世の中危機感は大事です。



 家の前で行き倒れを発見した場合、取るべき行動は果たしてなんだろうか。





 午後からの仕事に赴くために、やや早めに家の外に出た直後、視界に堂々と入り込んだそれにびくっと肩を跳ねさせた。思わず後ろに下がった足の踵がドアにこつりと当たる。

「え・・・えぇ?」

 人が倒れている。錯覚でなければ、こけているのを偶々目撃した、などでなければ、確実に人が(しかも男)が家の前でうつ伏せに倒れている。我が目を疑う光景に、戸惑いも露にきょろきょろと辺りを見回し、まわりに人がいないか確かめてみる。いれば救いを求めてみようかと思ったのだが、微妙な時間帯のせいか人影が見当たらない。なんということだ!私にこんなどうしたらいいのかサッパリわからん事態に一人で立ち向かえというのか!おろおろと視線を泳がせたが、やはり人影を見つけられずに、かといってスルーすることでもできずに散々迷った末、恐る恐る足を踏み出した。人が倒れているのに、真っ先に駆け寄らないというのはいかがなものかとお思いだろう。人道的にどうか、という話なのはわかっている。だがしかし、常日頃非現実に巻き込まれている私の境遇を察して欲しい。これが何かのプレリュードとならない可能性もないのだ。というか普通にビビる。家の前に人が倒れてるとか。できるならばもう一人ぐらい誰か一緒にいてくれれば声もかけよう勇気がもう少しもてるが、ここにいるの私一人だし。怖いじゃないか、色々と。これがねぇ、怪我してる!ってもっとハッキリわかれば駆け寄りもするけど・・・とりあえず無傷っぽいしなぁ・・・。近づいていいものだろうか。というか死んでたらどうしよう。いやいやさすがにそれは、そう思いながら倒れている人に近づき、ゆっくりとその人を見下ろした。・・・割と若い男性のようだ。格好は小汚いし、癖のある短い髪はボサボサ。無精ひげの生えた顎に厚いビン底のような丸眼鏡の光加減のせいで、ろくろく目も見えない。・・・・明らかにホームレスって感じだ。年頃は・・・そうだな、為りのせいで多少老けて見えないこともないが、大体二十の半ばってところだろうか。若いのに大変だとは思うが、このご時世そういうのは別に珍しくもない。町を歩けばこんな人種、割とそこかしこにいるものだ。ホームレスでないにしろ、生活が底辺の人間は大抵こんな格好だろう。私だって一歩間違えばそうならない可能性がないわけではない。
 まあ、マリアン先生がいる限りツテはそこかしこにあるから、路頭に迷うことはそうないとは思うけど・・・。ともかくも、正直関わりたくないなぁ、と思うのだが、こんなところで倒れられたら無視するわけにもいかないし、なんだかんだで放っておけない良心、というものが存在しているのだ。恐々とそっと上から声をかける。

「あの、大丈夫ですか?」

 返事がない。ただの屍のようだ。・・・・じゃなくて。ピクリとも動かない男性に、困ったように眉を下げてから、もう一度負けずに声をかける。今度は少し大きめに張り上げてみたが、残念なことにこれにも反応がない。まさか本当に死体なんてことは、と思いながらしゃがみこみ、意を決して肩に触れてみた。軽く揺さぶりながら、もう一度声をかける。

「あの、お兄さん、大丈夫ですか?起きてください、お兄さ―――うわあぁぁ!!??

