蒼天の花



 ラカムさん曰く、そろそろ次の島に着く頃なので準備をしていろ、ということだったので自分の部屋に引っ込み、上陸の準備を進めて軽く荷物を詰め込んだ鞄をベッドの脇に置くとドタドタドタ、と廊下を慌ただしく走る音が聞こえて顔をあげた。足音の持ち主など考えずともわかる。随分慌ただしいな、と思えどさして注意を払うほどのことでもなく、鷹揚に構えて備え付けの味気のない真っ白なシーツと薄い掛布団のベッドに腰を下ろした状態でいると、ほどなくしてばんっという勢いを伴って自室のドアが開いた。

!島に着いたよっ」
「赤い島で火山がぶわーってなっててすごいんですよ!」
「早く降りようぜ!」

 興奮に頬を赤くして、部屋に飛び込んできた3人は言いたいことがまとまらないとでもいうように矢継ぎ早に話しかけてきてちょっと耳が痛い。ルリアちゃんに至っては身振り手振りもつけて、火山がぶわぁって!蒸気が!赤くて!とかいまいち要領が掴めないが、一生懸命な姿が可愛いのでうんうんととりあえず相槌を打っておく。
 瞳をキラキラ輝かせて、新しい島への興奮と感動を語る・・・よほど楽しみらしい。兄さんも、育った環境が環境のせいでか同年代に比べていくらか落ち着きがある方だとは思うが、珍しくはしゃいだ様子に年相応で何よりである、と内心でこっくり頷く。でも人の部屋入るのにせめてノックぐらいしようね?

「わかった、わかったから!バルツ公国だっけ?無事着いたんだね」
「うん。今ラカムが港に停泊させようとしてるところなんだ。降りたらシェロからの依頼もあるし、まずは依頼主にあわなきゃ」
「シェロさんの依頼、ねぇ・・・それはともかく、兄さんとルリアちゃんは降りる準備はしたの?ずっとラカムさんところに張り付いてたみたいだけど」

 島にもうすぐ着く、ときいていても立ってもいられなかったのか操舵室に入り浸っていた2人に問いかければ、はっと目を見開いて顔を見合わせた。してなかったな、これ。呆れたように半目にして、てへへ、と誤魔化すような笑いに、私は腰に手をあてて眉を吊り上げた。

「早く降りたいなら、さっさと準備して搭乗口に集合、だよ」
「はい!」
「はぁい!」

 ほら行った行った!そういって追い立てるように2人を部屋の外に押し出し、肩から力を抜く。・・・まぁ、島の外観を見ることなど確かに滅多にできることではない。最初にその感動を味わえるはずだったポート・ブリーズで墜落事故など体験してしまったので、島の外観を堪能するどころか絶体絶命の大ピンチだったのだ。
 それを思えば兄さん、いやルリアちゃんもか。2人にとってバルツ公国の上陸はある種初めての余裕をもった上陸となる――興奮するのも仕方ない。かくいう私も、興味がないといえば嘘になるので、準備をした荷物を抱えて甲板の方にまで出向いた。

「ビィも行く?」
「そうだな、もう一回みるのもいいよなっ」

 はた、と一匹だけ部屋に残ったビィに声をかけて、一緒に外へと続くドアを開けて広い甲板に出れば、夕暮れ時に染まる茜色の空の中、ぽっかりと浮かぶ活火山と蒸気に包まれた島――フレイメル島が、空の中に赤く燃えていた。





