可愛いあの子



 いやまじ知らねー知らねー知らぬぇー。目の前で笑顔よろしくきらきら輝いている同じ顔とか。(しかも三つ)その下で戸惑いまくってる可愛い子とか。まあ別に小さい方はいいよ。
 その内藍家の荒波(むしろこの三つ子の荒波)に揉まれて可愛くない性格になるだろうことは明白だが、別に俺そんなの気にしないし。
 今が可愛ければそれでオッケー。将来性なんざくそ食らえ。むしろ現時点でいうのならばこの三馬鹿に振りまわされてここまできてしまったのだろう可愛い子を保護してやろうかというぐらいの良心はあるが、それをすると今後何やら関わりたくないものに強制的に関わる羽目になりそうだから二の足を踏んでいる。強くあれ少年。しかし関わりたくないのに無視しておきたいのにできない俺ってあぁなんて不憫。関わりたくないのに関わらざるをえない我が身の不幸よ。あぁどうしてわたくし藍家の妾腹に産まれてしまったの。ていうか転生なんざさせんじゃねーよ。

「邪魔ですわ長兄様次兄様三兄様。お可愛らしい弟君を持参されてもお茶ひとつ出してやるつもりはありませんわよ」
「あはは毎回毎回毎回毎回毎回つれないね可愛い妹よ」
「せめてお茶の一つは出して欲しいな愛らしい妹よ」
「それに「兄様v」と呼んでくれと言ってるじゃないか愛しい妹よ」
「誰が呼ぶか三面鏡。人外魔境を兄と呼ぶほど人間捨てていませんの。そもそも血なんか半分しか繋がってないのですからわたくしに関わるのやめてくれねー?」

 あら嫌だ口調が。なんてな。こっちが素だってーの。はん、と鼻で笑いながらお茶を一杯いれてついでに茶菓子もつけて可愛い子に差し出してみる。
 男としてあんまり吹聴はできなかったが、俺は可愛いものが大好きだ。刺繍もぬいぐるみもケーキも服も自作するほどにな!
 そう某漫画ぐらいの乙女っぷりだった。でも中身が乙女だったわけじゃないよ。ただ趣味が乙女だっただけだよ。好きな相手に頬染めてドッキン☆恋の乙女フェスティバルとかやるような性質じゃなかったからなー。
 まあだから正直生まれ変わって周り気にせず可愛いモン愛でられるのは嬉しいけどでも女になりたかったわけじゃねぇんだよ俺。
 つかー生まれ変わりたかったわけでもねーのになーと思いつつ差し出したお茶と茶菓子を戸惑いながらも礼儀正しく受け取った可愛い子は膝にお招きする。うん。この子なら歓迎してやってもいいよ。可愛くなくなったらぽいってするけど。ショタコンロリコンじょーとーじゃねぇか可愛いの好きで何が悪い。ちなみに容姿分野と性格分野と分かれます。

「楸瑛ばかりズルイぞ
「我等にも茶と茶菓子を」
「むしろその膝に」
「まあ楸瑛様とおっしゃるのですね。初めまして、わたくしと申しますの」
「は、はじめまして・・・」
「わたくし楸瑛様とは腹違いの姉という立場になりますわ。是非にも笑顔で「姉様v」とお呼びくださいませね」

 「v」がポイントである。その女の子みたいな整った可愛い顔を最大限活用して是非とも言ってほしい。なんならお兄様vでも可。

ねえさま?」
「小首傾げもグッジョブですわ楸瑛様。わたくし世の小さい男の子に萌える女の心が痛いほどわかりましてよ。ちょっとショックかもしんねぇ・・・これわたくしの手作りなんです。どうぞ存分にお食べあそばせ」
「うわぁ、とてもきれいですねえさま!」
「喜んでいただけて嬉しいですわ」
「見事な無視だな
「楸瑛まで兄達は寂しいぞ」
「お前も私達と同じ事をしているじゃないか

 うるせぇ可愛いものと可愛くないものに対する当然の差別だ。つーか今の可愛い内に存分に刷り込んでおけばでかくなっても可愛いかもしれないじゃないか。
 どうせ藍家に揉まれて可愛くない性格になるんだからせめて俺限定で可愛くてもよくねぇ?小さい子供も大好きだ。いやむしろ俺が育てて可愛いままで・・・って、直系だから無理か。
 光源氏計画やりてー。俺が光源氏で楸瑛様が紫の上?可愛いからいいじゃんピッタリピッタリ。これで女の子だったらもっと言う事ないのになー残念無念。
 とりあえず横でぶちぶちいう三面鏡は総無視して、ハムスターのごとくもぐもぐと和菓子(夏の涼をテーマに水面に金魚を泳がせてみました)を頬張る楸瑛少年を微笑ましく見守るそんな一日。