07: 美女には野獣の方が絵になるんだぜ



「我が姉上にはこれを差し上げます」

 言いながら差し出しされたものは、袋状になっている部分がよく見知った、ウツボカズラ。しかも小さな手に余りあるほど巨大な。よりによって食虫植物かよ。普通女にやるもんじゃねぇぞ。俺は気にしないけど。
 ていうかんなもんここに生息してたのか。大層可愛らしい顔をして俺を見上げ、キラキラとした目を向けてくる我が弟。(可愛い)その淡々としつつもどこか期待に満ちた眼差しに、受け取らないという選択肢などあるはずもなく。手折るどころか根っこ事採取したと思われるそれを、俺は笑顔で受け取った。  まあ部屋に入ってくる虫の駆除には使えるだろう。別に綺麗な花が欲しいお年頃でもねぇし?

「サンキュ、龍蓮。にしてもよく見つけたな、これ」

 どこに生息してたのか問いただしたいぐらいなんだが。彩雲国にもいるんだな、これ。
 プラプラと袋状になっている部分を揺らしながら感心したように問いかければ、龍蓮はどこか自慢気に胸を張った。

「近くの山で見つけたのです。その雄雄しい植物は虫を食すという、植物ながら戦闘意欲に溢れた風流な植物なのです!」
「戦闘意欲が風流かは知らねぇけど・・・近くの山ねぇ」

 一度行ってみるか、と呟けば龍蓮の瞳が輝く。本当ですか、と足に纏わりつく龍蓮の柔らかな髪をぐしゃぐしゃとなでて、興味があるからな、と頷く。そうするとパァ、と顔を明るくさせてさすが我が姉上!と歓声をあげる様子に、敬え、と無駄に胸を張ってみた。冗談だ。

「愚兄その四と一二三は風流を理解しないので、山にも興味を示さないのです。風雅のない彼等が嘆かわしい」
「あー・・・まあ、人それぞれ興味のあるもんは違うだろ。しゃーねーしゃーねー」

 俺としてもお前の感性はわからん。ぽんぽんと頭に置いた手で軽く叩いて弁護する。
 こういう、周りと一風変わった人間がいわゆる変人と呼ばれて、そして天才といわれるのだろう。血液型でいうならAB型だこいつ、絶対。まあ俺としては三つ子もABだと思うけどな。あいつ等の場合は努力型のいわゆる天才って奴だが、変人なのが致命傷だ。
 楸瑛はふっつーの良い子なのになぁ。あの子は努力型の秀才だが・・・普通、なのだ。
 こんな兄弟に挟まれたのが哀れなほどに。でもまあ龍蓮は可愛いからいいと思うんだけどよ。素直だし、純粋だし。ひねてないからいいよな。ただ突拍子がないというか感性が共有できないというかまあ一言で言えば「変人」なんだが。可愛い顔して中身がすげぇんだよな。つーかこの世界、普通にこんな天才を「天つ才」といって特殊能力みたいに存在してんだからすげぇ。黎深もそうだったし。先を見通す天つ才。空恐ろしい気持ちがしたのは嘘じゃない。本当に、何もかも見透かされているようにしか思えないほどに。
 こいつらの見る景色は、俺達とは一線を隔している。・・・・・・・・・・・・とはいっても。

「かーわいい弟には違いねぇけどなー」
「姉上は男気溢れる雄雄しい方ですよ?」
「サンキュ。美人だとか言われるより嬉しいぜ、龍蓮」

 求婚してくる男共のごみ箱にオーバースローで投げ込みたくなる口説き文句やらよりずぅっっっと、嬉しい!男前とか最高の褒め言葉じゃねぇか。男はそうであってなんぼだろ。
 藍州の美しい湖の精のようだとか口説かれてもキモくてしょうがねぇ。やめれそういうの。まあなんか何時の間にかそういう男は消えてるんだけどよ。・・・・・想像はつくが。

「龍蓮、いいか。男ってのは漢になってこそ一人前なんだぞ。漢になれよ、龍蓮!」

 お前は男で終わる器ではないのだーー!!!妙なテンションで拳を突き上げると、龍蓮は目を見開き、はい!と同じく拳を天に突き上げた。

「私は漢になって風流を極めてみせます姉上っ!」
「おう。楽しみに待ってるぜ、龍蓮」

 ニカ、と白い歯を見せて、ぐっしゃぐしゃに掻き混ぜた龍蓮の頭に、ふわりと白い羽が舞い落ちた。
 以後弟はなんつーか、色々間違った方向に成長した気がするいつかの日。