 フレイメル島、バルツ公国。火と鉄と職人の島。
 国のトップがドラフ族のせいか、それともこの国の歴史故か、人口の大半をドラフ族が担うこの島は工業が盛んな島である。鉄で出来たものでバルツで作れないものはない――そう言われるほどに鉄鋼の細工、鉱石の採掘などが盛んな職人の島はポート・ブリーズとはまた違う熱気と賑わいを見せており、全く違う街の様相に兄さん達の開いた口が閉まらないぐらいだ。田舎の緑豊かな長閑な光景とは違い、緑の代わりに鉄と石と炎に満たされた街は人の活気も勢いも違う。出店から呼び込む声も、島のアチコチから吹き上げる蒸気も、グラン兄さんには馴染みのないものであろう。
 そもそも島自体が火山の影響か地熱のせいか、全体的に熱を帯びやすい風土なのだろう。うっすらを汗が滲みそうな街中を、きょろきょろと周りを見渡す兄さんたちの後ろについて歩く。その中で、一番島の中を目を輝かせて歩いているのは意外にも・・いや、ある意味順当に、ラカムさんだった。兄さんもルリアちゃんもビィも、なんならカタリナさんだって、来たことがない島に対する未知の好奇心には胸を躍らせているのはわかる。
 だがやはり、騎空艇を所有する縁あってか、そもそもグランサイファーの整備も目的に入っていたので、あっちこっちへと視線が走っているのはラカムさんがダントツだった。
 無論、私たちも見たことがないような機械パーツにこれはなんだろう?と思いつつ目をやることはあるが、それが何かを理解している分、ラカムさんの興奮は冷めやらない。
 航行中、グランサイファーの操舵室で何度か不具合、いますぐどうこう、というほどではないがいくらかの不調を訴えていた機械類があったので、それらの取り換え、あわよくばプロに任せた整備等――とラカムさんが期待していたことは知っている。ポート・ブリーズにも勿論整備士なり職人はいたが、それでもバルツでの整備は特別なものなのだろう。機械関係は悲しいかな、あまり興味がないので私も聞き齧った程度で共感はあまりできないが。
 あくまでラカムさんは操舵士であって機関士でも整備士でもない。グランサイファーが今後も安全に安心して航行するには、定期的な艇の整備は欠かせないものなのだ。
 しかも長く飛んでいなかった艇が急に動き出せばそれまではわからなかった不具合やらが出てきても可笑しくない。第二の島をバルツに定めたのは、何もシェロさんの依頼だけが理由ではないということだ。
 その中で、あえて言うならグラン兄さんもまた男の子である。ラカムさんほど艇に精通してはいないとはいえ、こういったものに全く興味がない、というわけでもなく・・・結果、あれは!と目当てのものを見つけたのかはたまた珍しいものでも見つけたのか、一つの店に突撃していくラカムさんと一緒になって走っていく背中を見送って、私はカタリナさんとルリアちゃんを振り返った。女子が機械類に興味がない――とは言わないが、少なくとも今のこの面子はラカムさん達ほど機械類に興味は持っておらず、またそれがなんの部品なのかも理解していないので、呆れ、ではないが熱気についていけず苦笑している様子に、私は肩から下げた荷物をもう一度背負い直した。

「グランもラカムも、すごく楽しそうですね」
「私達にはわからないが、興味をそそられるものがたくさんあるのだろう」
「ラカムさんは言わずもがな、兄さんも田舎にいた分、こういうのに触れることがなかったから余計かもしれません」 

 新しい発見、体験というのは人生を豊かにしていくには実に重要なことだ。特に兄さんはまだまだ若く、知らないことを知るために、見たことがないものを見るために、空の旅へと出たのである。故郷では決して味わえない喜びに、年相応に目を輝かせてラカムさんと一緒になって説明を聞いている姿に目を細めると、不意に視線を感じてちらっと横を向いた。
 じっと見つめてくる青い双眸に、なぁに?と首を傾げる。

「ふふ。、とっても優しい顔してます」
「そう?・・・まぁ、兄さんがあんなに楽しそうにしてるところ、あんまり見たことないし」

 平和で、長閑で、暮らしやすい島ではあったが・・・同時に、刺激というものもあまりない場所だった。私はそれで満足していたけれど、若い男の子にしてみれば物足りない場所でしかなかっただろう。もう少し交通網が発達していたら、過疎化は免れない島であったことは間違いない。一定数を保っていたのは、他の島への交通手段があまりに少なかったからだ。しみじみとして言えば、カタリナさんがくすり、と笑った。

