君がいた場所に、春が舞う。
「神子、神子!見て、桜がたくさん咲いてるよ!」
「そうだね、白龍。でもあんまり上ばかり見てたらこけるよー?」
両手を広げてとたたたーと駆け出す白龍の後を、ゆっくりと歩いていきながら笑ってそう注意する。うん!と元気に返事を返しながらも嬉しそうにくるくると回っている辺り、そのうち本当にこけそうだ、と私は苦笑した。無邪気だなぁ、と思いながら白龍にならって私も周りに目を向ける。薄桃色のはなびらが、くるくると踊りながら落ちていく光景を目に捉えて、やんわりと目を細めた。
時々ふぅ、と風が通り過ぎると軽いはなびらはふわりと浮かんで、強めの風だとまだ枝についている花もさっと花弁を散らしてしまった。空中に間を置かず散らされるはなびらのおかげか、踏みしめる地面に茶色は少なく、はなびらで埋め尽くされていっている。踏まれていささか汚くなってしまっているが、それでも感嘆の吐息を零すのには十分だ。見惚れるように、桜の一群にうっとりと目を細める。晴れ渡った青空と薄桃の枝振りが、本当に綺麗だ。・・・携帯があれば迷わず撮ったのに・・・。手元にないことが悔やまれる。
あぁ、本当に勿体無い!!いささかウキウキとした気分でくるっと立ち並ぶ桜並木を眺めれば、くすり、と微かな笑い声が聞こえた。はっと僅かに硬直して、ゆっくりと隣に顔を向ける。
そこには、袈裟に手をかけながら穏やかに目を細めて微笑む弁慶さんが、私を見つめていた。・・・わけもなく恥ずかしい気持ちになったのは、小さな子供みたいに自分が浮かれていたところを見られたからだろう。・・・いや、それならもうここにいる全員に見られていることになるんですがね・・・!あぁしまった、と思いながら(久しぶりに周りの目を忘れていた)あは、と愛想笑いを浮かべる。
「綺麗、ですねー」
「そうですね。今年も見事な咲きぶりです」
苦し紛れ、というほどではないが、微妙に躊躇のある言い方にも弁慶さんはあえて突っ込むことなく話に乗ってきてくれる。それに僅かばかりほっと吐息を零すと、くすくすと朔の控え目な笑い声が聞こえた。ちら、と見れば、微笑ましげな視線がよこされる。完璧に子供扱いだな、これ。
「まあ、確かに、今年は一段と綺麗に咲いたな。・・・もっとも、お前の愛らしさには叶わないけどな?」
「っ?!ヒ、ヒノエ・・・いつの間にっ」
低くあまやかな声に、びくっと肩を揺らして弁慶さんとは反対側に振り向けば、にっこりと笑うヒノエがいる。長い睫毛を震わせて、形良い唇をほんのり持ち上げ形作る笑みの完璧なこと完璧なこと。画面で見たって、そんなに大袈裟な反応を示すことはないというのに、実物で見ればそれなりに動揺するのは一体何故なのか。これが「本物」と「二次元」の差ってものか、と思いつつ送られる視線にあはは、と笑い返す。とりあえずヒノエの発言は無視だ無視。お世辞に一々反応してたら身が持たないっての。だからといってありがとう、と返せるほど出来た人間ではないのだから。そうして曖昧に笑うと、ヒノエはまた笑みを深め、ついっと腕を動かした。きょとりと伸ばされた腕を追いかければ、細く長い指先が反応する間もなく髪に触れ、そっとそれを口元に持っていった。一連の動作に無駄がなさすぎる。
指先を整った唇にあてて、柔和に細めるヒノエの瞳に、パチパチと瞬く私が映る。
「花弁、ついてたぜ?」
「あ・・・ども」
言いながらふっと軽く唇を尖らせ息を吐いたヒノエの口元から、ひらり、と桃色のはなびらが飛んでいく。ひらひらと地面に落ちていくそれを追いかけながら、これだけひらひら落ちてれば1枚や2枚、つくこともあるだろう、と視線を戻した。しかし行動がいちいち気障ったらしいというか色っぽいというか・・・もっとこう、爽やかにというか・・・微妙に反応に困るようなやり方はやめてもらえないだろうか。まあ無理だとはわかっているけれど。
