2.お金では買えないらしい
あれから、なんか、自分が可笑しい。自分で可笑しいって自覚できるぐらい可笑しいのがわかる。だって、今まで視界にもいれてなかったのに(いや入ってたのかもしれないけど認識してなかったっていうか)、なんかやたらとあいつが目に入るし。
いなかったら何処行ったのかなって気になるし。誰かと話してたら何話してるのかなって考えるし。こっち向かないかなとか声聞きたいなとか・・・いやいやいや待ってよ、ちょっと待って。
「気のせい、気のせいよいやむしろ気の迷いよ!」
「と、友ちゃん?」
「春歌!これが所謂気の迷いってやつよね!?」
「え、えぇ!?」
机を挟んで向こう側の春歌に抱えていた頭を解放してくわっと目を見開けば、吃驚したように目を丸くさせた春歌が肩を跳ねさせた。小動物みたいな反応に、驚かせて悪かったな、と罪悪感が湧いたけれどそれ以上にまさかな自分の出来事が認められない!いや認めたらダメだと思う!
「友ちゃん、何か悩み事があるの?」
「悩みっていうか・・・あんまり考えちゃいけないっていうか・・・」
考えすぎるとド壷に入りそうで、拒否しているといった方が適切かもしれない。心配そうにきゅっと眉を寄せる春歌に、こちらも困ったように眉を下げてはああ、と溜息を吐いて机に突っ伏した。頭上でおろおろと春歌が心配してる気配が伝わってきたけれど、それにフォローする余力もない。あぁちょっと、どれだけ余裕がないのよアタシ。
だって、だって、こんなの、この学園で一番しちゃいけないことじゃない。関係ないって思ってたのに。ぶっちゃけ春歌の周辺見てるだけもう満足というか奴等面白いというか、あぁもうだから、そう。私には関係ないことだって思ってたのに!
そう思いながらも、突っ伏していた顔をずらして横を向けば、飛び込んでくる光景。・・購買から帰って来たのかな。ビニール袋を提げて笑う姿に何故か胸がきゅんと絞まった。
ちょっとぉ・・・・。あんまりにもわかりやすい自分の心臓に自己嫌悪をしながらも、それでも目を離せずにいれば、ふとこっちをみるあいつ。ぎくっと思わず体が強張った。
ばっちりかみ合う視線が線上で重なって、逸らさなければと思うのに何故か離れない。吸い寄せられるよう、なんて。あぁこういうの歌の歌詞にあるよね、とか暢気に頭のどこかで考えて。視線があったまま、僅かに首を傾げたあいつは、気がついたように自分の手元をみて、それからあぁ、と何か納得したように頷いた。
って、ちょっと、なんで、こっちにくるの・・・?!机の間をすいすい抜けてこちらに向かってくるあいつに慌てて突っ伏していた体を起こして髪を整える。いきなりがばっと体を起こしたから、春歌が驚いたようにひゃっと声をあげたが、それにごめんと声をかける余裕もなかった。だって、あいつが、もう近くに・・・!
「渋谷さん」
「な、なに」
「はい、これ。あげる」
「え?」
「さっきからずっと見てるからさー。欲しかったんでしょ?」
ずっと見てる、という言葉にドキンとしたけど、どうやら自分が見られているという意識にはならなかったらしい。ほっとするような、もっと意識しなさいよ!とじれったくなるような、複雑な気持ちで渋面を作ったが、ニコニコやっぱり馬鹿みたいに気の抜ける顔で笑うから、なんだか肩から力が抜けた。差し出されたそれを訝しく思いつつ(だって手元なんて見てなかったし)掌を見せれば、ちょこん、と何かが乗せられた。
掌に乗せるとき、ちょっとだけ触れ合った温度が、いやに熱いと感じたけれど、気のせいだと言い聞かせて転がったそれに春歌と一緒になって首を傾げた。
「ピヨちゃん・・・?」
「なんでこれ」
私、那月じゃないんだけど。奴なら確実に大喜びするだろうそれに、何故これなの、と思っていれば、あいつはん?と少し語尾をあげて首を傾げた。あ、なんだろう・・・こういう仕草、いいな。
「だって渋谷さん、こういうの好きでしょ?前も似たようなネイルしてたし。俺おまけとかいらないからさ、貰ってくれると助かる」
「アタシはゴミ箱じゃないのよ」
「そんなつもりじゃないよー。ま、いらなければ捨ててくれたらいいし。四ノ宮は確かこういうの好きだったよな?あいつにあげてもいいし、好きにしちゃってよ」
けらけらと笑って、また簡単に背中を向ける。あ、と思ったけどすぐに友達の輪に入っちゃうから、もう声なんてかけられない。どうしろっていうのよ、このストラップ。
「友ちゃん、ピヨちゃん好きでしたっけ?」
「・・・別に、好きでも嫌いでもない、けど・・・」
可愛いものは好きよ。このストラップだって可愛いとは思うわよ。でも、やっぱりこういうのつけるタイプじゃないし、そんなに好きなキャラでもないし。そう思って眉を寄せるのに、掌の上のこれを、どこにつけようか、なんて考えてる辺り、手放すなんて選択肢最初っからありはしないのだ、なんて。
「馬鹿よねー」
「ふえ?」
ただのおまけなのに、こんなに嬉しいなんて、ホント、どうしようもないじゃない。