「なんですか?」
「いや、すまない。まるでの方が姉のようだな、と思って」
「あ、わかります!、すっごくしっかりしてますし!」

 お姉ちゃんみたいです!と言われて、私はあはは、と笑ってその場を濁した。そりゃ中身の人生経験だけでいえばこの中の誰よりも積んでいる特殊経歴の持ち主だ。真っ当な15才と比べりゃ大人びているのは当然だろう――なんて、告げることは今後もあるはずがなく、女の子は早熟なので、と適当なことを言ってはぐらかした。ませているわけではないが、まぁおおよそどこの種族にも共通していることなのでそれ以上その話題に触れられることもなく、というかカタリナさんが武器屋に通りかかった瞬間キラン、と目を光らせたので、ルリアちゃんを伴って武器屋に向かうのを見送ることにした。
 私の武器もどうだ、と言われたが・・・一斉にこの場を離れてしまうと迷子になってしまう。目印代わりに立ってますよ、と告げてとりあえず2人にだけ武器屋に行って貰うことにした。正直なところ、あまり武器など持ちたくはないのだが・・・艇の料理人をいつ確保できるかはわからないので、形だけでも持っておいた方がいいだろうな、と肩を落とした。こんな形で旅に追従することになるとは考えたこともなかったので、本当に予定外すぎる。一応、このバルツ公国でも募集、というか乗組員は探すつもりである。
 少なくとも料理人、整備士、機関士、医者。旅をするにあたって必要な人材というのはいくらでもいる。戦闘員だけで成り立っていけるようなそんな甘っちょろい話はどこにもないので、その辺の人材の紹介もお願いして・・・そういえば。

「・・・依頼人はどこにいるんだろう?」 

 私は彼女の依頼を受けた現場にいたわけではないので詳しい話は何も知らないのだが、この島に来るにあたって彼女の依頼が大きな理由を占めていることは確かだ。えっと確か、以来内容は公国での人捜し、だったか。丁度兄さんたちとカタリナさん達、別れた2組から見える位置で佇みながら、腕を組んで首を傾げる。
 そもそも、騎空団の運営資金だって潤沢とは言えない。というかむしろすでにカッツカツだ。当たり前である。資金を溜める云々の前に発足した団で、旅の資金はもともと持っていた個人の資産によって成り立っている――いうならカタリナさんとラカムさんの個人の財布しか、今この団にはお金がないのである。いや私たちもいくらかはあるが、それにしたって騎空団なんて想定していなかったので合わせたところでたかが知れている。
 艇の会計を把握するにあたって、まず絶望的にお金が足りてないな、とは全員の共通認識だった。今日の宿代ぐらいなら掻き集めればなんとかなるが、艇のパーツを買う余裕も整備費も、なんなら武具を揃える費用も圧倒的に足りていない。
 お金を稼ぐには働かなくてはならない。日雇いのバイトでもいいが、曲りなりにも騎空団、と名乗るからには「依頼」というものが団の資金源となるのだ。依頼内容は千差万別。まぁ、自分の実力、団の規模に見合った依頼をこなして実力と知名度をあげるしかないのだろう・・・とまるでゲームのようなことを考えて、結局、と肩を落とした。
 先にシェロさんの依頼を聞いてから行動しなければなんにもならないな、結論づけると、私はとりあえず一旦戻ってきた兄さん達に向けて疑問をなげかけた。

「ところで兄さん。依頼主さんとはどこで待ち合わせしてるの?」
「え?」

 見慣れないものを見てほくほくと満足そうな顔をしている兄さんと、あれとそれとこれとあれと、と指折り数えながら欲しい艇のパーツを選別しているラカムさん、武器を見終わって名残惜しそうなカタリナさん、見るもの全部が楽しい、新鮮、と体全体で表しているルリアちゃん、林檎は売ってないのかー?と食べ物を探しているビィ。
 五者五様。それぞれが集まって円を描いて止まった瞬間、私の問いかけに兄さんの顔がきょとん、と虚を突かれた顔になった。・・・うん?

「え?って、だから、待ち合わせ場所。どこで落ち合うかとか、聞いてるんでしょ?」
「え?・・・えっと、あれ?」

 街にきて浮かれているのはわかるが、やることはきっちりして貰わなければ。観光よりもまずは依頼が先だろう。多分浮かれてて頭からすっぽ抜けてたんだろうな、と思いながらもう一度問い直すと、兄さんはパチパチと瞬きをして、考えるように顎に手をあて、実に、実に不安な反応を示した。え、ちょっと待ってよ。まさか、兄さん。

「・・・場所、聞いてないの?」
「・・・ない、かも」

 恐る恐る聞くと、兄さんは非常に不安そうに、むしろ申し訳なさそうに、しどろもどろに答えた。下がった眉で、パチパチとしきりに不安を消すように瞬きをしながら私よりも背が高いくせに妙に上目使いめいた目つきで見てくるので、私は額に手をあてて天を見上げた。気分的にはあっちゃー、って感じだが、いや待てよ、と思い直して再び顔を前に向きなおす。

「えーっと、ごめん。私、シェロさんが話を持ちかけたときにいなかったからよくわからないんだけど、依頼内容って確かバルツでの人捜し、だったよね?もしかしてもう正式に受けてるの?」
「えっと、正式かどうかは・・ただ。バルツ公国で捜してもらいたい人がいるって話ではありました」
「誰を捜すか、とか、そういう詳しい話をもう聞いてるとか?」