これはもうヒノエのアイデンティティのようなものだ。ヒノエを構成する部分であり全てである。諦めを含めて吐息を零し、他にもついてないかな、と軽く髪に自分で触れた。
「ふふ。さんの黒髪に、桜の花弁はよく映えますね。とても綺麗ですよ」
「はあ。そうですかね?」
「あぁ。とっちまったけど、つけていた方がよかったかもな・・・花弁もお前の髪を飾れるなら、ただ散るよりもきっと満足だろうさ」
「いや、それはそれで間抜けな気がするんだけど」
両サイドを朱雀で固められ、微妙な居心地の悪さを感じながら、適当な相槌を返す。
最近割りと慣れてきたよな、この2人にも。と、しみじみと思いながらしかし所詮割りと、というだけであって延々と続けられる口説き文句(もどき)に背筋がぞわぞわとする。
うぅ、駄目だ・・・現代日本人たる私にこんな2人の相手は荷が勝ちすぎるッ!
「2人とも、私を見ずに桜をみましょうよ。なんの為にここに着たんですか」
「花を愛でる為、だろ?愛でてるじゃないか、とびっきりの花を、ね」
そうさらりと切り返すヒノエに、思わず脱力を覚えた。ある意味直球ストレートだよね、と思いつついやだから、と思わずぼやいた。
「花は花でも桜の花を、ですから。別の花はとりあえず保留にしてください」
「残念ですね。僕にしてみれば桜よりもよほど目を惹きつけてやまない花なんですけれど」
「・・・・・・・・もう、私は桜を見ますからね」
付き合ってられない。呆れとかよりも本当に脱力である。いつまでもこんな言葉の応酬をしていれば私が疲れるだけである。人間、何事も退き際というものがあるのだ。
これ以上問答するよりも、さくっと安全地帯に逃げてしまった方がいい。・・・私にこの2人の相手を延々するのが土台無理な話なのだ。
ぷい、と顔を前に向けて2人から外し、両隣の苦笑を聞き流してさっと前に飛び出す。
深追いせずにそのままにしてくる辺りに、やっぱり退き際というものがわかってるんだろうな、あの2人も、と思いながら少し前を歩く朔と譲の傍に寄った。
後ろからさっと朔の腕を取れば、彼女は少しだけ驚いたように目を瞬き、けれどすぐに破顔して絡めた腕を引寄せてくれた。寄り沿いながら、落ちつく空気に思わず胸を撫で下ろす。
「お帰りなさい」
「ただいま。・・・ってなんか可笑しいけどね、これも。あー・・・やっぱ朔って落ちつく~・・」
「そう?嬉しいわね」
そういってはにかむ朔の笑顔に、思わずつられて私も笑う。女の子の隣が一番落ちつく。絡めた腕を解きながら(動き難いだろうし)朔の後ろをちらちらと舞い散る桜の雨に、そっと目を細めた。やっぱり私よりも朔の方が似合ってるよね。この中で朔が舞えばさぞかし美麗なことだろう。一度見てみたいな、と思いながらしかしその願いは一生口にする事はないだろう、ともわかっている。隣で微苦笑を零している譲をちら、と見上げてから、息を吐いて改めて桜を見なおした。・・・思えばこんなゆっくりとした花見は体験したことがないなぁ。
近所にもそれなりの花見スポットはあったけれど、それは連日人が詰め寄っていて行こうという気は起きなかったし。近くで見たかったけれど、あまり人込みに呑まれるのは好きじゃなかったのだ。昨今、花見の時期になればそのスポットは恐ろしいまでの人や屋台やらなんやらが集まって、騒がしいことこの上ないし。落ちついたところに行こうと思えば、それこそ穴場だとか、なんだとか、遠出しなければきっと中々見つからないに違いない。