 ぺちぺちと頬を叩いたり、肩を揺さぶり声をかけた瞬間、突然に動いた手がガシィ!と足首を引っつかむ。あまりのことに腹の底から声を振り絞り、思わず後ろに尻餅をついて目を丸くした。さながらゾンビが現れたかのような反応であったことだろう、今の自分の様子を簡単に説明するのならば。心臓が飛び出るかと思うほどの恐怖だ。バクバクと早鐘を打ち、耳の奥で響く血流音に、胸元を握り締めながら足首を掴む手にパクパクと口を動かす。

「ちょ、な、あ、え、だ、は、放し・・・!!」

 放してえぇぇぇぇぇ!!!ギャース!という内心の雄叫びを上げつつ、衝撃で泣きそうになりながら足首を掴んでいる手を剥がそうと指に手をかける。だがなんだこの力は!!相手は今だ寝ているというのに物凄い力なんですが嫌だなんか痕になりそうで超怖い!!
 なにこれもうやだもうやだ親切心起こしてなんでこんな目にあわなくちゃいけないの!?
 怖い怖い怖い怖い誰か!!誰でもいいから誰か助けてーーーー!!ひーん、と声をあげながら震える手で掴む指を引っ張るが、長い指は本気でピクリともしない。ちょ、ちょ、ちょ、本当になにこれ?!

「え、も、ちょ、マジで放して・・・!お兄さんお兄さん!!起きてお兄さん!いや起きなくていいから手を放してぇ・・・っ」

 ちくしょう、なんでこんなことに・・・!千年伯爵に遭遇した以来の恐怖体験だぞこれは!
 ぐいぐいと指を引っ張ると、不意に「う・・っ」という呻き声が聞こえてくる。はっと足首に集中していた意識を寝ているお兄さんに向ければ、彼は僅かに肩を震わせて、閉じていた目をゆっくりと開いていく。一瞬、ズレた眼鏡の奥から金色がかった薄茶の瞳が覗き、焦点の合わないように揺らいだ気がした。開いた目に思わず息を飲んで体の筋肉を強張らせると、さ迷っていた目が、ひたりと合わせられる。咄嗟にひ、という短い悲鳴が喉をついて出ると、お兄さんの唇が小さく戦慄いた。

「、え?」
「・・・・お腹、すいた・・・・・・」
「・・・・・・」

 言うに事欠いてそれかよ。どんなギャグ、というかそんな馬鹿な。どこぞの漫画にでもありそうな台詞回しに愕然としつつ、なんともいえない空気が周囲に落ちる。え、これで私にどうしろと?言うだけ言って再びガクリと力を抜いたお兄さんに呆然としながら、そそくさと足首の手が外れないかともう一度挑戦してみたが、やっぱり外れなかった。これは確実にわざとやってるんじゃないか、この男。なんだ、折角の鴨を逃がすかってことなのだろうか、これは。私は嵌められたのだろうか。つまり、食べ物やらんとこの恐怖体験からは逃げられないと?うわぁ・・・性質悪ぃ・・・・・。なんていうものに掴まってしまったのだろう。仏心は世の中出してしまってはいけないのだろうか・・・世知辛い世の中だ。思わず遠い目をしながら、あらゆる脱力感を覚えて肩を落として項垂れた。関わりたくない、逃げたい。心底そう思いながらも、がっちりホールドされてしまえば、女であり子供である私に逃げる術はなく。そして石をぶつける等の乱暴な実力行使も微妙にチキン過ぎる私にはできそうもなかった。というかそこまでするのはさすがにあれかと思う上に近くに手ごろな石がない。マリアン先生助けてー。めそめそと内で泣きながら、倒れこんだときに放り投げてしまった鞄をずるずると引き寄せた。そしてごそごそと中身を探り、お弁当箱を取り出す。私のお昼だが、仕方あるまい。どうせまだ時間はあるし、作ろうと思えば作れる。だって中身おにぎりだし。

「・・・・貧相なものですが、よろしければどうぞ・・・」

 ずい、と相変わらず寝たままのお兄さんの顔にお弁当を近づけると、ぴくり、と彼の眉が動いた。ぼんやりとこちらを見ていても焦点のあってなさそうだった目が、ひたりと目の前のお弁当箱に合わさる。すると、彼は大きく目を見開いてガバッとまた唐突に上半身を起き上がらせる。その反応に反射的に身を竦ませると、お兄さんは地べたに座り込んだままがしっと私のお弁当箱を掴んだ。うわ。・・・怖い・・・・。