 それならあえて今捜さなくてもいいのかな・・・?いやでもどの道依頼を完了させた時には知らせなければならないだろうし、そもそも正式に受けてないとなれば話は別だ。・・・兄さんは、後でお説教である。
 でもとりあえず依頼内容さえちゃんとわかっていれば、まぁ私達が動くことにそう問題は・・・いや、待って兄さん。なんで顔逸らすの。冷や汗流してるの。だらだらと汗を流しながらギギギ、と顔を逸らした兄に、私は半目になって低い声を出した。

「兄さん。まさか、依頼内容をちゃんと聞いてなかった、とかそんなこと言わないよね?」
「っち、違うよ!内容は・・その、バルツに着いたら詳しく話します~ってシェロが言ってた、んだけど・・・」
「おいおいマジかよ。旅の路銀はその依頼頼りだったんだぜ?」
「正直、今の持ち金では今日の宿代でも厳しいぐらいなんだが・・・」

 財布を開けて中身を確認するカタリナさんに、周囲の時が止まる。ひゅ~と間を吹き抜けた空っ風に背筋が寒いことになりながら、私はああああ、と眉間を抑えて項垂れた。いや、泊まれないことはないんだよ?ないけど、正直一泊するだけで精一杯というか・・・とりあえず。

「グラン兄さん。後でお説教ね」
「・・・すみません・・・」
「え、えっと!あの、とりあえず、依頼主さんを探さないといけないんですよね?」
「そうだな。まずは依頼主と合流しないことにはこちらも動きようがないし・・・」
「依頼の人探しの前に、その依頼主探しか」
「しっかりしてくれよグラン~」

 半目で告げた私に、しおしおと項垂れた兄さんをフォローするようにルリアちゃんが両拳を握って頑張ります!と気合いをいれる。カタリナさんとラカムさんもしょうがないな、という様子で頷いていたが、お待ちください。

「ラカムさんとカタリナさんも他人事のように言ってますけど、保護者、じゃなくとも年上として、依頼の確認を怠るのはどうなんですか?」
「うっ」
「げっ」
「まぁ、内容についてはその場では話せなかったのかもしれませんけど、集合場所の確認なり打ち合わせなりはできたと思うんですけど」

 正直、騎空団のなんたるかも団長としての責務もまだまだわからない不慣れな兄よりも、まだそこらの処世術を理解してそうな2人の責任の方が重たいと思うぞ。
 キリッと眉を吊り上げて厳しく言うと、兄さんならず2人とも背中を丸めて項垂れた。ルリアちゃんがはわわ、と口元に手をあててきょどきょどと私とカタリナさん達に交互に目を向けている中、全くもう、と腕を組んで呆れと共に溜息を吐き出す。

「兄さんはまだ人生経験も社会経験も浅いんですよ。そこをフォローしていくのがお2人の役目だと思いますが、違いますか?」
「いや、その通りだ。すまない、。私達が迂闊だった」
「悪かったな、グラン。俺達もちゃんと話を聞いとくべきだった」
「えっ!いや、そんな。僕がしっかりしてなかったから悪いんであって、。もういいでしょ?」

 そういってお互いに謝り始めた3人に、今後は私も依頼を受けるときは立ち会った方がいいんだろうか、と漠然と考えていると焦った様子の兄さんにそう尋ねられて、うん?と語尾をあげて彼らを見た。項垂れて落ち込んでいる、というよりは本当に申し訳ない、と後悔しているような顔つきの大人2人に、ふむ、と一つ頷く。

「反省してるなら別に私もそこまで言うつもりはないよ。今後は皆、まぁ私もだけど、気を付けていきましょうねってことで。ルリアちゃんも、人から話を聞くときやわからないことがあったらちゃんと聞くようにしようね。あと何か困ったことが会ったら報告・連絡・相談は欠かさないこと」
「はい!わかりましたっ」

