晴天の霹靂



 天真が詩紋くんの服を調達しにいってしばらく。平和ともいえる均衡が崩れたのは、詩紋くんの「あっ」という声からだった。
 その声に一瞬肩を揺らし、顔をあげて視界に詩紋くんを入れると、彼は茂みから顔を出さないようにしながらも何かを凝視しているようだった。首を傾げながらにじり寄り、そっと横から声をかける。

「どうしたの、詩紋くん」
「うん・・・あそこ、」
「ん?」

 言われて指差された方向に首を動かすと、何やら小さい人影。黒髪のおかっぱ頭の女の子が、何やらきょろきょろと挙動不審に佇んでいた。膝丈の着物は・・まあ、言っちゃなんだが、みすぼらしい。生活水準が見えるよう、というよりも、なんとなく京の荒れようが思い浮かんで、僅かに眉を顰めた。まあ、下層の人間というものはあんなものなのかもしれないけれど。しばらく無言でその女の子の様子を茂みから伺ってみたが、どうにもここから動く気配がないというよりも、あれは。

「・・・迷子?」
「かも。さっきからずっとああして辺りを見まわしてるんだ」
「ふぅん・・・」

 もしかしたらさっきの騒動に巻き込まれて、親とはぐれたのかもしれない。きょろきょろと辺りを見まわす女の子の表情は不安に染まっていた。きゅっと寄せられた眉とか、今にも泣き出しそうに潤んだ目とか、不安で不安で仕方ない、とそういっているかのようだ。
 ふとその姿が、詩紋くんに出会う前の自分を思い出させた。きっとあんな風だったのだろう、と客観的目線で思い、だとしたらとても怖いだろうな、と思った。怖かったのだ、実際。私の場合迷子とかいう可愛いレベルの問題ではないけれど、見知らぬ場所に1人というのは、不安と恐怖を煽る物でしかない。押し潰されそうに、自分の存在というものが小さく見えて、怖くて、誰でもいいから助けて欲しいと思って。泣きそうになる、あの瞬間。本当に、あの瞬間は嫌なものだなぁ。
 す、と目を眇めて泣き出しそうな少女を見つめる。決して親とはぐれたのは私達のせいではない、と言いたいが、迷子だとするのならば放っておくのも、良心が咎めた。

「なんとかできないかな」
「・・・今出ていくのは、結構勇気がいるけどね」

 なにせ追いかけられた後だ。天真も戻ってきていないし、あまりこの場を動きたいとは思わない。けれど心配そうに女の子を見つめる詩紋くんとか、実際目の前に困っている小さい子を見ると、ただそれだけで無視するのは良心が咎める。例えば、白龍。彼が困っていたとしたら、私は迷わずどうしたの、と問いかける。自分でなんとかできることなら、なんとかしたいと思うだろう。今外に出ていって、もしも大人に遭遇して、何かしらに巻き込まれたら、と思わないわけではない。もしそうなったら、私はここから動いたことをとても後悔するだろう・・・動くか動かないか、しばし考えて、やがて溜息と共にむくりと立ちあがった。

ちゃん?」
「ん。行ってくるよ。詩紋くんはここにいてね。絶対動いちゃだめだよ」

 君が出ていったら起こらない騒動も起きてしまう可能性が高い。結局動けるの自分しかいないのだと思うと、どうか天真が帰ってくるまで変なことになりませんように、と心密かに祈って茂みから外に出る。詩紋くんがごめんね、と小さく言うのが聞こえて、ひらりと片手を振った。なぁに、相手は小さい子だ。それにそんな滅多なことなど起こらないだろう。
 てくてくと近寄り、俯いて泣くのを堪えているような女の子に向かって、そっと声をかけた。

「どうしたの?」
「っ」

 びくり、と震える肩。勢いよく上がった顔に、薄っすらと浮かぶ涙を見つけてにこりと笑う。
 屈んで視線を合わせると、女の子は黒髪を揺らしてパチリと瞬いた。

「えっと・・・」
「迷子、かな?お母さんとかお父さんと、はぐれたの?」

 笑顔は絶やさず、できるだけゆっくりと尋ねる。戸惑うように視線を揺らしていた少女は、しかし瞳を潤ませたまま、こくりと小さく頷いた。

「鬼がいるって聞いて、追いかけたら、ここ、どこかわからなく、なって・・・」
「そう・・・鬼を、追いかけてたんだ」

 わぁ、私ら原因ですかー。いやでも、別に故意にやってたわけじゃないし。むしろ限りなく不可効力というものであって。決して、決して私達のせいなわけでは・・・!内心でそう焦りながら、表面はつとめて穏やかに返事を返して、ふむ、と頷く。・・町中まで送ったほうがいいのかな。というか、本当に迷子ならば送らないと意味がないだろう。

「町まで行けば、おうち、わかる?」
「うん」
「ふぅん・・・そうかそうか。わかった」

 決定、だな。私にしてもここはあまり知らないといえば知らない土地でもあるが、逃げている間にもそれなりに周りの風景というものは目に入っていたし、存外記憶しているものだ。
 いやまあ、あやふやな部分は多いけれど・・・町中まで行く事はできるだろう。多分。
 いやだって、ほら、声かけたのに放っておくなんてできるはずないじゃん。最後まで面倒みないとね、さすがに。なんとかなる、たぶんなる。まあなんとかならなくても1人にしておくよりはマシなはずだ。2人でいるだけでも結構安心できるし!!

