再会は真夜中でお願いします
ことことことこと。くつくつくつくつ。火のかかった鍋の煮立つ音と、時計のカチコチと秒針の刻む音。電源のついたテレビから午後のニュース番組が流れて地域の報道や今時の政治問題なんかが流れていく。
ほどよい雑音に満たされた空間はひどく落ち着いて、これが私が求めていた安らぎだ、としみじみとしながらお茶をすする。ちゃぶ台の上にはお茶とお茶菓子、それからレシピ本を広げて、明日はなににしようか、と鉛筆とメモ帳片手にメニューの試行錯誤だ。ふむ。かぼちゃと鶏ミンチの肉団子煮込みとかおいしそうだな。めぼしいものにチェックをいれて、メモ帳に材料を書きだしていきながら、ふと顔をあげて時計をみる。進む秒針を眺めて、ぽつりと呟いた。
「ランサー、遅いな・・」
ちょっと買い物頼んだだけなのだが・・・一応魔貌封じのアイテムは渡してるし、それなりに印象が薄くなるようなアイテムも渡している。あんまり薄くしすぎても逆に目をつけられるからなぁ。というかそれじゃ買い物もできやしないし。あの顔は是非とも有効活用させなくては。女性に捕まってはいるにしても、逃げ切ることができないわけじゃないだろう。ちょっくら買い忘れたものがあったからお願いしたんだが、それにしても遅いような。
はて、何かあったのか?・・・まぁ、あったとしても相手はサーヴァントなんだし、敵マスター及びサーヴァントでもない限りなにがどうなるとも思えないので、特に心配の必要はないか。あれでいい年した男なのだし、自分でなんとかするだろ。どうにもならなければ念話ぐらいしてくるだろうし、よしんば戦闘になればパスから伝わるものだ。うん。問題ないない。女性に襲われてたら・・・それこそ必死こいて呼びそうだから、やっぱり何もないのだろう。
明日はランサーを連れて近所の青果店に突撃だな!あそこの奥さんはもはやランサーの虜だからおまけ一杯してくれるんだよねー!やっぱ顔がいいのは違うわ。神話レベルのイケメンだし、基本的に日本人は外国人のイケメンに弱いし!自分にないものに憧れるってーの?別にガチで魅了してるわけじゃないから問題ない問題ない。
そんなことをつらつらと考えていると、不意に脳内に真剣味を帯びたグリリバヴォイスが響いた。
――主
「ランサー?」
別に、声に出す必要はないのだが、咄嗟に口から出たものはしょうがない。しかし脳内でグリリバとかなんかすげぇな。だから念話あんま好きじゃないんだよねー。っと、そんなことよりも。
「何かあったの?」
――敵サーヴァントを見つけました。相手もこちらに気が付いているようです。
「うぇ、マジで?」
――いかがいたしましょうか?
問いかけながらも、真剣に、しかし確かな高揚の感じられるランサーにそういえばこいつも武闘派だったっけな、と日頃の甲斐甲斐しさからうっかり忘れかけていたが、そのことを思い出して眉を潜めた。
できることならば、そのまま闘わずに帰ってくるのが望ましい。まだ陽も暮れてない夕餉の時間だ。あまりしたくはないが、闘うにしても時間帯が相応しくない。―――が、全く戦闘をしないで、というのも厳しいものがあるのだろう。
しばしの逡巡の後、ランサーに近くに人気のない場所はないかと尋ね、瞬時に倉庫街がある、と答えられた。こっちに引っ越してきたときに地理把握のために練り歩いていた成果か、これは。
その答えに、倉庫街なら夜になればますます人もいなくなるな、と一人納得して、とりあえずそこまで相手を誘導するように話を通す。ランサーの快諾の応えが聞こえ、一旦念話を切ると、ふぅ、とため息を吐いた。
「・・・今晩、かな。あー・・・嫌だなぁ。でも一応相手の戦力を知らないのもやばいよなー。まだ龍脈の穢れの原因わかってないけど・・・。相手はそんなことお構いなしだろうしなぁ。てかマジここの管理者なにやってんの。自分とこの管轄のくせに把握してないってなんなの。あーもーいやだなぁぁぁぁぁ」
ぐったりとちゃぶ台に突っ伏し、めそりと泣き言を漏らす。でもなぁ、相手がどんなのか知らないのは怖いもんなぁ。戦争だもんなぁ。情報は命ですよねぇ。様子見ぐらいはしとくべきだよねぇ。それに偶にはランサーも鍛錬じゃなくて思いっきり体動かしたいだろうし。いやでも殺し合いはいくない。いくないよ。…価値観がとことんズレてるから通じないだろうけども。そこんところは時代的なもんがあるからなぁ。ジェネレーションギャップっていうのか、これも。
うだうだと未だ定まらない戦争への覚悟に唸りながら、まぁ、作戦名は命を大事に、だし。ともかくも、今晩。相手方の出方を窺って、対策も考えておこう!ぐあっと顔をあげて拳を握り、目指せ生存!を堅く胸に誓う。
それからのち、まさかの倉庫街でなんか色々あったわけだが、それはまだ私の知る由もないことなのである。