 こういうことは最初が肝心である。まぁ、初出で失敗をしたのがいい勉強になったということで次回に生かせればそこまで小五月蠅く言うほどのことでもない。
 教訓としてさりげなくルリアちゃんにも言い聞かせると、びしっと姿勢を正して頷いたので、よしよし、と頭を撫でておいた。
 まぁ今回の件に関してはちょっと手間が増えただけだし、騎空団への依頼なのだからそれ系の商人の寄合所にでもいけば情報ぐらいいくらでも転がってるでしょ。でも失敗は失敗。依頼の受注、人との約束、金銭のやり取りにおいて確認しすぎて悪いということは何もない。呑気に構えて直前や当日あたふたするよりも、鬱陶しいなってぐらい確認してくれる方がまだマシだ。
 こういうことは人と人とのやり取りである。会話の齟齬や意図の汲み取り違い等、間違いや連携や連絡が上手く取れないことはこれから山ほど経験するだろうから、今後は慎重に慎重を重ねて確認報告連絡相談、これらは徹底すべきだ。
 そういう地道な努力が信頼にも繋がっていくわけだしね。今後は皆、勿論私も含めて、こんな失敗を繰り返すことがないように気を付けていきたいものである。

「うふふ~どうやらお話は済んだみたいですね~?」

 改めて騎空団、及び働くこととは、という意識確認も取れ、まずは商人の寄合所に行こうか、と切り替えたところで間延びした声がするり、と意識に滑り込んでくる。全員がハッと目を見開いて声のした方向に振り向いた。この声、というか口調は!?

「シェロ!?」
「はーい、よろず屋シェロちゃんですよ~☆何やら大切なお話をしているようでしたので待っていたのですが~終わったみたいですねぇ~?」

 私たちの視線を一身に集め、人ごみの中から姿を現したのは私の腰ほどにあるかないかの小さな身長のハーヴィン族、今まさに話題にしていた依頼を持ってきたよろず屋本人である。
 悪びれもなくにこにこと笑いながら、背丈と同じほどもあるリュックを背負い、頭に大きな鸚鵡を乗せてシェロさんはうふふ、と笑った。その様子をポカンと見やり、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。え?なんでいるのこの人??

「なんでよろず屋の嬢ちゃんがここにいるんだよ!?」
「私はどこにでもいてどこにもいないのです~」
「はわわ、なんだか哲学的です~っ」

 うん?よくわからないが、とりあえずこの人がいる、ということは、だ。
 パチン、ウインクを飛ばしてはぐらかすように謎解きめいたことを口にするシェロさんに驚いて群がる周りをさておいて、首を傾げて私は彼女を見つめる。幻、でもなさそうだが・・まぁ、深くは考えまい。なんかこう、あるんだろ、多分。よくわからないけど。さておきそんなことよりも。

「依頼人のところには、シェロさんが案内してくれるんですか?」
「そうですよ~。早速依頼主にご紹介したいところなのですが~極秘任務なので場所を移動させてください~。私もマークされてるっぽいので~」
「ご、極秘任務?」

 え、なにそれ聞いてない。彼女の口から飛び出た発言にぎょっとしていると、そんな私の動揺も素知らぬフリでこちらです~なんて呑気に歩き出すシェロさん。
 ま、マイペースな商人だな・・・!え、てか極秘?極秘って、ちょっとねぇ。

「お前なぁ、いきなりそんな危ない仕事を・・・!」
「さぁさぁ行きましょ~依頼主さんが待ちくたびれてしまいますよぉ」

 無論、彼女の発言に引っかかったのは私だけではない。こんな駆け出しの騎空団に持ってくるにはあまりに物騒な単語にラカムさんが物言いたげにしたが、それを遮るようにしてシェロさんがあの気の抜ける口調と笑顔でもってして押し通してくるので、兄さんと顔を見合わせ、無言で頷きあった。どうやらまだ正式に受けた任務でないようだし、これから詳しい内容を聞いて依頼を受けるかどうかは決められるということだ。
 どうもきな臭さはあるが、選択肢の余地がある分まだマシだろう。・・・話を聞いたからには、だとか受けると決まったら依頼内容を話す、とか、そういう後だしじゃんけんみたいなものでないことだけは切に祈るが。ともかく。目立つが小さな背中だけは見失わないように、私達はシェロさんの後を追いかけバルツの喧噪を抜けて行った。