「なら、お姉ちゃんが町まで送ってあげる」
「ほんとう?」
「うん。でもちょっと待ってて、伝言しておく人がいるから」
「うん。わかった」

 そういって泣き顔からパッと笑顔に変わった女の子に一つ微笑を残し、上体を起こして踵を返す。ここで待ってて、と一つ言い残してから(だってついてこられて詩紋くん見つけられたら元も子もない)足早に茂みまで戻る。一度振りかえってみたが、大人しくその場で待っている子に小さい子って素直・・・!とじぃん、と感動しながら茂みの中で待っている詩紋くんを覗きこんだ。

ちゃん。どうだった?」
「やっぱり迷子だったみたい。町まで行けば家がわかるって言ってるから・・・送ろうと思うんだけど」
「え?道、わかるの?」
「・・・多分」
「・・・大丈夫?」

 言葉を濁すと、詩紋くんが心配そうにきゅっと眉を寄せる。確かに、わかるならまだしもわからないかもしれない状態で送るも何もないのだが、放っておく事はできないのである。
 ちらりと後ろを向けば、女の子はやはり同じ場所で大人しく待っており、期待を裏切ることはできそうもない。それがわかっているから詩紋くんもそれ以上の言葉に窮しているようで、下がった眉で向けられる視線に、私は曖昧に笑った。

「なんとかなるよ、きっと。んでまあ、ということだから、天真君が戻ってきたらそう言っておいてくれる?もしも戻ってくるのが遅かったら、・・・とりあえず探しにきて欲しいなぁって」
「うん。わかった。でもちゃん、本当に気をつけてね。まだ何があるかわからないし・・・僕も、行けたらいいんだけど」

 顰められた顔に、それは無理な相談だなぁ、と私は苦笑する。ここから出たらそれこそ元の木阿弥である。そりゃ確かに一緒にいてくれたほうが、安心といえば安心するのだけれど。
 ふ、と口角を持ち上げ手を伸ばしぐしゃぐしゃ、と詩紋くんの柔らかな金髪を掻き混ぜる。
 本当にふわふわしていて、手触りがいい、とうっとりしながら、吃驚したようにパチパチと瞬きをする詩紋くんににっこりと笑いかけた。

「大丈夫だよ。だから、待っててね」
「・・・うん。待ってるね、ちゃん。でも、何かあったら絶対駆けつけるから!」
「ん。ありがとう」

 ぐっと両拳を握り締めて真剣な顔で宣言する詩紋くんを微笑ましく見ながら(ここはときめくところなのかもしれないけど、可愛らしいと思ってしまうよ)撫でていた手を放して、ひらりと片手を振って背中を向ける。振りかえれば、不思議そうな顔をしてじっとこちらを見ている女の子が見えて、私はにっこりと笑って小走りに駆け寄った。

「ごめんね。行こうか」
「うん。お姉ちゃん、あそこに誰がいるの?」
「ん?うーん・・・友達、かな」
「どうして茂みの中なの?」
「かくれんぼしてる最中だからだよー」

 少女の手を取り、歩き出しながら質問に適当に答えていく。友達、友達でいいよね?別に。
 区切りがいまいちわからないけど、・・・知り合い以上友達未満?一緒に逃亡劇を披露した仲なんだ。友達だって言ってもいいよね。詩紋くんなら笑顔で頷いてくれるはず!
 かくれんぼってのも間違いじゃないし。ふふ。中々に危険と隣り合わせのかくれんぼですがね。あぁ、ホントに怖かった!密かに胸を撫で下ろしながら、女の子の他愛ない会話に、私は微笑んで相槌を打ち必死に町中目指して(果たしてちゃんと目指しているかは定かではない・・・)ひたすら歩いていったのである。





