異端児っていうか、ただのモブです



 科学を嫌うのならば、電気も水道もガスも使わずに過ごせばいいのに、というのは屁理屈なのだろうか。それに、外国に行くのだって、飛行機やら船やらを使うわけで。まぁ船は昔からあったにしても、今の船は大昔のそれじゃなくてコンピューターを載せたそりゃもう立派な「科学」なわけで。それこそあなたたちが無駄に遠ざけてる恩恵じゃないの、と思いつつも、口には出さないでごくりを飲み込む。別に、伝統を重んじることは悪くない。それを守ろうと頑張ってるのも、むしろ尊敬に値するぐらい素晴らしいことだ。かといって、新しいものを全く寄せ付けない、というのは・・・ちょっと違うんじゃないかなぁ。

「と、思うんだけど、ソラウはどう思う?」
「確実にこの世界では異端でしょうね。、あなたってば本当に、あのアーチボルトの人間とは思えないわ」

 そういって、紅茶を片手に呆れたような、理解し難いものを見つけたような、そんな目でこちらを見つめる友人・・・とはいっても彼女の方がいくらか年上なのだが、友人といっても遜色ない、と個人的には思っている。まぁ、そんな友人に、苦笑を浮かべて首を傾げた。

「私も、何かの間違いだったんじゃないかなって思ってるよ。当主なんてそれこそ向いてないし」
「あぁ、そういえばそろそろ正式なお披露目だったかしら?あなたが当主なんて・・・アーチボルト家は大丈夫なの?」
「いやまぁ、当主といっても表面上だけだし。とりあえず、今将来有望な子がいるから、その子が成長するまでの繋ぎ?みたいな?」

 というのを必死こいて取り付けたんだよ。いやマジで。あの家の直系だし、能力的には優秀?らしいし。正直よくわからないんですけどね。天才とか神童ってのは・・多分あれだよ。転生補正というか、中身の年齢分の人生経験のせいじゃね?と思う。まぁそれでも、一応親の期待というか、頑張らなくちゃな、と思ったので勉強、頑張りましたけど。
 おかげで時計塔で働かせて貰ってます。うん。半ば強制というかあれよあれよという間に、みたいなノリでしたけど。えぇ、今目の前にいる友人のお父様が無理やり引っ張ってきたんですよやめて私先生とか向いてないの!どっちかというとメイドとかハウスキーパーとかに向いてるの!
 てか本当、なんかもう様々なものが自分とかみ合っていないのだが、それでもギリギリ、そうギリギリなんとかやっていけてるこの現状。将来この重圧を押し付ける相手がいるからこそなんとか保っていられるが、そうでないなら私きっと逃げてた。逃げて故郷の日本に戻ってた。まぁ現在ここが故郷なんですけどね!思わず遠い目をするが、友人はそんなこと興味ないわ、とばかりに私お手製のクッキーをぱくぱくと口に運んでいる。
 ていうかこれは、なんていうか、クッキーを食べることに必死になりすぎているような・・・・。

「・・・お土産いる?」
「頂くわ」

 即答かい。まぁ、もともと用意してたからいいけども・・・。小袋にいれたクッキーを彼女に手渡しつつ。さらりと胸元に落ちてきた金糸を、鬱陶しげに後ろに払った。・・・あぁ。この髪色ほんと慣れないなぁ。自分の色であることがすごい違和感、と思いつつ、嬉しそうにクッキーを受け取るソラウに小さく微笑む。

「本当に、アーチボルト家の人間とは思えないぐらい料理上手よね。あなた」

 私、正直家のご飯じゃもう味気ないのよ。と、憂い混じりにつぶやくソラウさんに、これは遠回しに飯食わせろってことなのかなぁ、と思いながら、うちにくる?と声をかけた。瞬間、華やぐ薔薇のように嬉しげに微笑んだソラウに、この子の家の料理って・・・?と思わず、首を傾げそうになった。
 まぁ、なんであれ、この平和な時間が続けばいいなぁ、と。そう思わけでして。だから、断じて。

「・・・せーはいせんそーに参加したいわけじゃないのですよ・・・」

 ソラウさん、れーじゅ差し上げるんで、愛しのランサーさんと一緒に日本にランデブーにいったらいかがです?と、言えないほどには、友人を巻き込みたくない、と思っている自分がいることに、私は深くため息を零した。
 あ?イケメン?・・・鳳珠さまのお顔を見てたら、正直耐性なんてできてるよねー。てなもんですよ。えぇ、あの顔面兵器と黎深さまに言わしめた美貌を見ていたら、輝く貌とはいってもまぁ、あぁうん。見たことあるある。なノリになるって。だからお願い。そんなきらきらした目でこっち見んといて!あ。やめてソラウさん嫉妬の視線はやめてくださいちょ、早くチャームをなんとかするもの作らないと私の身が危ない!恋する乙女は片手で龍を殺すぐらい危険なんだから!