 小さな体を利用して、するすると人ごみをすり抜けていく影を追いかけるのは一苦労だ。マークされている――その言葉通りに、周囲を警戒してか右へ折れては左に折れ、かと思えば真っ直ぐ進んで逆戻り。見失いそうになる姿を懸命に追いかけて、ようやく辿り着いたのは少しだけ喧噪から外れた裏通りだった。かといって、大きく表から外れているというわけでもなく、ちょっと閑静な位置にあるだけで店構えは特別変わったところはない。酒場の看板を掲げ、客足もそこそこ。至って普通の店のようだが――返ってそういう場所の方が目立たないのかもしれない。年齢的にまだお酒など嗜むことも、住んでいた場所的に完全に夜のお酒をメインに提供するような場所も身近にあまりなかった兄さんとビィ、そして全く初めてだろうルリアちゃんは酒場という店構えに多少気後れしたように看板を見上げて棒立ちになっている。
 見上げるせいでぱかっと開いた口が可愛らしいが、あまりそんな顔を晒していては侮られてしまう。なまじ子供といっても差支えのない年齢なのだ。ただでさえ足元を見られかねないので、兄さん達には堂々としておいてもらいたい。とりあえず、私はポカンと開いている兄さんの口を下からそっと支えるようにして閉じておいた。

「兄さん、初仕事かもしれないんだからあんまりポケっとした顔しない」
「・・・ハッ!」

 一言言えば、やっと意識を戻したのか兄さんはきゅっと表情を引き締める。ぐっと真一文字に引き結ばれた口元と上がった眉で気を引き締めたようだが、その前の様子をみているだけに微笑ましさがどうも先立つ。カタリナさんとラカムさん、そしてシェロさんが温かな目で見ていることも余計に拍車をかけていたが、まぁこれも若者の特権だよなぁ、ということで私も微笑ましく見守ることにした。何よりグラン兄さんと一緒になって横で拳を握りしめてふんす!と気合をいれているルリアちゃんとビィが半端なく可愛い。え、なにあの可愛いコンビ。すごく、癒される・・・。
 思わずほっこりしつつ、くすくす、と控えめに笑ったシェロさんは片目を閉じて、再びのんびりとした口調でこちらに確認の声をかけてきた。

「このお店に依頼主は先に来ておりますので~」
「あ、あぁ。よろしく、シェロ」
「お任せください~ではでは、いきますよ~」

 そういって、木製の扉がギィ、と蝶番の音をたてて開かれる。店の中は五月蠅くない程度のざわめきと音楽に満たされ、大衆的な酒場というよりもバーに近い雰囲気なのかもしれない、とこの店特有のあまり明るすぎないオレンジがかった照明の中店内を見渡してなんとはなしに考える。
 ちなみにお手洗いと非常口、というよりは裏口か。その位置も確認してシェロさんに案内されるがまま店の奥へと足を進める。客は自分の酒に集中しているようだったが、まだあまり酔っていないような客はこんな酒場に入ってきた子供に好奇の視線を向けていた。
 まぁ、まだ好奇の視線なだけマシ、というかそれが普通だ。場にそぐわない人間がいれば誰しも注目する。問題は、その視線が「どういった」種類のものか、というところだ。
 シェロさんの言っていた極秘任務という言葉、マークされているという発言、周囲を警戒するような動き・・・さすがに視線の明確な区別ができるほど敏くはなれないが、それでも今の所そこまで不審な視線の動きは感じられない、と思う。多分。これでも忍びの訓練を受けたこともあるのだ。前世だけど。こういったことには多少慣れている。ただ、やはり居心地が良いとも言えずその視線を感じつつ、テーブルに着く客の間を抜けて案内されたのは店の奥、一般的なホールとなっている場所から見えないような位置の壁際で、兄さんが戸惑ったように視線を揺らした。私はすぅ、と目を細めて、壁板の継ぎ目を見つめる。・・・なるほど?
 