 道に迷いながらも歩く事数時間。(これぐらいの体感時間だったの!)人の気配とはいささか離れた物静かだった人里から、喧騒も近くなり賑やかな雰囲気が徐々に辺りを包んでいく。その様子に私はほっと安堵で胸を撫で下ろし、少女はパァ、と顔を明るくさせた。
 逸る気持ちで少女が私の腕を引っ張るように小走りに駆け始め、私もそれに合わせるように前屈みになりながらついていく。そして家の隙間を縫うように表に出れば、あっという間にそこは賑やかしい市場の有り様を見せていた。変わり様がすごいというべきか、田舎というものはこれほどまでに中心地とその周りの落差が激しい物かと、少し呆気にとられる。
 人の気配がまるでしないと思ったら、この有り様だ。まあそれでも、現代の町中の活気と比べれば、どこか寂しい気は否めない。それは多分に、怨霊が出まわっている京の現状からくるものでもあるのだろうが。けれど人の気配というものはどこか落ちつかせてくれる。
 やはり、人は1人では駄目なのだ。近くになんらかの気配がなくては、生きられない。人の気配が薄いって怖いよね、とぼんやりと考えていると不意に手から温かみが消えて、私は視線をすとんと下に落とした。視界に不安の顔も解消して、子供らしく明るく女の子が、にっこりと擬音をつけそうに目一杯頬の筋肉を動かして笑顔を浮かべている姿が入る。

「ありがとうお姉ちゃん!」
「どういたしまして。今度は気をつけてね」
「うん!ありがとー!」

 言いながらさっと駆け出して喧騒に消えていってしまった女の子の小さな背中を見送り、ふぅ、と溜息を零す。

「・・・無事つけてよかったぁ・・・!!」

 今更ながらちょっと胸がどきどきしている。これで自分まで迷子になってしまったら洒落にならないところだった。実は結構不安だったりするのである。見知らぬ土地だし。
 ひっそりと建物の隅に寄ってもたれながら、ちゃんと送り届けられたことに安堵と、賑やかな喧騒に耳を傾け目を眇める。
 見なれていて、見なれない光景。200年の間でも発展というものはするものであり、ぱっと考えただけでは昔なんてそんなに違いはない、と思っていても、実際目にしてみると大分違うのだ。そうだよね。2世紀も違うのだ。
 言葉にするだけではわからないし、そんなに実感などできるはずもないが、過去と未来を目にしてみればその発展の仕方に目覚しさすら覚える。この時代に彼等はいないし、そんな人物が生まれることもそんな時代が訪れることも、今ここに生きる人達は思いもしていない。違うんだなぁ、と思いながら、私は軽い溜息を零して壁から背中を離した。

「戻ろう」

 詩紋くん達のところへ、戻らないと。・・・結構ここまでくるのに時間食っちゃったからなぁ。
 もしかしたらすでに探しにこっちまで出てるかもしれない。巧く鉢合わせできればいいが、世の中そんな都合よくいくはずもないのはもう身に染みてわかっている。
 ここは元居た場所まで戻って、誰もいなかったらそこで待つのが常套手段だろう。2人でいればそれでよし。どちらか片方でもそれはそれで。どちらもいなかったら、やっぱり待ちの一手。問題は。

「・・・私が果たして無事に元いた場所に戻れるかってことか」

 あははー・・・結構無謀だったな、迷子送り届けるの。瞬間記憶能力みたいに、記憶能力に自信があればまだよかったけれど、残念ながらそんな道順を一度か二度で完璧に覚えられるほど有能な脳ミソではない。つけ加えるのなら、ここまでくるのにも色々とごちゃごちゃ歩き回って探しまくってしまったので、正しい道順なんてものも・・・到底わかるはずがなく。
 うん。まずい。戻れる可能性が低い。そもそも郊外なんてこの時代どこもかしこも同じに見えて、目的の人物がいなければそこが正しい場所なのか判断できないかもしれない。
 いや、でも、場所ぐらいなら、うん。見ればわかるかも、しれない。あぁでも問題はそこまでどう行くかなんだよね?!ごめん天真、詩紋くん!私マジで迷子になったかもしれない!!

「あぁぁぁ・・マジで無謀だった・・・・!」

 ここでこうしてじっとしていて果たして天真達が見つけてくれるかという保証すらないしね!あぁちょっと、なんでもっとこうちゃんと打ち合わせしておかなかったの私!迷子が見過ごせなかったからって、その後自分が路頭に迷ってたら馬鹿じゃないか。
 両手で頬をつつんで自分の無謀さ加減に自己嫌悪を覚え、ぶつぶつと呟く。
 迷子の鉄則はその場を動かない事、だが・・・ここにいて見つけてもらえるだろうか。携帯なんて便利なものはないから連絡は当然つかないし、そして、広いのだ。町中は。
 そんな中で、ねぇ・・・連絡もつかない状態で遭遇するのは結構難しいよ、ねぇ。あは、あはは、あはははははは・・・・・うっわーーーーん!!

