晴天の霹靂



 見上げた青空は高く澄んでいて、だけどどことなくぼんやりと暖かな青空だった。
 パチリと眩しい空から、呆然と見なれない屋敷の庭の片隅でへたりこんだまま、ぐるりと辺りに首を巡らせる。本当に、見なれない。いや、造りは似ているのだが、しばらく住んでいた屋敷と違うことなど論じる必要もない。庭の趣だって違うし、というよりもまず規模がなんか違う。うん。梶原邸じゃないなここ。ともかくも、私にとって見知らぬ人の家だということだけはわかり、呆けたように瞬きを繰り返し、肩に力が篭った。
 早鐘のように心臓が動き始め、耳の奥でどくどくと音が鳴るのを聞きつつ、不安と混乱で胸の奥がざわついた。おろおろとしながら、地べたに座り込んでいることに気づき、やっとこさ立ちあがるとスカートや掌についた土を叩き落とした。そうしてなんとか平静を保とうとしながら、改めて辺りを見まわす。
 しかし、いくら見ても見知らぬところには違いがなく、どうしよう、と眉間に皺を寄せた。今自分はとても情けない顔をしているに違いない。内心の不安が顔に出ているだろう、と容易にわかり、パチパチと瞬きをすると肩を落として途方に暮れた。動いてもいいものだろうか。動かなくては何もならないが、かなり立派なお屋敷の中を、不審者よろしく歩き回るのは躊躇われる。
 まあ、立派であろうとなかろうと、見知らぬ人の家なのだ。もしも見つかって何か大変なことになってしまったら、私にはどうすることもできない。なにせ不法侵入に他ならないのだから、どんな目に合うことか。しかし、人に会って話さなければここがどこなのかもどういうところなのかも、わかりはしない。なんで私がこんなところにいるんだろう、という疑問がないわけではないが、それを深く考える前にこれからどうしなければならないのか、考えることと言えばその一点に尽きる。
 見知らぬ場所に飛ばされるのはこれが二度目だが、どうするべきだろう。前は、いきなり白龍が飛びついてきて、そして望美ちゃんに出会ったから事無きを得たけれど。まあ、それに加えて九郎さん達も皆優しかったから、こちらがなんだかんだと考える前にとんとん拍子で事が進んでしまっていたのだ。
 成り行き任せともいうが、それで丸く収まっていたんだから別にいいじゃないか。しかし、今はそうもいっていられない。何故なら、誰かがくる気配も何もないからだ。
 そもそも、誰かがきたとしてもいきなり白龍達みたいに友好的に接してくれるはずもないだろうし。・・・まあ、屋敷の外の古井戸にいたはずの私が、なんで屋敷にいるんだ、という話なわけで。実は白昼夢でも見ていたというオチなら本当に嬉しい。溜息を零して、それもこれもあのアクラムもどきのせいだ!と拳を握った。
 あれが夢なら自分かなり痛々しいというか、白昼堂々なんつー変な夢見てるんだよ、ということになるが、それはともかくこんな目に合ったのはきっとあのアクラムもどきのせいだ。そうだ、そのせいに違いない。
 あの仮面め!仮面するとなんで化粧してるんだよ!取ったら化粧っ気全然なくなるくせに!変身かこのやろうっ。どんどん論点がずれてきている気がして、はっと我に返ると小さく首を振った。

