地球人的野菜生活。
悟飯はお母さんに捕まって勉強中。昨日、お母さんに言われていた分の課題を遊んでてこなせなかったからだ。まぁまだ遊びたい盛りのお子様なので致し方ないといえば致し方ないのだが、教育ママたるお母さんとしては見逃せないことだったらしくて、今日はみっちりとお勉強を叩きこまれるらしい。まだ両手の指にも余る年齢のお子様にそこまで詰め込んでどうすんだ、と結構本気で思うのだが、悟飯自体があんまり嫌がってないからこちらとしてもあんまり言えないんだよねぇ。
いやそりゃ勉強よりも遊びを優先したい、というちゃんとした子供心はあるよ?その場合は私も悟飯に協力して遊ぶし、怒られるときは一緒に怒られるし。ただ、それを差し引いても悟飯の従順なというか盲目的なというか・・・まぁ、なんというか、うん。ありのままを受け入れる悟飯の有り方はちょっとどうかと思うけど・・。まぁ、それもひっくるめて悟飯だし、結構いい塩梅でお父さんの茶々も入るし、原作でも割とそんな感じっぽかったから、まぁなんとでもなるかと。
いや、ホント悟飯の知能数ものすごいと思うよ。ていうかあんな幼児いるかよってぐらい。私?私は論外で。本当なら、悟飯に付き合ってお勉強をしているところなのだが、今回はとある目的があるので、悟飯には申し訳ないが一人で頑張ってもらうことにする。なに、私が寝込んでる時なんかはよく悟飯も一人で行動してるんだし、お互い様ってことで!・・・・でもあとでお土産は渡そうと思う。
さておき、お母さんも悟飯にかかりっきりになっている今がチャンス!
決意新たに、私は居間できゅっと道着の腰帯を締め直しているお父さんにぱたぱたと駆け寄った。
「お父さん!」
「ん?どうした、?」
ぼっす、と音をたてて逃がさないようにお父さんの足にしがみつくと、お父さんは微動だにしないで私を受け止めて、きょとん、とした顔で見下ろしてきた。
・・・もう二十歳も近いはずなのになんでこうもこの人童顔なんだろうなぁ。きょとん顔の似合う筋肉ムキムキ男もそうおらんぞ。服の上からでもわかる筋肉の厚みにひたすら感心しながら、きりっとできるだけ真面目な顔を作った。
いや、別に真面目な顔にする必要はないんだけど、なんとなく。
「あのね、お父さん。お願いがあるんだけど・・・」
「お願い?」
「うん。えっと、お母さんには内緒ね?悟飯にも」
「悟飯にもか?」
お母さんにはともかく、双子の兄たる悟飯にも秘密にして欲しい、ということに意外そうにお父さんは目を瞬かせて、こてん、と小首を傾げた。だからこてん、なんていう表現が似合う筋肉(以下略)はいないってーの。・・・それは置いといて。お父さんは不思議そうな顔をしながらしゃがみこんで、私と同じぐらいの目線になるとなんだ?と優しく問いかけてきた。
それに私は悟飯の部屋の方を見て、お母さんが出てこないことを確かめると、手招きをしてお父さんを更に近くに寄せる。疑いもなく顔を寄せてきたお父さんの耳元に顔を寄せて、手で囲いを作って潜めた声で「お願い」を口にした。
「あのね、私に、舞空術を教えてほしいの」
「へっ?、舞空術学びたいんか?」
「うん。えっと・・・その、空飛べるの、すっごいなぁって!」
それもあるけどぶっちゃけ何かあったときの安全のためです。筋斗雲で学びました。もしもがあったときの保険はいくらあっても困らない!!ぐっ、と拳を握ってじっとお父さんの顔を見ながら力説すると、お父さんはオラがいいけんど、と口にして、首を傾げる。
「なしてチチと悟飯にないしょなんだ?」
「うーん。お母さんはあんまりそういうのお父さんから教えてもらうのいい顔しそうにないし・・・悟飯には・・・えっと、ないしょにして、あとでびっくりさせたくて」
嘘です。確かあの子、舞空術その他諸々の格闘の基礎はお父さんじゃなくて某緑色の宇宙人から学ぶはずなので、ここで教えるのはどうかと思うわけで。
まぁ、お母さんがあの調子ならよっぽど目を盗まない限りは大丈夫そうだとは思うけど・・・念には念を入れて、こっそりと学ぼうと思う。
それに、折角ここにいるんだし、幼心に憧れた空を飛ぶということをしてみたいじゃないか。例えそれが一般人から外れる行為だとしても、すでに尻尾がある時点で色々外れていると思うし。あとは戦いにさえ関わらなければ大体平穏無事のはず。うん。
私の拙い言い訳に、お父さんはそうだなぁ、と腕を組んで頷いた。
「確かに、チチはこういうことに関しては煩いからなぁ~。んじゃ、チチと悟飯にはないしょ、だな?」
「うん。内緒!・・・あ、でも嘘はつかなくていいからね?お父さんと私の秘密ってことでお母さん達には通してね?」
てか、この父親に嘘がつけるとは思えない。それなら最初から口を割らない方向で口にチャックをさせた方がまだマシである。誘導尋問にさえ引っかからなければ口は堅い方だし。誘導尋問にさえ引っかからなければ、だが。うわぁ、怪しいなぁ・・・。しぃ、と口元に人差し指を一本持ってきてそういうと、お父さんは楽しそうに笑って、おう、と同じように人差し指を口元に持ってきた。
「オラとの秘密、だな」
「そう。私とお父さんの秘密、だよ?」
くっそこの父親可愛いな!動作が見た目子供の私よりもよっぽど無邪気さがあって可愛いぞ!?なんだこの負けた感じ・・・!ぐぬぅ、と微妙な心境になって唸っていると、お父さんは楽しそうにしながら、私をひょいと抱き上げて、家のドアを開けた。一瞬入ってくる光に目を細めると、お父さんはひどく楽しそうな様子でにか、と歯を見せて笑った。
「じゃぁ、チチに見つからない内に早くいかねぇとな!筋斗雲ー!」
「うわぁ・・・お父さん、低速飛行でお願いします」
「うん?なしてだ?」
「低速飛行で!低空は諦めるから低速で!!あとアクロバティック禁止だからね?!」
二度も同じ目にあって溜まるか!!くわ、と目を見開いて言えば、お父さんは腑に落ちない顔をしながらもわかった、と頷いてくれた。よし。てかあんた、前回私が死にかけたこと覚えてないのかよ、と思いつつ、ぴょん、と筋斗雲に飛び乗ったお父さんに子供抱きに抱き抱えられたまま、私は再び筋斗雲へと搭乗と果たしたのだった。いやいやいやいやこの体勢で?!・・・とりあえずお父さんにはがっしり抱きついておこう。あー・・・適度な速度と高さなら筋斗雲も乗り心地最高なんだけどなー。ふわもこ弾力謎素材の雲だけど。
そう思いながら、私は見晴らす限り壮大な、まるで水墨画のような山々の稜線を、絶景かな絶景かな、とのんびりと見渡した。