「え、ほ、ほんと?これ貰ってもいいの?」
「うぁ・・・は、い。どうぞ・・・」

 ずい、と顔を近づけてビン底眼鏡を見せつけながら、信じられないように問いかけてくるお兄さんに、縮こまりながらこくりと頷く。本当も何も・・・お兄さん・・・・あんた手放す気すらないだろう・・・。がっしりと掴んだまま放す気配もないお弁当箱に一瞬白けた視線を向けながら、諦めたように私から手放すとお兄さんはお弁当箱を自分の方に引き寄せながらへらり、と口元を緩めた。

「ごめんね、お嬢ちゃん。・・あ、でも本当にいいの?これお嬢ちゃんの弁当・・・」
「や、もういいですよ。家すぐそこなんで」

 真後ろにありますから、家。とはさすがに言わなかったが、肩を落としてひらひらと手を振ると、多少は申し訳ないと思っているのか、お兄さんは眉をへにゃん、と下げた。そうすると愛嬌があるというか、なんとなくまあ別にいいかな、と思ってしまうのは・・・ハッ!絆されてる!?やばいやばい、と内心で思っている間に、ちらちらとお弁当と私を交互に見ていたお兄さんは、ぱん、と拝むように手を合わせた。

「じゃ、ありがたく頂きます」
「どうぞ。あぁでも本当、大したものじゃないですから」
「いーっていーって。食べれれば・・・・て、これなに?」
「おにぎりです」
「オニギリ?」

 ニコニコと笑いながらぱか、と蓋をあけて、中に敷き詰められている俵型のおにぎりと玉子焼き、ウインナーとトマトにこてり、とお兄さんが首を傾げる。こっちにはおにぎりという発想はないのだろう。大抵主食パンだしな。ていうか初対面の人に親切に説明してやる義理もないのだが、(しかも軽く恐怖体験を味合わされた後だ)純粋にじー、と答えを求めている風な視線に耐え切れず、溜息を零して眉を下げた。

「お米に味をつけて、丸めたものです。お米はわかりますよね?」
「あーライスね。へぇ。そんな料理もあるんだな」
「まあ、こちらではあまりないものでしょうけど」
「ふぅん?」

 苦笑を零しながら言えば、お兄さんは首を傾げながらお弁当についていたフォークを、問題のおにぎりにぶすっと刺して持ち上げる。普段箸か手づかみで食べる側としては妙な光景だと思いつつ、きっと初めて食べるのだろうおにぎりが口に運ばれる様子をぼんやりと見守る。というかやっと掴まれていた足首は開放されているのだが、お弁当箱どうしよう、と迷っている間になんだか立ち上がるのも微妙な間になってしまった。家の前で地べたに座り込み、見かけホームレスと面と向かっている様子・・・どうしよう、ご近所さんに見られたら変な噂が立ちそうだ・・・!ああぁぁ、と頭を抱えていると、もぐもぐとおにぎりを一つ完食したお兄さんは、ぺろりと唇を舐めて顔を綻ばせた。

「ん。うまい」
「そうですか・・・」
「初めて食ったけど塩気がきいててうまいよこれ。こっちのも食べていい?」
「どーぞどーぞ」

 半ば投げやりに言うと、気にした素振りもなくお兄さんは嬉々として玉子焼きにフォークを伸ばす。そして一々うまい、と声をあげながらパクパクと食べていく様子に、最初の緊張感というか恐怖感というものが薄れていくのを私は感じていた。これではいけない、と思うのだけれども、自分の作ったものを(いやものすごく簡単なものばかりですがね?)食べて美味しいと言われて、まあ、・・・嬉しくないわけでもない、というか。いやしかし、ダメだろう色々と。
 初対面の上に相手は怪しさ爆発の大人の男だ。油断しちゃいけない。というかこの状況で和んじゃいけない。自分に言い聞かせて、そろそろ立ち去ろうかな、と後ろ手をついてぐっと力を込めようとした、その時。はい、と目の前に空になったお弁当箱が差し出された。

