覚悟は決めた。だから私は、君に全てを捧げよう
ごめんなさいという言葉は聞き飽きた。
謝らせるのはもう嫌だ。貴女のせいじゃないのに、謝罪を口にさせるなんてもう嫌だ。
私のせいじゃないという優しい言葉ももういらない。守りたかったという儚い願いも言わせたくない。
キャスター。私のサーヴァント。優しい優しい、私だけのサーヴァント。
「――これで最後にするよ」
消えゆく体。走るノイズ。敗者と勝者を隔てる
倒れ伏すキャスターの傍らに膝を突き、その華奢な体を抱き寄せて彼女の口の端から零れる鮮血を指先で拭い取る。
覚悟や思いだけでどうにかなるなんて、そんなの物語の中だけだ。怒りや悲しみでパワーアップなんて、そんなのただの絵空事。
必要なのは堅実なる努力。力を出せるだけの下地。そこに才能やら運やらがあったとしても、結局は自分の培ってきたものをどれだけ出せるか。自分が、どれだけのもの積み重ねてきたか。それ以上なんてあるわけない。
だからゲームだってレベル上げをするんだ。低いレベルじゃラスボスなんて倒せない。だから、物語は旅をする。様々なものを得るために。
顔をあげた。目の前に立つ少年王とその傍らに立つ太陽の騎士を見上げて。
その面に浮かぶ戸惑いと、疑念。何かを見極めるように細くなった少年王の翠色の瞳を見返して、踏みとどまるようにキャスターの手を握りしめた。
その手を握る強さに引き戻されたのか、少しだけ虚ろいだ瞳が意思を持って焦点を定めると、マスター?と彼女が私を呼んだ。うん。キャスター。
その声に応じるように、少年王から視線を外してキャスターを見下ろす。青ざめた頬をするりと撫でて、甘えるようにすり寄るキャスターに微笑みを浮かべる。
「キャスターが謝るのも、私を甘やかすのも、痛い思いをするのも――これで、最後にするから」
「ますたー・・・?」
「もうこんな思いさせない。もうこんな怪我なんてさせない。絶対。絶対だ。――もう、キャスターを裏切ったりなんかしない」
死なない。死なせない。負けない。負けられない。もしもまた、懲りずにあの女生徒がこの戦争を繰り返すというのなら。また、再び、この戦争が始まるというのなら。
また、こんな戦いが始まるというのなら。
「もう、踏みにじったりなんか、しないから」
貴女の思いに胡坐をかいて、利用したりなんかしないから。
きっとまた繰り返すのだろう。彼女の手によってこの世界は逆戻る。けれどそれでも構わない。もう決めたんだ。必ず優勝するって決めたんだ。聖杯を手に入れるって決めたんだ。だから、私は、始めるだけ。
「大好きだよ。大好き、キャスター。私だけの、優しいサーヴァント」
その思いに報いるだけの強さを。戦いを勝ち抜くための力を。相手を追い詰めるだけの知識を。他者の願いを切り捨てるだけの意思を。その全てを手に入れるために、聖杯を手に入れるために。始める、だけだから。
ノイズに染まる。黒く黒く染まっていく。目は見えない。耳も聞こえない。暖かさも冷たさも。何もかもを掻き消して。
「・・・長いこと、付き合わせてごめんね。キャスター」
たったこれだけの決意を固めるのに、全く、私はどれほどの時間を要するのだろうね?