貴女の命は、美しい



 何が彼の人の心に影響をもたらしたのか。何が彼女を変えたのか。その理由はわからなかったけれど、確固たる決意を秘めた魂は、あまりにも美しく、鮮やかに、その輝きを増しているから。
 元々、綺麗な魂を持つひとだった。清らかなる魂は、きっと私のような存在を惹きつけて止まないのだろう。けれど、それはあまりに弱く脆弱で、ぼろぼろに傷ついていた。もう嫌だと泣いているのに、それでも確かにあり続けるその弱さに惹かれた。ぼろぼろに傷ついて、脆く吹けば消えそうな光なのに、それなのに消えずにそこにあり続ける。泣きたくなるほどに、可哀想な魂が、たまらなく愛しかった。その弱さを愛した。その儚さを惜しんだ。触れれば、暖かな魂こそを、尊んだ。
 だから呼び声に応えたのだ。だからこの人の元に舞い降りたのだ。その弱弱しくも、清く暖かな魂に惹かれたから。
 それが、一体どうしたことなのだろう。

「キャスター」

 あの人がこちらを見る。今までにない覚悟を秘めた眼差しで。
 あの人が手を握る。今までにない決意が籠った力強さで。
 あの人が口を開く。今までにない熱を込めた声色で。

「私、聖杯が欲しいの」

 あの人が言う。今まで一度も口にしなかった願いを。
 あの人が請う。今まで一度も願わなかったことを。
 あの人が囁く。今まで一度も見せなかった欲を。

「どうしても。何をしても――誰を殺しても」

 あの、弱く、脆くて、甘く、優しい人が。
 命が惜しいと脅えながら。死にたくないと凍えながら。それでも、他者の死に恐れを隠せなかったこの人が。

「だから、力を貸してほしい。私に勝利を与えてほしい――私に、この戦争を勝ち抜く力を、ちょうだい」



 今、己が弱さを飲み込んで、立ち上がったのだ!!


 
 ああ、ああ。なんて、なんて美しい魂。傷つき震える魂が、その弱さをも自覚して決めた悲壮なまでにまっすぐな願い。淡く優しい光が、その瞬間熱を帯びた輝きに生まれ変わる。
 恍惚としたため息が零れる。何より惹かれた魂が、生まれ変わるかのごとくその熱を増す姿に。

「――私は、ご主人様の目であり、耳であり、手足であり」

 そっと、手を握り返した。恭しく掲げ持つかのごとく、両の手で、白く小さな手を取って。

「ご主人様の敵を屠る剣であり」

 強くこちらを見つめる癖に、泣きそうに揺れる瞳を見つめ返して。

「貴女を、あらゆるものから守る盾」

 そっと、赤い刻印に、口づけを落とした。

「貴女の欲するすべてを、私の全てで、手に入れて見せましょう―――我がマスター」

 何がこの人を変えたのか、そんなことは知らない。
 何がこの人に悲壮な決意を固めさせたのか、そんなことは知らない。
 だが、それでもこの人が、ただ一つ。欲しいものがあるというのなら。

「ありがとう・・・っキャスター」

 私は、それを手に入れる。それで貴女が、微笑んでくれるなら。それで貴女の、悲しい決意が報われるのなら。
 


 私は、貴女のために戦い、そして「聖杯(勝利)」を捧げましょう。