「折角・・・!折角一応無事にやり過ごせると思ったのに・・・っ」

 ふりだしに戻るのか、今ここで!うぬおおぉぉぉ・・・・、と頭を掻き毟りたい衝動にかられながらも、ここから自分はどういう行動を取るべきかと真面目に思案する。
 この場を動かない事が、ある意味1番かもしれない。見つけてもらえる可能性は低いが、動き回ってお互い行動が把握できないよりも、1番安心はできそうだ。しかしながら、一応戻るといったわけだし、戻れない事はない、と思うし。根拠は全くないのだが、なんとなく、辿りつけそうな気がするのだ。彼等の元に。いやもう本当に根拠はないんだけど。
 それに歩けば存外道とか記憶してたりとか・・・しない、かなぁという希望的観測も持ちつつ。どうしよう、とぐぐっと眉間に皺を寄せてその二択、どちらが有効か口元を手で覆う。
 しかし、そんな頭良い人でもなければ自信家でもない私には、最良の道などというものがわかるはずもなく。
 判断に迷いに迷って、自分の優柔不断っぷりを自覚しながら、半ば必死にどうにかしなければ、と思考を巡らした。
 あぁ・・・景時さんところにいれば、こんなことで悩むこともなかったのに。こんなところに飛ばされさえしなければ。思っても、どうしようもないことなのだと、本当に嫌になるぐらいわかっているのだけれど。こんな感情、向こうでも十分味わっていたけれど。(でも向こうは確かに居場所が与えられていたから、ここよりはまだ安心感もあったが)まずい。
 一人になると、不安を覚えると、どうしても現状の恨み言しか出てこない。こんなのじゃどうにもならない。けれど消せない不安感を抱えて小さく被りを振った。・・・1人でさえなければ、こんなこと考えないのに。この現状が自業自得な分、誰にも責任転嫁もできないし。なにせ自分から進んで迷子を送り届けようとしたわけだものねぇ。
 アァ本当に、何も言えないほど自業自得だ。馬鹿だなぁ、自分。後悔を覚えるも、けれどありがとう、といわれたことまで後悔するのは何かが違う気がして、それはそれでよかったな、と思えることでもあって。ああなにこの複雑な気分。はぁ、とズレた思考に眉間を押えながら肩を落として大きな溜息を吐く。とりあえず、本当どうしようかなぁ・・・。

「――そこの娘。そんな憂い顔を浮かべて、道にでも迷ったのかい」

 ―――不意に。耳によく馴染む低い声が、滑り込むように鼓膜を震わせて。
 喧騒の中でもはっきりとよく聞こえて、よく聞いたことのあるその声に、現実でも、京でも、近くにあって、それでいて、大好きな声優さんの声にどくりと心臓が動いた。
 反射的に、聞き覚えのありまくるその声に脳内のあの腹だしスタイルが映し出され、いるはずがないという思考回路が働く前に、勢いよく振りかえった。―――恐らく、聞き馴染んだ声だったのが、いけなかったのだろう。見知らぬ人の声ではないから、警戒が薄れてしまったのだろう。聞きなれてしまって、馴染んでしまって、知りすぎてしまっていたから。
 だから、無防備にも顔を明るくさせて、振りかえってしまったのだ。振りかえった一瞬で全てが瓦解してしまったが。

「景時さっ・・・・・じゃないっ!!
「おや、つれないねぇ。他の男の名前を呼びながらこちらを向くなんて」

 にっこりと、扇子で口元を隠しながらも目を細めて笑む男にぞわっと鳥肌が立つ。咄嗟に腕を抱えて一歩後ずさり、私は顔面を蒼白にさせて唇を戦慄かせた。
 緩やかに波打つ緑色の髪、切れ長の瞳はおっとりと細められ、長身から見下ろされるとなんとも言えない心地を味わう。ゲームキャラだからか非常に整った目鼻立ち、一目で美形とわかるのは当然として、今までにはない・・あぁこれがいわゆる色気というものか?と首を傾げるような雰囲気。ねっとりしているというか・・・・・・・つーか友雅さんじゃん!!!!
 雅やかな衣装を派手に着崩して、鎖骨も丸見え状態に、しかし露出なら景時さんの方が勝ちだ!などとわけのわからない思考が働く。え、ていうか何故に友雅さんがここに?!
 言葉に詰まって口を馬鹿みたいにあけながら、友雅さんを見上げてどゆこと?と目を白黒させた。なんで、ここに、この人が?!そして何故私に声をかけるのっ。

「ん?どうしたんだい?」
「ひぃっ!」

 一歩近づき、彼が屈み込むように顔を近づける。その刹那、景時さんでは有り得ない吐息混じりの低い声質に、ぞわぞわっと鳥肌が立つキモチワルサ(嫌いじゃないが、なんかやめて!!と叫びたいあの感じ)に私は肩を跳ねさせて一気に後ろに下がった。ほぼ反射であるというか、なまじ景時さんのぽやーんと和むというかヘタレお兄さんヴォイスに聞きなれていると、この含みたっぷり吐息たっぷりの声は、私にはきつい!!
 ちょ、か、景時さんカムバアァァァァァック!!!!!内心で悲鳴をあげながら、目の前のいきなり登場の地白虎にパニックになったかのごとく、私は、逃走を図ろうと身を翻しかけた。がしかし。

「おっと、そうはいかないよ」
「なっ!!ちょ、な、なんですかぁ?!」

 がしっと二の腕を掴まれ、しかもそのまま引っ張られて、後ろからすっぽりと、抱きすくめられる。一瞬思考が止まりそうなったが、すぐに持ちなおすと顔を真っ赤にするというよりも恐怖感に血の気を引かせて、激しく腕の中で暴れた。ちょ、おま、これじゃ変態というか変質者の行動そのままだぞ?!