「いやいやそれより・・・どうしよう・・・」

 ぽつりと呟いた声はひどく不安に揺れていた。どうもこうも、人に会わないとこの不安も解消されないだろうけれど。・・・いや、でも人に会う前に屋敷を出るっていうのも、一つの手かもしれない。ていうか出るべきじゃないか?どこお屋敷かわからないが、これだけ立派なお屋敷だ。身分も相当上の人間が住んでいることを思えば一般人、よりも怪しい異世界人がいたら普通に捕まる。捕まってなんかどえらいことになる。現代なら警察呼ばれるぐらい、場合によっては見逃してもらえるが、この時代の貴族がどうするかはわからない。景時さんたちのような人間は、割とお人好しに属すると思うので下手したら斬られることだって・・・よし、屋敷から逃げよう。都合よく事が運ぶとは思えないが、実は悪運が強かったりするかもしれないし!
 物凄く可能性の低い希望的観測を交え、うろうろと視線を泳がせてから、意を決して一歩を踏み出した。屋敷には上がらないこととして、この無駄に広い庭を歩くのか。
 あぁ、本当にただの散歩ならば、梶原邸に勝るとも劣らない庭をまったりと楽しめていたのに。状況が状況なだけに純粋に花々咲き乱れる、まさしく作り上げられた日本庭園という、静寂の似合う庭を歩きながら溜息を零すことしかできないのが残念でならなかった。しかし本当に、これは一体どうしたことなのか。

「まさか、本当にアクラムのせい、とかじゃないよね・・・?」

 誰もいないのを幸いに、ぽつりと口に出して呟く。視線は絶えず周りをうろうろと泳がせながら、ぎゅっと拳を握ってとぼとぼと歩いた。夢だと思いたいが、しかし現実に「遙かなる時空の中で3」の世界にトリップを果たしてしまった私である。もしかして本当の本当に、アクラムのいる時代(1とか2とか)に飛ばされてしまった、という可能性がないわけではないのかも、しれない。
 そんな夢物語、と笑おうにも、すでにここにいること事態が夢物語同然なので全然笑えない。あの時の状況といえば古井戸で、アクラムもどきに、呼ばれて・・・ああそういや神子だとかなんだとか言ってたような気がするが、まあ関係ないだろうそこは。
 とにかく、そのアクラムもどきに誘われて、物凄い風が吹いて、蛇のでかいバージョンみたいな何かが、とぐろを巻いてて・・・井戸に落っこちたわけで。そういえば何か不思議空間で見たことあるシルエットみたよなぁ、あれこそ夢だろうか、と思いながら家の角に当たる部分に当たり、曲がったところで私はびくり、と足を止めた。

「ん?なんだ、お前は」
「へ、あ、その・・・っ」

 怪訝そうな顔をして、曲がりきった先に立っていた武士らしき格好をした人が近づいてくる。突然の人間の登場に竦みあがり、思わずしどろもどろになった私の前に武士らしき人は立って、じろじろと上から下まで目を走らせた。その視線にぐっと言葉を飲み込んで、スカートの裾を握り締める。心臓がバクバクいっている。耳の奥でガンガン響く心音に焦りを煽られながら、しかし何をどう言い訳すればいいのかなんて、考えつくはずもない。

「見なれない顔だな・・・新しく入った女童か」
「え、あ、」
「それにしては奇妙な格好をしているな」

 人が答える前に次の話題に移られると、話についていけません。ジロリ、と正直お兄さん目が怖いです、と言いたくなるほど剣呑な目つきに、びくりと肩を揺らしてやばいかも、とぐるぐる回る頭で焦った。それと同時にあぁやっぱり変な格好だよね、と納得もする。
 上は着物なのに、下は学校のプリーツスカートだなんてどう考えても可笑しいよね。普通に町とかで浮くはずなのに誰も突っ込まないのが不思議でならなかったんだ。
 そう言うものなのかとも思ったが・・・まあ、覆面してる金髪の男がいても大した反応もしてなかったんだから、こんな格好気にすることもないのかもしれませんがね!!(正直リズ先生の格好って不審者以外の何者でもないと思うよ)焦りと共に混乱で微妙にずれていく思考で、なんとか答えようと言葉を探すのだが、頭が真っ白で何も思い浮かばない。
 元々口達者な人間でも、頭の回転が速いタイプでもないのだ。どう答えればいいのか全くわからない質問に対する答えなど持ち合わせておらず、視線を泳がせて考えあぐねていると、その様子をじっと観察していた武士の人は、険しい顔をしてむんずと腕を掴んだ。
 目を見開いて咄嗟に腕を引いたが、むしろそれは逆効果だったらしく一層力を篭められてしまった。ぎゅっと握られて痛い、と顔を顰めても、彼は険しい顔のままで低い声で言った。

