1.些細なことをきっかけに生まれるらしい
「可愛い爪だね」
「え?」
見上げればなんてことない平凡な顔。ちょっと笑顔に愛嬌があるぐらいで、普段無駄に高いレベルを見ているせいか、いまいちピンとこないそんな顔立ち。
そんな奴がニコニコ笑って、きょとんとしているこちらをついと指差した。示された先には普段あんまりつけないような淡いピンク系のネイル。ちょっとデフォルメされたひよことか乗せたファンシーなそれは、普段の自分のキャラじゃないからしないんだけど。
いつもの自分なら、もっとビビットで鮮やかなものを選ぶ。こういうファンシーなのは春歌に似合いそうで(でもあの子はしないだろうな、ネイル)、でもちょっと気分を変えたくてやってみて。別段何も言われなかったから、こんなものかと思ってたのに。
「渋谷さん、そーいうのも似合うね」
「あ、りがと」
「ん。じゃね」
なんだったんだ、ってぐらいあっさりと。踵を返した背中を呆然と見送って、無意識に爪先に触れた。
「友ちゃん?」
「・・・あ、な、なに?!春歌!」
「いえ・・・どうしたんですか?顔、赤いですよ?」
「うええ?!」
言われて、気がつく。そういや、すごく顔が熱い。指摘されて思わず両手で頬を包めば、春歌が何かに気づいたように目をはっと見開いて、まさか!と声をあげた。え?!なに!?なにが!!??
「友ちゃん、どこか具合悪いんですか!?」
「え」
「どどど、どうしましょう・・!保健室・・・!」
「なになに、どうしたの七海」
「渋谷がどうかしたのか?」
「渋谷さん、お顔真っ赤ですねぇ。風邪ですか?」
慌てる春歌に、ぞろぞろと集まるいつもの面子。こいつら相変わらず反応が素早いというか、いやそれよりも、なんだか大事になってきたような。
慌てる春歌につられてわたわたし始める音也もなっちゃんも、一人冷静に早退するか?なんて聞いてくるまさやんも。とりあえず。
「な、なんでもないから!落ち着けーー!」
叫んで、誤魔化す。
本当は、落ち着いて欲しいのは、自分の心臓だったけど。