「はいはい、少し落ちつきたまえ。君には少し付き合ってもらいたいところがあるんだよ」
「なんですかそれっ知りませんよそんなの!!ちょ、も、本気で、は、放してぇ!!」

 つーかこの状況で落ちつくのはまず無理だろお兄さん?!穏やかに話し合いたいのならもっと誠実な部分を見せてからにしろ!!と、言いたいような、それどころではないような。
 恐怖心に泣きそうだ。実際じんわりと目尻が熱く感じられて、ばしばしと友雅さんの腕を叩きながら放して!!と叫ぶ。ちょっと周りの人もこの状況を見てどうにかしようという人間はおらんのか?!あぁというか見てくれが貴族だから平民は口答えできないのか!!絶望的かよ!
 そんなっ。どうなるの私、と一瞬目の前が真っ暗になりかけて、助けてっ!!と内心で悲鳴をあげた刹那、ばちっと体全体を何か電気なようなものが走った、気がした。

「っ、」
「へ、う、わっ」

 反射的に、友雅さんの腕が離れて、一瞬で開放された私はとっさに前に踏鞴を踏み、ばっと後ろを振りかえる。すると、片手をぷらぷらと振りながら、友雅さんが僅かに顔を顰めていた。

「どうやら悪ふざけが過ぎてしまったようだね。君の中の龍神に拒絶されてしまったようだよ」
「はぁ?」

 なに抜かしてんのこの人。またいきなりわけの判らないことをのたまいた友雅さんに隠すことなく顔を顰めて、自分の身を庇うように両手を交差させた。距離をとる事も忘れない。

「っ?」

 しかし、交差させて触れた腕から、パリ・・と乾いた音が鳴って、咄嗟に手を放す。
 痛みこそないが、まるで下敷きで髪を擦ったときの、静電気のようなパリパリとした感覚。
 何時の間にこんなに電気が、と思いながら異常な感覚に眉を寄せ、更に一歩、彼から離れた。その瞬間、足元でもまた再びバチリ、と音が響いてびくりと足が止まる。下を見てみるが、特に変化はない。ただ、・・・時折、青白い光のようなものがチリチリと見えたが。
 益々わけがわからなくなって、気味が悪くなる。なにこれ、と思いながら、しかし今度こそ、と身を翻した。なにがどうなってもいいが、わけのわからない変な事態はご免である。
 自分の身の上さえ無事ならば。そんな、あまりにも自己中心的な保身に走ると、今度は追いかけるつもりがないのか腕が伸ばされることはなく。ただ扇を持って顔を隠しながら、すっと瞳を細めて見送るだけで。その、代わりに。

「っ!!」

 正面に、人影。ぬっと突然現れたようにも見える長身の人影に、問答無用に足を止めて私は、それこそさっきの友雅さんの比ではないほどに顔から血の気を引かせた。
 濃紺の長い髪を高く結わえて、腰に携えた刀。彪柄と思しき衣服と、整った顔立ちは寡黙で冷静。鋭い眼差しに高い位置から見下ろされて、一瞬体を震わせた。

「あ、・・・っ」

 頼久、さん。現れた人影にびくりと体が硬直する。大きく目を見開いて、咄嗟に零れそうになった名前をごくりと飲み込んでぎゅっと拳を握った。すると、益々体中の電気が強くなったように思えた。ぴしりぴしり、と、どこかで音が響く。

「頼久、その娘で間違いないのだろう?」
「はい」

 後ろからの声にギクリと肩を揺らす。今度は触れてはこないけれど、それでも確実に彼の射程距離内にはいる。恐る恐る振り向けば、魅惑的に微笑む顔が見えて、やっぱり顔を前に戻した。しかし、目の前には無表情の頼久さんが佇んでいて、恐怖心に心臓が嫌な音をたてる。前門の虎、後門の狼、とは、こういう状況のことをいうのだろうか。
 でかい男2人に見事挟まれて、おまけに目の前には最悪の出会いをした人がいて。(いや、間違いなく後ろの男も最悪の出会いだ)顔面蒼白になっているのではないだろうか、今の私は。今の所京組の好感度私の中でダダ下がりなんですけど?指先が緊張と恐怖に痺れるような心地がした。どういうことだ。なんで2人が、ここに、いや、今の2人の会話から察するに、―――目的は、私?ぞくっと背筋に悪寒が走る。急速に思考が回り始め、どうして、何故、が一瞬で氷解した気がした。
 つまり、これは、―――不法侵入者を、探していた、と?捕まったら、何かされる?
 それが暴力なのか、そうでないのかは、わからないけれど。少なくとも、良いものではない気がして、私は視線を泳がせた。