「答えられぬということは、何か疚しいことがあるのだな?」
「え、ち、ちがっ」
「来い。こっちで問い詰めてやる」
「あの本当、違うんです!疚しいとかそんなこと、・・わっ?!」

 何もないんだ、と言おうと思ったのに強引且乱暴に引っ張られ、皆まで言わせて貰えずに踏鞴を踏む。ちょ、ま、マジでやばそう?!いやちょっと待ってちょっと待ってお兄さん!!
 私本当に何も考えてないっていうかまず自分の状況がわかってなかったんだって!疚しいも何もそんなこと考える暇なんてなかったんだってば!!
 待ってください、違うんですって言っても、聞き届けてもらえずにぐいぐいと引っ張られ、すでに私は半泣き状態だった。
 怖い。やだ、なんでこんな。こんな扱いそうそうされたことなんてないし、まずこんな敵意のような感情を向けられることもなかった。現代で生きていたとしても、こんな感情を正面から向けられることはあまりない。例え影で誰かに嫌われていようと陰口叩かれていようと、面と向かって言われることなんてそうそうないのだから。というか、自分よりもずっと年上の男からこんなもの向けられるなんて、考えたこともなかった。有る意味とても縁遠い話でもあるからだ。不審人物、だなんて捕まえられる経験なんてあるはずがなく、自分がどうなるのか、皆目見当がつかずにただ不安と恐怖だけが増長していく。かといって強く掴まれている腕を振り払う勇気も力もなく、為すがままにずるずると連れ歩かれるだけだ。
 本当に本当、どうなってしまうんだろう私。目の前の男の人がひたすら怖くて、逃げ出せもせずにいると、不意に目の前の背中が止まった。同時に、なんだか聞きなれた声が聞こえてくる。

「何をしている」
「は、これは若棟梁。不審な者を捕まえましたので、武士団で詰問をしようかと」
「不審な者?」

 怪訝な声が聞こえ、前の体がずれる。開けた正面の視界に、なんだかものすごーく見慣れた長身の男が映り、私は大きく目を見開いて絶句した。

「この者がか?」
「はい。何やらきょろきょろと怪しい動きをしておりましたので。それにほら、変わった身なりをしておりますでしょう」

 眉を顰めて、しかし割合無表情のまま疑問を口にした彼・・・姿形、声までも間違いなく、頼久さんその人である彼に、武士が私に視線を流して答えた。
 それにびくりと肩を揺らしながら、しかし目は頼久さんに釘付けである。あの彪柄というべきか、むしろ周りの武士と違い過ぎ!と突っ込むべきかのあの格好!前髪鬱陶しそう、と印象を思い浮かべずにはいられないあの髪型!つけ加えて聞き間違うはずもない(なにせつい最近まで有る意味生声で聞いていたのだ)あの素敵ヴォイス!うーわ、うーわ。間違いなく頼久さんだ。たぶん本物の。
 本物ってなんか言葉違う気がするけど、とにかく本物だ。人間で、生きて、動いてる。目の前に立って、そこにいる。一度目、3の世界でリアルとして動く彼等を見たときと似たような衝撃を覚え、私は呆けたように瞬きを繰り返した。
 ・・・これが夢でなく現実だとするのならば、私は、・・・・遙か1の時代にきたってことか!!??ええええええ!!!!と内心の激しい動揺も、会話をしている二人には通じないらしく頼久さんは一つ頷くと鋭い視線を私に向けてきた。その鋭さはやはり今まで受けた物がないものであり、漫画やゲーム、アニメのギャップから(映像越しのものと、実際に向けられる物は全然全く、別物だ!)より激しい動揺を覚え、肩が跳ねた。