だから、初めて。こんなにも人が少なく(ていうか皆無といってもいいぐらい)静かで、そしてたくさんの桜を眺めるのは。
「さすが過去(もどき)。人が少ないね、譲」
「そうですね・・・。いても宴会みたいなことをしている人はいませんし」
感心したように呟けば、同じように桜に見惚れていた譲が、辺りを見まわしてこくりと頷いた。譲の言葉に、確かにと軽く頷く。一応、これだけ見事な桜なのだ。
人は極端に少ないが、いないことはない。しかも集団でいるというよりも個人でいることが多いし、花見をしているというよりもただ通っている、という感じで、桜の下でお弁当を広げている人も酒を煽る人も、勿論バーベキューをしている人なんて皆無である。
現代のあのシート広げてお弁当食べてたり酒飲んでやんややってる光景とは雲泥の差だ。勿論、前日から並んで場所確保、なんてことしてる人間がいるはずもない。
この時代まだ一般的な花見なんてものは浸透していないんだな、と思わせるには十分だった。・・・そんなものは、きっとまだ貴族の間だけの話なんだろうなぁ。お花見っていつ頃から一般的になったんだろうねぇ?
「まあ、静かでいいけど・・・思えばお花見なんて久しぶりだなぁ」
「そうなんですか?」
「うん。近所だと人が多いから行く気が失せるし・・・遠出するほどの情熱もないしなぁ」
「のいたところでは花見は一般的だったの?」
「まぁね。言っちゃえばこの道一杯に人が溢れかえって、お弁当食べたりとかお酒飲んだりしてたよ。屋台とかも出てる事があるし、ぶっちゃけ花より団子みたいな感じだったのかも」
まあ、綺麗なところで食べれば食も進むってね。・・・いや、私はそんなのあんまり体験してませんが。何度も言うが、人込みは苦手なのだ。場所取りだって大変だし。しみじみと言うと、朔が感心したように頷いた。
「大分様式が違うのね・・・」
「そうだねぇ。ま、今回は私達もお弁当持参してるけどさ。譲ーどの辺で食べる?」
「場所に困ることはありませんから、この辺りでもいいんじゃないですか?」
「それもそっか」
選り取り緑すぎてどこに落ちつこうか、と思うぐらいの人のいなさ加減だもんなぁ。
ぐるり、と辺りを見まわしてうーん、と首を捻る。・・・どうせなら綺麗なところでみたい、というのが願望だが、いかんせんどこもとても綺麗である。しかも人がいない、という絶好の事態に、これはこれで場所に困るな、と思わず微苦笑を零した。選び放題過ぎて選び難い。
もう少し限定していると決めやすいのに、と思いながら誰かの意見を仰ごう、とくるりと後ろを振り返った。
「・・・・・・・・・・・・えっと、九郎さん?」
「なんだ」
「なんでそんな、ちょっと不機嫌っぽいんですか・・・?」
若干びくつきながら、和やか且綺麗な風景とは裏腹に、眉間に皺を寄せてあまり楽しくなさそうな九郎さんに問い掛ける。えっと、何かしたっけ・・・?しかし九郎さんに怒られるようなこと(稽古以外で)した覚えはない。妙に居心地の悪い威圧感に、眉を潜めた。
怒鳴られない分、何が原因なのかよくわからない。とはいっても、私はさして九郎さんとぶつかることもなく、穏やかに付き合っているからそんなに声を張り上げるようなこともないんだけど。いや、稽古の時は鬼のようですけどね、この人。さておき、いつも直情型で、とりあえず何かあれば口に出すような人だ。照れ隠しだのなんだのでぶっきらぼう且終いには怒鳴ることがあろうとも、なんとなく原因は察知できるというもの。しかしながら、今回こんな風にむっつりとされては察しようがない。怒っている、というよりもただ単にちょっと不機嫌なだけかなー?という感じだけども・・・折角の花見にそんな顔されては、こちらとしてもいい気分はあまりしない。どうしたものか、と困ったように首を傾げると、九郎さんの後ろで景時さんはいつものように眉を八の字にして笑った。