「ほら頼久。君がそんなに怖い顔で睨むから、彼女が怖がっているじゃないか」
「・・・」
「全く、君ももう少し愛想よくすればいいのにね。・・・娘、先ほどはすまなかったね。悪ふざけがすぎてしまった。怖がる必要はないよ。少しばかり話がしたいだけだから、少し私達についてきて貰えないか?」

 やれやれ、と言いたそうに肩を竦めて人の良さそうな笑みを浮かべた友雅さんに、疑いの目を向ける。だってどう考えても、最初の対応はそんな簡単に水に流せるほど容易いものじゃない。警戒心をマックスにまで引き上げて、じり、と2人から離れるように後ろに後退する。困ったね、と眉を下げられても、引き上げた警戒心は下がる気配がない。
 悪いようにはしないって、物凄く邪推しかねない言葉じゃないかそれ。そもそも、そんなこと言われてのこのこついていくような人間がいるとでも思っているのか!怖いけど、ギッと相手を睨みつけて唇を引き結ぶ。上から見下ろされる4つの目に一瞬心が萎えそうになったが、絶対ついていきたくない!!と拳を握った。
 というか1人で行くなんてそんなの絶対嫌だ。せめて天真か詩紋くんがいないと無理無理無理!!そもそも、メインは彼等であって私はおまけ。彼等がいないのに、土御門に行っても意味がないじゃないか。というか私にかまけるより神子様探してこいよお前等!
 低姿勢で言ってくるが、それでも後ろにじりじりと後退すると、不意に頼久さんが動いた。
 反射的に身を竦ませて、今度は大きく一歩下がると、彼はピタリと足を止めて僅かに目を伏せた。戸惑いのような、なんともいえない表情が見えて、怪訝に眉を潜める。
 しかし、次の瞬間に私はぎょっと目を剥く羽目になった。なんと彼は、無言でその長身を折り曲げ、私に頭を下げてしまったのだ!!

「どうか、私達についてきてもらえないでしょうか?主があなたと面会したいとおっしゃっているのです」
「え・・・?」

 藤姫が?一瞬きょとりと目を瞬くが、すぐに持ちなおして顔をこわばらせる。
 益々、どうして、という思いが強くなった。不法侵入者を捕まえる雰囲気、ではないのかもしれない。そうだとするならば、問答無用に捕まえられるのだろうが、彼等はあくまで私の意思で同行して欲しい、と願い出ている。捕まえられる、という心配は少し影を潜めたが、しかしならば余計に理由がわからない、と眉間に皺を寄せた。それ以外に私を探していた理由といえば、・・・正直よくわからないが、あの場から消えた力か何かのことだろうか。
 もしかして、星の一族の占いにでも何か、私のことが出ていたのか・・・?そんな、まさか。
 把握不可能な事態に、頭がパンクしそうになり、けれど真摯な眼差しで見つめてくる2人の視線に居た堪れないかのようにさっと視線を外して――見えた姿に、目を見開いた。

っ!お前、なにしてっ」
「っ天真ぁ!!」

 人並みを掻き分けて駆け寄ってくる姿に2人の注意が一瞬削がれたのを幸いに、ばっと勢いよく駆け出して天真の元まで走る。あああぁぁよかったぁ!天真だ、天真だぁ!!一瞬にして涙が浮かびかけ、立ち止まった天真に手を伸ばして。

ちゃんっ」

 その後ろから現れた姿に、天真を素通りして小柄な体に思いっきり抱きついた。

「うわっ」
「詩紋くん詩紋くん詩紋くん・・・っ詩紋くんだぁっ」
ちゃん・・・もう大丈夫だからね。僕も天真先輩もいるからねっ」
「うん、うん・・・」

 あ、マジ泣きしそう。服は天真が調達したものなのだろうか。緑色のブレザーでなくて、画面で見慣れた、あのパッチワーク風の着物である。ついでに頭から衣を被ってちゃんと隠しているから、ここまでこれたんだな、と思いつつも、この世界での唯一縋れる人の登場に、ふにゃりと顔を崩してひし、と抱きついた。宥めるように背中を撫でられながら、ぶちぶちと「普通あそこで詩紋に抱きつくか?」とぼやく天真をちらりと見る。いや、だって。
 ・・・でかい男に抱きつくよりも同じぐらいの背丈の可愛い子に抱きついたほうが、なんか安心するというか、・・・個人的に天真より詩紋くんの方が安心するから。
 多分ここは付き合いの長さの問題だろう。さして変わらないのだが、一緒に逃亡を果たした仲なのである。気を許すならば、天真よりも詩紋くんの方がその度合いが大きい。
 浮かんだ涙を誤魔化すようにぐしぐしと手の甲で拭い、そっと詩紋くんから離れる。
 大丈夫?と心配そうに顔を寄せられ私は泣き出しそうだったことや、突然タックルかましたこととか、ちょっと公衆の面前であんまりにもあんまりな対応に一気に恥ずかしく思いつつ、へらりと笑った。