「娘、何者だ」
「な、何者って・・・」

 ど、どう答えろと?!聞いたことがあるけど聞いたことがない、頼久さんの堅い声に戸惑いも露わに顔を歪める。何者という問いがこんなにも答えにくいだなんて、知らなかった。
 答えにくいなんてものじゃない。答えが全く見つからない。今この場で彼等が納得するような中身のある答えが私にはないし、素直に井戸から何かに呼ばれて落っこちてここにいました、なんていえるはずがない。言ったところで益々自分の立場が危うくなるだけのような気がするからだ。場合によっては問答無用で切り捨てられるかもしれない。そもそもそれ、何者っていう問いの答えじゃない。
 彼等が望むのはどういった経緯でここにいるかではなく、私がなんの目的でここにいるか、そういうことだろうから。
 目的どころかまずいる意味さえわかってない私に、答えなどあるはずもない。名前を名乗ったところで馬鹿にしているのかと言われて終わりだろう。しかし、答えないと答えないだけやはり私の不審度は上昇するばかりで。八方塞がり、四面楚歌。よもや自分がそんな体験をする羽目になるなんて!!

「答えられないか・・・」
「あ、その・・・っ」
「若棟梁、やはり武士団で詰問を」
「そうだな。連れていけ」
「えぇっ?!」

 声をあげた私を二人は無感動な目で見て、武士の人はこい、と乱暴に腕を引っ張る。痛みに顔を顰めながら、たぶん縋るような目で私は頼久さんを見たと思う。しかし、彼は特に何かを揺り動かされた風でもなく、淡々と見送るだけで。その目に、あぁこれは本当に現実なのかもしれない、と思った。
 例え知っているゲームキャラに出会おうとも、相手は至って無関心。当たり前だ。私は知っていて親しみを覚えていても、相手は私のことなんて知らないしましてや今のこの立場上、ただの怪しい不法侵入者でしかない。何かの感情が働くことなんて、有り得ないのだ。優しくされることなんてないだろうし、気遣われることもない。ただ淡々と、不審者と警護する者、という括りでしか、いられない。あの九郎さん達の態度が、まず特別だったのだ。ついでにいうなら、最初に遭遇したのが敵意を向けてくるような相手ではなかった、というのもきっと運がよかったのだろう。
 それに制服だったし、望美ちゃんとほぼ最初に出会えた事で、私の身元が証明されたといっても過言ではない。しかし、今はどうだ。出会ったのは仕事をしている武士の人で、私は制服なんて着ていない。あかねちゃんがここにいたのなら別だったのかもしれないが(きっと私のスカートに反応してくれるだろうし、まず彼女の性格上この場面を見過ごすことはないはずだ)現代組がくる様子もない。まさしく、絶体絶命。どうしようもない。
 ずるずると引っ張られながら、私は俯いて眉を寄せた。どうなってしまうんだろう。詰問って、なにされるんだろう。問い詰められても、正直答えにくいことばかりなんだが。馬鹿正直に話して、痛い目を見るようなことになったら嫌だし。嫌だな、嫌だ・・・怖い。怖い・・・!ぎゅっと拳を握ると、不意に話し声が聞こえて思わず首を動かした。
 離れたところで、廊下に誰かが立っている。そして頼久さんは、地面に膝をついていて・・・って、あれ藤姫か?!長い髪に十二単、背丈は小さく、頼久さんが膝をつくような相手。
 ここが1の世界で頼久さんがいるところならば、あれは藤姫なんだろうと思いながら、悲しくなって腕に力をこめた。ひたすらに遠い。これが現実というものだと突きつけられたようで、物語のように巧くはいかないと痛切に思い知る。

「なんで・・・」
「ん?なんだ、早く歩け!」

 ぽつりと、呟く。思わず止まっていた足に、苛ついたように武士の人は声を荒げる。
 その声に反応したように藤姫と、頼久さんが振り向いて。私は、二人を見つめて、本当になんでだろう、と思った。

