなったら、俺を呼んで
あぁもう俺にどうしろというんだこの可愛いの。なんだこれ日頃三つ子に苦労させられている俺へのご褒美?ご褒美なのか?だったら喜んで受け取るぞゴルラァ!!
などという内心はおくびにも出さず、ひたすら縋り付くように抱きついて良いポジションに顔を埋めている(女の神秘の谷間だ)異母弟の頭をよしよしと撫でる。そうすると益々きつく抱きついてくるのだから、抱きしめ返したくなるのも当然だろう。まあもしもこれがいい年した男だったら間違いなく引っぺがすか鳩尾に一発ぐらい決めるが、今いるのは可愛い可愛い可愛い小さな弟である。多大なる性格改変も行われていない今、存分に堪能して何が悪い。可愛いんだからいいじゃないか別に。ブラコン?ハッ。どうとでも言うがいい!!
「まったく、楸瑛は甘えん坊だなぁ」
そんな歯の浮くようなことをやはり歯の浮くような満面の笑みで、けれど声だけは慈愛深く、などという目の前に三つ子がいれば「詐欺だ!」というようなことを平気でしでかしつつ、よしよしと楸瑛の黒髪を撫でる。そうすると、もぞもぞと動いて、楸瑛は谷間から顔をちらりと動かして上目に見つめて、ぷく、と頬を膨らませた。
「ねえさまが、きてくださらなかったから」
「しょうがないだろ?本家になんざ滅多にこれないんだからな」
「・・・ねえさまはぼくのあねうえです」
ぎゅっと背中に回った手に力が篭るのを感じながら、随分懐かれたな、と一人感心する。
最初の餌付けが功を奏したのだろうか。それとも別の要因か?まあなんにせよ、実はちょっとこの懐きようは驚きだったりする。なんでこんなにべったりになったかなぁ、と思いながらも可愛いからまあいいか、と楽天的に考え、拗ねたように離れない楸瑛の頭をひたすら撫でた。
「まぁなぁ、ねーさまもなー。色々あったんだよごめんなー?」
「あにうえたちもさびしがってました」
「あぁ、ウン。そうか」
その辺りは別段どうでもいい。寂しがってた?はは、俺は俺よりでかい男がどう思おうがどうでもいいぞ。てかむかつくあいつらニョキニョキでかくなりやがって。なんで俺が見上げなくちゃなんねぇんだよ。理不尽だろ。なんで俺伸びないんだよーちくしょー。
「ねえさま?」
「あ?あー、悪ぃ悪ぃ。お詫びに今度はぬいぐるみ作ってやっから。な?」
作るのはいいけど貰い手がなー。三つ子にやるのは癪に障るし。つーか別段可愛くもなくなってきた奴らが人形を部屋に飾りまくってるのは痛いだろう。しかも藍家直系が。
その点まだ楸瑛は小さいからぬいぐるみがあっても微笑ましいで終わる。でかくなったら捨てられる可能性が高いが、まあそれまで可愛がってもらえればそれはそれで。
「・・・・・・ねえさまのだきまくらとおんなじイルカがいいです」
「おーおーなんでも作ってやるよ。かっわいい楸瑛のためだもんなー?」
なでなでなでなで。微笑んで触れてやれば、楸瑛はうっとりと目を閉じて体重を預けてくる。
その様子を見て、しばらくじっとしていればいずれ寝息が聞こえてくるのが容易く予想ができた。本当は、さ。わかってた。お前がなんでこんなにも縋りついてくるのか。知ってたさ。
す、と目を細めて、あどけない寝顔のふっくらとした頬をつんと指先で突つき、溜息と共に天井を仰いだ。
「ぬいぐるみで気が紛れるんなら、いいんだけどな」
ガキには、この部屋はちと広い。