「うん。大丈夫」
「本当?・・・でも、一体何が・・・」
「はっ。んなもん、こいつ等が何かしたに決まってるだろ」

 言いながら、ギロリと剣呑な眼差しで天真が友雅さんと頼久さんを睨みつける。
 体中から敵意というものを表わしている天真に、ピクリと頼久さんの目許が動いて、やはりこちらも剣呑に細められた。その横で友雅さんは、さも厄介なことになった、と言わんばかりに嘆息して扇子で口元を隠す。
 詩紋くんは緊張したように顔を強張らせ、私を庇うように一歩前に出た。・・・現代組VS京組?
 構図的に八葉4人勢ぞろい、といった光景なのだが、え、待ってすごい険悪ムード、と目を丸くする。明らかにお互い(専ら青龍ズだが)敵意を剥き出しにして睨み合う中で、私は詩紋くんの背中でごくりと生唾を飲み込んだ。

「テメェ等、こいつに何しようとしやがった」
「何もしてはいないよ。私たちはその娘に危害を加えようとしたわけではないからね」
「ふざっけんな!だったらどうしてこいつがこんな脅えてんだよ!」

 やれやれ、と肩を落としながら言った友雅さんの態度が益々勘に触ったのか、犬歯を剥き出しにして、天真の眼光が一層強まる。そして私にしても、十分危害加わったよ最初、と思わずぼやきそうになってしまった。あれを危害と言わず何を危害というのか・・・。
 唸るように睨む天真と警戒心も露わにする詩紋くん、そしてその後ろでなんかやばいことになった、と顔を蒼くさせる私を見て、友雅さんはパチリと扇子を閉じる。

「やれやれ、取り付く島もない、か。まいったねぇ。どうする?頼久」
「・・・命令ですので、多少の無理も考えないわけでは」
「ふむ。女性に手荒な真似はしたくないのだがね。事を荒立てたいわけでもなし。君達が引いてくれると助かるんだが?」
「寝言は寝てからいいやがれ。実力行使だぁ?上等じゃねぇか!」

 言いながら拳を構える天真。その様子に溜息を零した友雅さんの横で、頼久さんがすらり、と刀を抜く。え、ていうか実力行使決定?もっとこう、話し合う努力を積むという選択肢はないと?いやむしろ、素手相手に刀?!おっとなげねぇ頼久さん!!
 抜き身の刀に、蒼白になったのは天真ではなく詩紋くんだ。天真先輩っと悲鳴じみた声に、多少天真も相手が刀、ということに思うところがあったようだが、しかし気後れした風でもない。すごい度胸、と思わないでもなかったが、・・・実力は明らかにあちらが上、なのだ。頼久さんは当たり前だし、ああみえて友雅さんだって確か武官だったはず。
 つまり、・・・実力行使というのはひっじょーに危ないというわけで。こ、殺しはしないと思うけどでも血が出るかもしれなくて、しかもそれの原因が私?え、ちょっと、それはあんまりにも。

「ま、待ってくださいっ」

 考えると途端に怖くなって、思わず詩紋くんの後ろから声を張り上げる。一斉に視線が向くのにギクリ、と肩を揺らしてどきどきとさっきから収まる事を知らない心臓をもてあまし気味に、私はぎゅっと拳を握った。

「あ、あの、私にっ何か、話があるんですよねっ?!」
「そうだよ」
「話を聞くだけ、ですよね?何も、他にはなにも、しないんですよね?」
「・・・そうだね。話を聞いて貰うだけだよ。危害を加えるつもりはないし、君を騙そうとしているわけでもない。これは、そちらに信じて貰うしかないけれど」