「ご馳走様。いや、ホントうまかったよお嬢ちゃん。オレこんなに美味しいご飯食ったの初めて」
「はぁ・・・それは、お粗末様でした」

 そりゃ人の家の前で行き倒れるほど空腹ならなんでも美味しかろうよ。タイミングを逃し、どこかとぼけた返事を返しながら差し出されたお弁当箱を受け取り、鞄の中に仕舞い込む。
 あけすけに、どこか憎めない笑顔を向けられると、正直拍子抜けする。微妙な気持ちになりながら、顔をあげればお兄さんはニコニコしながらお腹を撫でていた。私はまた溜息を零すと、鞄の中から今度は水筒を出して、蓋をとるとそこにお茶を注いでいく。そして無言でずいっと差し出した。

「え?」
「・・・どうぞ」
「え、でも・・・」
「いや、なんかもう・・・毒を食らわば皿までといいますか。お気になさらず」
「ん?そう?・・・サンキュ」

 マリアン先生、私はきっと危機管理能力ないのだと思います。なんで絆されてるのか、とそう思いながらも差し出したお茶を飲むお兄さんに目を細めると、今度こそ立ち上がった。
 ぱっぱっと服についた土を落として、はぁ、と溜息交じりに肩の力を抜くと、お茶を飲みきったお兄さんは地べたに座り込んだまま、こちらを見上げて軽く首を傾げた。その目が何か物言いたげで、私は空になった蓋を受け取りながらなんですか、と問いかける。お兄さんはあー、とかうー、とか意味不明な言葉を呟き、それからガシガシとぼさぼさの頭をかき乱すと、なんとも言えない顔で口を開いた。

「お嬢ちゃん、食べ物分けてもらったオレがいうのもなんだけどさ、もう少し危機感もった方がいいと思うぜ?」
「・・・私も、自覚、してます・・・」

 えぇ、他人に言われるまでもなく!!痛いところを突かれてうぐ、と言葉に詰まりながらも、なんとなくあんたに言われたくはないな、と内心で言い返した。口には出せないが、そう思っていても悪くはないんじゃいかと思うのだ。無論責任転嫁というのはわかっているけれども。水筒を仕舞いこみながら、気まずそうに視線を逸らすと、不意にくすくすと笑い声が聞こえる。眉を潜めて振り向けば、口元に手をあてて笑っているお兄さんがいる。むっと眉を寄せれば、それに気づいたのかお兄さんは笑いながらゴメンゴメン、と軽い調子で謝ってきた。なんだ、なんなんだ。折角人が親切にも(それしか選択肢がなかったのだが)お弁当あげたのに笑うとはひどくないか?!というかなんで私初対面の人とこんなに和んでるの?あぁもう自分で自分がわからない。というやっぱり自分が悪いんだろうなぁ、これは、と頭を抱えたくなりながら、じろりと見れば、よいしょ、と彼が立ち上がる。・・・・・・・でかい・・・!
 立ち上がったお兄さんはすらりとした体格も手伝ってか、かなり高い身長のように思える。
 まあ、猫背な分下がっているのだが、それでも私の首が疲れるほど高いのは当然だ。
 一瞬呆気に取られながらも、はっとして一歩下がると、お兄さんはニコリと笑ってぽん、と私の頭に手を置いた。・・・はい?

「ま、お嬢ちゃんの優しさはオレ好きだけどね。おかげで飯にありつけたし。本当、女神様みたいだよ」
「・・・」

 思ったよりも優しい手つきで言いながら頭を撫でられて、返答に困りながら視線を足元に固定する。・・・・・・女神様って素で何言ってんだろうこの人・・・。

「でーも、これからは見知らぬ人間に簡単に近づいちゃだめだぜー?」
「あの、なら人の家の前で行き倒れないでください・・・」
「あはははははは」

 笑い事じゃねぇよ・・・!ついでに逃がさん、とばかりに足首掴むのもやめて欲しい。そう思いながらきっと自分にとって不都合なことは聞く気ないんだろうなぁ、と溜息を零してお兄さんを見上げた。お兄さんはへらへらと締りのない笑みを浮かべながら、サスペンダーで吊り下げているズボンのポケットに片手を突っ込む。