「気にしないで、ちゃん。九郎ってば仕事が滞るって、心配してるだけだからさ」
「え?仕事があったんですか?」
花見を提案したのは確かだが(しかも私は花見がしたいねぇ、とぼやいただけであって行きたい!と願ったわけではない。何時の間にかこうなっていたのだ)、仕事があったのならば無理にくることはなかったのだ。むしろ仕事の手を止めてまで付き合わせるだなんてそんな迷惑、かけるつもりは毛頭なかったのに。理由を言えば先延ばしにするか諦めるかぐらいしたのに、と口を閉ざすと、慌てたように景時さんが両手を横に振る。
「あ、ちゃんのせいじゃないからね!仕事っていってももうほとんど終わってるようなものだし、そんなに気負うものじゃないから」
「何を言っている!兄上から任された仕事は早急に終わらせなくてはいけないだろうっ」
むすりと顔を顰めて景時さんを睨み付ける九郎さんに、このブラコンめ、と内心で呟く。
本当に兄上大好きだよねこの人、と思いながらでも本当に、まだ仕事が残ってたんならつれてくるのはまずいんじゃないかなぁ、と曖昧に顔を歪めた。・・・私はお弁当とかその辺りの用意をしていて、メンバーを集めたりするのは他の人に任せてたから、どういう事情があったとか知らなかったし。九郎さんをつれてきたのは弁慶さんなんだろうな、とちらりと横目で弁慶さんを見た。しかし今から九郎さんだけ帰すってのも、可哀想過ぎる。
というか場が白ける。かといってこのまま苛々されたままってのも、あまり居心地はよくないし。どうしたものか、と頬を掻いた。
「まったく、九郎も往生際が悪いですよ。折角の花見だというのに、空気を読んでください」
「元はと言えばお前が勝手につれてきたんだろう、弁慶」
「ここ最近ろくな休みも取っていませんでしたから、ここらで息抜きをしておいたほうが効率がいいんですよ。九郎のためを思ってのことです」
「余計なお世話だ。自分の管理ぐらい自分でできる」
「薬師としての忠告なんですが・・・君は本当に意地っ張りですね。花を愛でる余裕ぐらい持って然るべきですよ。ねぇ、さん」
「え?あ、まあ、そうですね・・・」
流れる言い合いの中、さらっと唐突に話が振られて、完全聞き役に回っていた私は若干反応が遅れたが、愛想笑いと共に頷いておく。む、と九郎さんの眉が潜められたことに失敗だったか、と思ったが、弁慶さんは我が意を得たり、とばかりににっこりと微笑むので、ある意味挟まれたような気分になって落ちつかない。
「さんからも何かいってやってください」
「えー・・・」
私からもっすか?困った、という顔をして軽く首を傾げる弁慶さんに、どうせ説得するなら1人でやってくださいよ、と思いながら髪に手を差しこむ。腕を組んでむす、としている九郎さんにちら、と視線を流し、ゆっくりと逸らしながらあー・・・と内心で唸った。
というか本当、巻き込むなら景時さんにしようよ。気遣い屋のスキルはこういうところで発揮するべきでしょう。
「うーんと・・・まあ、でも、ほら、折角皆で見に来たんですし、むすっとしているよりは楽しんだ方がいいと思いますよ?皆揃っていつまたこうして見に来れるかなんて、わからないんですし」
なんで私が九郎さんの説得に入ってるんだろう、と思ったが成り行きというものだろう。
自分から関わったのだから、一応の努力はしてみる。へら、と笑いながら適当に言葉を繋げていく。九郎さんがピクリ、と眉を動かし、むっつりと黙り込んでしまった。