「なんで・・・こんな目に・・・」

 私が、何をした。こんな目に遭うようなことを、私はしたのだろうか。余所様の家に不法侵入?そんなの自分の意思でしたことじゃない。気がついたらここだったのだ。
 責を問うなら、私をここに放り込んだ人にして欲しい。大体、ゲームの世界にくることの方が可笑しいのだ。なんの役目もないのに、なんで私がこんな異世界にこなくてはならないんだ。別に大変且つ危ない役目なんて欲しくないけど。
 平平凡凡に現実を過ごしていただけじゃないか。特別もなにもない、確かに充実したとか、生き生きしているとはいえない人生だったかもしれないが、それにしたって普通に楽しんでいたし、辛いこともあったし、嬉しいこともあったし、悲しいこともあった。普通だったんだ。それはそれで幸せだったんだ。断じてこんな無用なスペクタクルを味わいたかったわけじゃない。妄想はしてもあくまで妄想の範囲内で、現実じゃないから楽しんでいたわけで。大体、真面目に考えて現代人が異世界の見知らぬところで無事に生きていけるわけがないってことまで考えて、あくまで空想の上で全てが成り立っていたわけで。そう、だから、こんな、こんなこと。

「もう、やだ・・・っ」

 小さく、呟く。大きな声で癇癪を起こせないのが、変に理性が残って、ついでに臆病な私の欠点だ。思いっきりがよくないというか、変に本当に遠慮が働くというか。
 正直泣きたい、と奥歯を噛み締めると、不意にぎょっとしたように私の腕を掴んでいた武士が声をあげた。

「ひぃっ!?な、なん・・・っ!!??」

 その声に反応して武士を振りかえれば、何故か視界が真っ白に歪んでいく。
 え?と目を丸くして驚愕に慄いている武士からパッと頼久さん達の方を向くと、彼等もやはり驚いたように目を見開いていた、と思う。たぶん。曖昧なのは、はっきりと見る前に視界が完全にホワイトアウトしてしまったからである。そうして、パチリと瞬きをして気がつけば。

「・・・・・・・・・どこだここ!!」

 明らかにさっきまでいた屋敷とは全く別物の、どこぞの橋の上に私は立っていた。
 さらさらと川の流れる音と同時に、きしりと橋の木材が音をたてる。慌てて辺りを見まわしてみれば、なんとなく見覚えがないことも・・・と眉間に皺を寄せた。まあそりゃある程度地理っていうものはわかるし、ここはどこそこっていう場所もわかるけれど。
 200年も100年も、大して変化はないのかもしれないから、見覚えがあっても別に可笑しくはない。・・・これがどういう橋なのか、名前でもわかればまだ自分の現在地がわかるのだが。
 わ、私だって別にずっと屋敷の中で引きこもってたわけじゃないっ。外に出ることだってあるし(お使いとか)むしろ連れ出されることだってあったし!!だから、詳しくはなくともある程度のことまではわかるのだ。・・・ま、200年前だとするならば変わっているところもあるだろうから、わからないところがまた増えただろうけれど。しかしまあ・・次から次へと、一体どうしたというのだろう。全然全くついていけない事態の素早い展開に、私は頭を掻き毟って叫びたい衝動にかられた。そんなこと本当に行動に移す事は出来ないが、わけのわからなさと心細さ、不安と先ほどまでの恐怖に、じんわりと涙が浮かぶ。手の甲でぐしぐしと擦って浮かんだ涙をなかったことにしながら、顔をあげて大きく息を吐き出した。

「とりあえず、動こう・・・」

 千里の道も一歩から。まずは歩いて人のいるところにでも出ないと、どうしようもない。
 だが、さっきみたいな目にはもう遭いたくないなぁ、と切実に思いながら、もう一度小さく呟いた。

「もう、わけわかんない・・・」