「えっと、シェロ?」
「依頼人はこの先にいますから~」
「壁、ですよ?」

 ルリアちゃんがシェロさんと目の前の壁を見比べて小首を傾げる。どこからどうみてもただの板壁にしか見えない。見えない、が。シェロさんはうふふ、と楽しそうに笑うと探るように壁に触れ、ぐっと一部分をその小さな手で押した。すると、カコン、と思いの外軽い音とともに壁の板目に白い線が走る。はっと息を呑んだのは兄さんだったか、ラカムさんだったか。恐らく、向こう側の明かりが漏れているのだろう、と思いながらゆっくりと動いた壁・・・いや、隠し扉の向こう側に目を細めた。薄暗い店内に反して明るい室内に咄嗟に目を細めて眩まないように注意しながら、どうぞ、と促されて恐る恐る兄さんが隠し部屋に入る。その後に続きながら、こいつは随分厄介な仕事っぽいぞ、とげっそりと肩を落とした。・・・初任務にしては、ちょぉっと荷が重すぎやしませんかねぇ?
 鬱々としたものを覚えながら入った部屋は酒場とは思えないほどに品よく整えられた貴賓室とでも言えような様相の部屋だった。大き目の飴色に光沢を持った猫足のテーブル、同じ飴色にベルベットのクッションが貼られた数脚の椅子と小さなシャンデリアとファンがぶら下がった天井。窓にはワインレッドの厚めのカーテンがドレープを描いて金のタックで留められている。窓から見える外はすっかり夜の帳も落ちて暗く、家屋から漏れる光も見つけられない。壁際には蓄音機とガラス戸のアンティーク調の棚が置かれ、壁にかけられた絵画の値段は考えない。貴人の密会所としても活用されているような部屋なのだろうな、と見当をつけながら、私達は部屋の中で待ち構えていた男性に視線を集めた。
 かっちりとしたコートを着込み、その服の上からでもわかる大柄な引き締まった体格の良さと帽子からはみ出る太く大きな2つの角が男性がドラフ族の人間だと教えてくれる。目深に被った帽子で顔こそ見えないが、部屋の様子と着ている物の質の良さから、彼がそれなりの身分のものだということは容易に想像がついた。はて。貴族からの依頼だろうか?推測を立てながら、シェロさんが男性に声をかける姿を見つめる。

「お待たせいたしました~。こちらが私が紹介する騎空団の皆様です~」
「ご苦労だった、シェロカルテ殿。皆様も、よくぞお越しくださいました」

 丁寧な言葉使いで鷹揚に言われ、兄さんが緊張に強張った顔でとんでもないです、と返事を返す。幼い顔で見るからに場馴れしていない、緊張が顔に出ている兄さんをみた男性は少しばかり目を和ませると、すっと帽子を取って胸の前で掲げる。
 そうして露わになった精悍なドラフ独特の彫の深い顔を照明の下に晒し、和んだ眼差しを瞬時に真面目なものに変えた瞬間部屋の空気もピリっと引き締まるような緊張感を帯び、自然と全員の背筋が伸びた。見定めるように私達を見渡し、男性は口を開く。

「私はこのバルツ公国特務官――ポート・ブリーズを救った騎空団の皆様のお力を、どうか我が国にお貸し頂きたい」
「国に?」
「どういうことなんだよそりゃあ?」

 早速、とばかりに飛び出した内容に兄さんとビィが顔を見合わせて戸惑うように眉を潜める。んん。いきなり規模でかすぎない?想定外の内容に、カタリナさんまでも当惑したように男性を見つめる。

「おいおい、ちょっと待てよ。今、特務官っていったか?」
「国の秘密諜報員じゃないか・・・人捜しの相手とは、それほどまでに重要な人物なのか?」

 引き攣った顔でラカムさんが気後れしたように息を呑む。カタリナさんもまさか、という顔で男性をまじまじと見て険しく眉間の皺を寄せた。兄さんとルリアちゃんはあまりピンときていないようだったが、雰囲気からかなり重大事だとは悟っているようで、ごくりと固唾を呑んで聞き入っている。私はそれとなく、窓の方に視線を向けて鏡のように姿を映す暗闇を眺めてから、なんでこう次から次へと、と人知れず溜息を零した。

「――失礼。カーテンを閉めても?」
「?・・・あぁ、構わないが」

 実はさっきから開けっ放しのカーテンが気になっていたのだ。恐らく、あまり外部に漏らしたくない内容なのだろうから、外から見えないことに越したことは無い。秘密諜報員なら尚の事、顔が外にバレるのは望ましくないはずだ。厚手の生地なので影で姿がわかるということもないだろう・・・とりあえず、許可を貰ったので窓に近づき、タックを外してしゃっと音をたててカーテンを閉める。中から見た外は人気もなく静かなもので、ふぅん、と鼻を鳴らして窓から元の位置に戻る。その様子を興味深そうにみていたのはバルツの特務官さんとシェロさんで、特にシェロさんのにんまりと細くなった目がなんとも居心地が悪い。かといってあからさまに顔に出すわけにいかず、曖昧に微笑を浮かべてすみません、と一声かけて一番後ろに陣取った。
 あー早くこの空気感から解放されたい!艇に戻って皆のおさんどんやっていたい!!さっさと終われ、できればこの依頼断って。そう思いつつ黙り込むと、兄さんは一度深呼吸すると、くっと顎を引いて真っ直ぐに特務官さんを見つめた。