うーん。でも本当、今こうやってのんびりできるなんて珍しいし、なんだかんだで九郎さん達とか忙しいから、何もなくのんびりと皆で、なんか滅多にないし。これから先、何が起こるかも正直わからないんだしねぇ?(私というイレギュラーのせいで)パッと出た言葉だが、中々的を射てるんじゃないか、と思いながらそれに、と口を開く。
「見てくださいよ、上」
「上?」
「はい。・・・桜が、綺麗じゃないですか」
くいくい、と指を上に向けて促せば、怪訝そうな顔をしながらも素直に九郎さんは上を見上げる。そうして、僅かばかり息を呑んだのを見て、私はやんわりと笑みを深めた。
大きな桜の木達は目一杯腕を広げて、薄桃の花をたくさんつけて揺れている。重なり合うのは眩しいほどの青空。まるで桜に包まれているように、鮮やかなコントラストは本当に目を奪われるほど素敵なのだ。切りとって、大切に保管しておきたいぐらいに。
携帯か使い捨てカメラでもいいから、あれば絶対写真に収めるからね、私は。じ、と上を見上げる九郎さんの顎を見ながら、私は人差し指をたてた。
「ね?こんなに綺麗に咲いてるのに、見ないなんて損です損。・・・仕事とか、戦とかも、大切は大切ですけど・・・でも、こういうのも大切だと思いますよー?いい思い出としてしっかり残して、それでまた来年も、この風景を見に来れるようにがんばりましょうよ」
あれ?なんか説得と違くないか?なんか論点がずれたような、と思いつつも、九郎さんと気持ち良く桜見物ができればいい、というだけなのでまあいいか、と流すことにする。
とりあえず言うだけ言ったな、と口を閉ざすと、九郎さんはしばらく沈黙してから、顔を戻してはあ、と溜息を零した。そして、口角を持ち上げてしょうがないな、とでも言うように笑みを浮かべる。
「・・・わかった。まあ、確かにこの桜達は見事だ。過ぎたことをぐだぐだ言っていてもしようがないな」
「そうですよ。お弁当も作ってきましたから、綺麗な景色見ながら美味しいお弁当食べて、ゆっくりしましょう。こんな時間滅多にないんですし」
そういって納得した九郎さんに胸を撫で下ろし、どこで食べましょうかねーと呟きながら背中を向ける。視界に入った弁慶さんがお見事です、小さく口を動かして言うから、どもです、と軽く片手をあげて笑みを浮かべた。私なんかで説得できるんならそりゃよかったよかった。さて、問題が一つ片付いたところで次はお弁当を食べる場所である。
うーん、と首を軽く傾げて、ここは年長者の意見を仰ごう、とやや離れた位置にいるリズ先生のところまで小走りに近寄った。
「リズ先生。どこで食べたらいいですかね?」
「・・・あの木が大きく、他の木とも空間が開いている。全体を見渡すのには丁度いいだろう」
「なるほど。譲!あの木の下で食べよう!」
ということで、意見を聞いた直後、すぐさま譲を振りかえりリズ先生が示した木を指差して言えば、わかりました、と朗らかな笑顔で桜の木の下までいく。茣蓙を引くのを手伝う為に、私は譲の後を追いかけた。
「皆も早くきてくださいよー」
後に残ってる数人にそう声をかけて、譲から茣蓙を受け取り朔と一緒に敷いていく。
人数がいるから、茣蓙も割りと枚数がいるんだよね、と思いながら、協同でかかればさして時間もかかるはずもなく。並べて敷いた茣蓙を見渡して、私は軽く頷いた。
・・・本当に、こんな花見は久しぶりだな、と何段ものお重を広げていく譲を見ながら、しみじみと私は感じ入った。
「楽しみましょうね、九郎さん」
「・・・あぁ」
胡座をかいて座った九郎さんをみて、にっこりと私は笑いかけた。
来年、があるとは思えないけれど、でもこんな花見なら、是非とも来年もしたいなぁ、と私達以外人のいない桜並木を見上げて、うっとりと吐息を零した。