あら団長どうしたの?難しい顔なんてしちゃって。・・・あぁ、予算について考えてるのね。わかるわぁ。私も服を作るのに妥協はしたくないの。自分が思う素材で形で色で最高のものを作りたいのよ。ハッピーエンドには素敵な服が必要でしょ?でもねぇ、そうなると予算も馬鹿にならなくて・・・勿論低予算でいいものをってのは当然だけど、質のいいものは総じて値段もいいのよねぇ。妥協して納得できないものなんて作りたくないし。この前買った糸も、価格が安い割にいいものだって思ったんだけど、なぁんか違ったのよねぇ。・・・あら、なぁに、気になるの?ふふ、いいわ、息抜きね。とはいっても大した話じゃないのよ。この前・・・といってももう3か月は前になるかしら?その時降りた島でいい服の素材がないか探してたのよ。その土地の民族衣装だとか、染色方法だとか色々あるでしょ?デザインのいい刺激にもなるしよくそういうのも調べるんだけど、丁度商店街の裏通り、かしら。掘り出し物って案外そういうところにあるもので、勿論大きい店でもいいんだけど、小さな店も侮れないの。団長も行ってみるといいわ。掘り出し物がみつかるかもよ?あぁでも、危ない場所もあるから気を付けてね?
 それで、裏通りを散策してたらおばあさんが経営してる小さな手芸店があってね。手芸店というか、糸専門店って感じの。糸だけを扱ってるお店なんて滅多にないからこれは!って思って入ったのよ。太さも色も質も多用な糸がたくさんあって、これは掘り出し物の店だわって興奮しちゃって。小さなお店だったけど店主だろうおばあさんはにこにこ笑って可愛らしかったし、好きなものを見ていきなさいって店先に丸椅子を置いてじっと座ってたわ。
 お店の雰囲気はそうねぇ、こじんまりとしてちょっと薄暗かったかしら?暖色系の明かりを灯してたのか、ほんのりお店の中はオレンジ色だった気がするわね。棚にはびっしり糸がおいてあって、何年物?ってものもたくさんあったわ。置いてる棚も古めかしくて、おばあさんの手が届かないところもあるのかちょっと埃っぽいところもあったような。
 でも私も早々こんな店見つけられないし、俄然興味がそそられて色々買い込んじゃったのよねぇ。ほら、この服の刺繍もその店で買った糸なのよ。綺麗な色でしょう?こんなに鮮やかな色の糸は中々お目にかかれないわ。値段もそんなに高くなかったし、またこの島に寄るのもいつになるかわからないから予備も含めて大量購入しちゃったの。その中にね、それはそれは綺麗な銀の糸があったのよ。もう見た瞬間ビビっときちゃってこれは絶対に欲しい!!って。一目惚れっていうのかしら?真っ白なドレスにその糸で刺繍してもいいし、濃紺の衣裳でもきっと星屑みたいに煌めいてきっと綺麗だわって、もうデザイン案が止まらなくてね。その糸だけ在庫がなくて一つだけだったから、余計にこれを逃したら二度と手に入らないって思い込んじゃったのよね。だから迷わずその糸も買ったんだけど・・・あら、わかった?そうなの、買って帰って早速この糸を使って服に刺繍をしようと思ってたのに、部屋で買ったものを出した途端、なんだか色褪せて見えちゃったのよね。お店で見たときはすごくキラキラしてて絹のようにしっとりとした艶もあったのに、部屋の明かりでみるとくすんでパサパサしてるように見えて。
 まぁ、艇に帰ってすぐに取り掛かったわけじゃないから、興奮がちょっと冷めてそう見えたのかもしれないし。店の照明と部屋の照明も違うから見え方が違ったなんてザラにあることだもの。でもなんだか使う気になれなくて、結局その糸は使わずじまい。・・・あら、そういえばどこにやったかしら?その糸。でも本当に、お店ではあんなにときめいたのに、自分の部屋じゃちっともときめかなかったのよね、不思議なぐらいに。え?値段はいくらだったのかって?うーん、色々買い込んだから一つの値段まであんまり覚えてないのよね・・・三か月も前の話だし。・・・でもそうね、あの糸、いくらだったかしら・・・?
 ・・・・。あらやだ、話しこんじゃったわね。ごめんなさい団長。ふふ。いえいえ、くだらない話だったわね。でもそうやって、買った後にいらなかったかも、って思うこともあるから買い物は慎重に、ね?そういえば予算や会計の相談ならには話を通さないの?あぁ、ある程度骨組みを決めてからもってこいって言われてるの。そうね、全部任せっきりはよくないわね。じゃぁお仕事がんばって、団長。私はまたちょっと作業に籠るから・・・そうそう、に伝えておいてくれない?また桃のタルトが食べたいわって。前に食べたことがあるのよ。いつ?えぇと・・・あぁ、そうそう。それも三か月前よ。そういえば、糸を買った日だった気がするわ。あの時の桃の香りと甘い味が忘れられないの。お願いね、団長さん。