 こくりと頷く友雅さんに一瞬思案し、考えるように目を伏せる。・・・こういったからには、彼は多分嘘は吐かないだろう。先ほどの頼久さんの言動といい、少なくとも、屋敷に侵入した云々で捕まえられる、ということではないようだし。それに、こんなところで乱闘になって誰かが怪我をするのは嫌だ。それも私のせいで、なんて。そんなのは嫌だ。
 しかもかなりの確率で怪我をするのは天真である。それは、やはり避けたい事態だ。
 そもそも、そんなことになってしまったらただでさえ今この場でメチャクチャ険悪なのに、余計に仲がこじれてしまう。それも、望むべきところではない。彼等は八葉で、龍神の神子であるあかねちゃんを守る人達で、こんなことで一層仲違いをしてもらっちゃ困るのだ。
 別に私が苦労するわけじゃないが、・・・少なくとも仲違いの原因となってしまったら心苦しい。大体、土御門に行けばあかねちゃんに会える可能性も、天真達が八葉だとわかって生活が保証される可能性もぐっと上がる。どちらかというと、連れていってもらうことで、メリットの方が高まる傾向に強い。そう、ここで拒絶して乱闘を巻き起こすほどのデメリットはない。むしろそれは最悪のケースといってもいい。どちらにしろ最終的に土御門に赴く予定ではあったのだし(こんな方法になるとは思わなかったが)・・・・・考えるまでも、なかったのだろう、きっと。結局、私の選び取る道など、一つしかない。一度深呼吸をすると、そういえばあの静電気みたいなものは多少弱まったかな、とまだどこかピリピリしているがさほど気にならなくなったものに、なんだったのだろう、と僅か首を傾げる。不安はあるが、さっきよりも落ちついたからなのかなぁ、と思いながら詩紋くんの影から出て彼の前に立ち、私は彼等2人を見上げた。

「・・・わかりました。一緒に、行きます」
っ!こんな奴等に従う必要は・・・っ」
「天真っ・・・くん。でも、こんなところで乱闘なんて私は嫌。怖いし、・・・怪我、するかもしれないし」

 やっべ、呼び捨てにしてた。不自然に間が開いたが、誤魔化すように付け加えて力なく眉を下げる。そうすると天真は眉間に皺を寄せて、舌打ちをした。

「俺が信用できないのかよっ?」
「そうじゃないよ!でも相手、刀持ってるんだよ?天真くん素手でしょ。そんな心臓に悪いもの見せる気?!」

 見てるだけで怖いわ!!切実に訴えるとぐっと言葉を詰めて、天真が不服そうにそっぽを向く。あぁもう本当に常識で考えてよ。刀と素手だよ?刃物と生身だよ?普通に危ないし怖いから!!そんな心臓に悪いものみたくない、本気でみたくない。天真がどれだけ強いか知らないけど、頼久さんの方が強いことを私は知っているし、何よりそんな恐ろしい絵、見たくない。

「でも、ちゃんはそれでいいの?」
「いいよ、もう。・・・別に、危害を加えるわけじゃないそうだし」
「信用できるかよ」

 吐き捨てるようにいわれて、頼久さんの眉間が寄る。私は、まあそうだよなぁと思いつつも一応相手が知らない人ではない、ということでそこまで心配になることはなかった。
 まあ、出会いが出会いな分本当に怖かったけど、こうして味方もいるから幾分か落ちついていられる。きっと大丈夫。こうしてわざわざあっちから来て欲しいといってるんだから、危ないことではないはずだ。・・・私を捕まえる為の方便だったら目も当てられないけどね!!

「でも、1人じゃ嫌ですよ。2人も一緒じゃないと、私行きませんから」
「予定外だが、仕方ないね。君1人を連れていくといえば、それこそそちらの彼が暴れだしそうだ」

ちらり、と流し目が向けられて天真がけっと吐き捨てる。その顔が当然だ、と言っているようで、随分と構ってくれるのだなぁ、と思った。まあここで1人で行かせるような人達ではないことはわかっていたことだけど。ちらりと天真と詩紋くんを見つつ、吐息を零してじとりと友雅さんを見る。

「2人にも危害なんて絶対加えないでくださいよ。大切な人達なんですから」

 色んな意味でな!!私がそういうと、意外そうに友雅さんの目が見開かれ、頼久さんは沈黙して視線を伏せた。ついでに天真と詩紋くんから注がれる視線にん?と首を傾げて2人を振りかえる。そうすると、はにかむように詩紋くんが微笑んで、天真はぷい、と顔を逸らしてしまった。

「・・・どうかした?」
「ううん。なんでもないよ」

 にしては嬉しそうだね。なんだろう、と思いつつもそれどころじゃないな、と思いなおして私は友雅さん達を再び振りかえり、大きく息を吐き出して、彼等の傍に、歩み寄っていった。
 思えば往来のど真ん中でなにやってんだろうなぁ、と思わず遠くを見つめたくなる。
 遠巻きに見られているのに強い羞恥心を覚えながら、見世物じゃないやい!と叫びたい衝動にかられる。できるはずもないが。脱力を覚えつつも、私を挟むようにしてぴったりと寄りそう二人に感謝し、では行こうか、と微笑む友雅さんと、無言で踵を返した頼久さんの背中を眺めて、大きな溜息を零した。いつか私、許容量オーバーで熱出すのではないだろうか。
 そんな懸念すら浮かび、頭痛を覚えた怒涛の1日が、実はまだ終わってなかっただなんて、そんなの知ったことじゃなかったけれど。