「ん、でも本当助かったよ。お嬢ちゃんに会わなかったらオレ餓死してたかもしれないし」
「運がよかったですね」
「ホントホント。なんかお礼したいけど・・・今オレ金ないしなぁ・・・」
「あぁ、いいですよ。別にそんなこと」

 期待なんてしてないし。そもそも見返りなんぞ求めてない。うーん、と無精ひげの生えている顎をなぞって考えるお兄さんに、ひらひらと手を振りながら言うと、ぐっと鞄を持ってにこりと笑った。

「私、これから仕事があるんです。ですからこれで失礼しますね。お兄さんも頑張ってお仕事、見つけてください」

 そして今後なるべく会わないようにしたいものだ。そう思いながら、じゃ、と片手をあげとそそくさと脇を通り抜ける。お弁当の作り直しはできなかったが、仕方ない。どこかでパンでも買うしかないか。そう思いながらやや駆け足にその場から遠ざかろうとすると、ふと後ろから「お嬢ちゃん」と声がかかった。咄嗟に立ち止まって振り向けば、お兄さんはポケットに手を突っ込んだまま、こっちを見て、緩やかに口角をつりあげている。

「・・・何か?」
「オレね、ティキっていうの。今度会うことがあったらそん時は何かお礼するからさ、お嬢ちゃんの名前教えてよ」
「や、いいです。本当、お構いなく」
「ありゃ」

 即答で拒否すると、お兄さんは変な声を出して髪の中に手を突っ込んで掻き回した。
 いや、さすがにそこまで関係を持とうとは思わないよ私。というかそこまで危機感ないわけでもないからさ。しかし、なんとなく困ったようなお兄さんに、視線を泳がせ、小さく「なら、」と呟いた。顔をあげてこっちを見たお兄さんが何?とばかりにじっと見つめてくる。その目を見返して、小さく微笑んだ。

「・・・お礼がしたいんでしたら、真っ当な職に頑張って就いてみてください。それだけで、今日の私のお昼がなくなった甲斐もでてきますから。それじゃあ、さようなら」

 それだけ言い残して、相手の返答を聞く前に走り出す。いや、無駄に時間を食ってしまったので、ちょっとバイトの時間が迫っているのである。余裕を持って外に出てよかった、本当。
 そう思いながら、今日のことは内密にしておかなくてはならないなぁ、と走りながら考える。だって普通に考えて怒られる。お前馬鹿だろう、って絶対言われる。あぁ、ティムが今回はマリアン先生についていっててよかったぁ・・・!録画されてたら鼻で笑われるか地味に叱られるところだった。ほっとしながら、それにしても、真剣に私は自分の危機感を磨かなくてはんならないな、と考える。・・・まあ、普段敵視しているのが人間、というよりも人間外ばかりなせいで、人間に対しては無防備になっているのかもしれない。なんだかんだで、良い人にばっかり助けられているのも、無防備になってしまう原因なのだろうか。無意識に、大丈夫って思ってしまうのかもしれない。大丈夫なんて、保証はどこにもないと、わかっているのに。多少の自嘲を浮かべながら、まあ、それでもあの人もそう悪い人でなくてよかった、とそう思う。今後ストーカー染みたことされたら嫌だが。そんなことはない、と思いたい。まあ、その内ここともおさらばするだろうし、そう滅多なことで会うことはないだろう。家で待ち伏せされない限りは。

「・・・・・・・・・結構不安要素あるかもしれないな・・・」

 ぼそり、とそう呟いて、早まったかもしれない、と今更ながらに思いなおした。うわぁ・・・怖い・・・・。な、なにもありませんように・・・!そう祈り、私は人の賑わう街中に飛び出した。