「・・・それで、肝心の捜し人は誰なんでしょうか」
「・・・我が国の、大公の行方を捜して頂きたいのです」
『!?』

 部屋中の人間が息を呑んだ。くわっと大きく目を見開き、信じられないことを言った男性を凝視して、まさか、と小さく唇が戦慄く。

「大公閣下だなんて、この国のトップじゃないか!」
「こりゃあ思いっきりヤバい話だが・・・」
「一度引き受けちまえば後には引けねぇぞ・・・」

 一層難しい顔をして、ある種茫然としているカタリナさんとは対照的に、ラカムさんの顔つきは厳しい。ビィもまた、事の重大さにいつもの様子はなりを潜め、小さな声でごくっと喉を鳴らした。私もまさか、国のトップの捜索を依頼されるだなんてことは予想だにしていなかった。せいぜいが重役の貴族か、あるいはその子供か。事が大きいといってもその程度のつもりだったのが、よりにもよって国の根幹に関わるとは!
 兄さんのこの引きの良さ、いや悪さ?はなんなの、と恐らく周囲とはまた違う部分で恐れ戦きながら、ちらり、と兄さんに視線を向ける。さすにがに国のトップを捜してほしい、という依頼内容に本人も規模の大きさに処理が追いついていないのか茫然自失していたが、徐々にその顔が真剣な・・・凛々しい「団長」のそれに変わっていく。
 切り替え、というわけではない。ただ、兄が決めなければならないこの状況で、無意識的に上に立つものとしての振る舞いを身に着けていっているのだ。
 その目、顔つき。思慮深くも前をみて揺るぎない目に、こりゃ駄目だ、と私は内心で肩を落とす。・・・駄目だというのなら。

「どういった経緯で大公は行方不明になられたのですか?」
「それが、私達にもわからないのです。大公は突然姿を眩まされ、それ以後我々も方々手を尽くしましたが一向に行方が掴めず。・・・国の民も、薄々は大公の不在を感じている状況です。これ以上この状況が長引けば、国の混乱は免れません」

 そういって悲痛な顔つきで目を伏せた男性に、私は唇に手をあててとんとん、と数度指先で叩く。考えるように目を伏せ、毛足の長い絨毯の敷かれた床を見つめて顔をあげた。

「兄さん、言ってもいい?」
「なに?
「特務官殿も、シェロさんも。無礼ではあると思いますが、発言をお許し頂きたい」
「構いません」
「私もいいですよ~」

 許可を貰い、一つ息を吸い込むと、静かな目で私を見つめてくるヘーゼルの瞳を見返した。

「私はこの依頼、反対です。・・・正直な話、私達にはあまりに手に余る内容だと思う」
、でも!」
「ルリア。・・・の意見は理解できる。確かに、事が事だ。私たちで責任が負えるかと言われると、正直なところ難しいだろう」

 否定的な意見に、ルリアちゃんが反論しようとしてくるところをカタリナさんが制し、納得したように一つ頷く。国の大事に、こんな駆け出しの実績もない騎空団が関わるにはあまりにリスクが大きすぎる。ていうか私らを紹介しようと思ったシェロさん、ちょっと賭けに出過ぎじゃない?失敗すれば一つの国が大混乱、下手をすればそのまま滅亡に向かいかねない重大事だというのに・・・嘘偽りなく、関わるのはやめた方がいいと思う。

「けどよぉ、困ってる人をみすみす無視するのはどうなんだ?」
「そうです!困ってる人がいるなら、助けを求めているなら、私は手を差し伸べたいですっ」

 理性的な意見に反論するように、ルリアちゃんの感情の籠った真摯な意見が述べられる。優しい意見だ。真っ当な、人として正しいといえる。けれど、感情論だけで手を出していい問題と、そうでない問題は一定数存在していて、そしてこれはそのどちらも熟考して出さざるを得ない一件なのだ。
 感情でいえば確かに困っている人を見過ごすことはできないだろう。放っておけば猶更、国とって大事になることがわかっていることだから余計に。かといって私たちがこの依頼を受けたとしてきちんと解決できるかといわれるとその確証はなく、そのせいで国の崩壊への一端を担うことになったとなればその責任はとても一騎空団に背負い切れるものではない。もっと利己的なことをいえば、これだけの規模の依頼を万が一解決に導くことが出来ればそれは十分な実績となり箔もつくというものだが、逆にこの依頼一つで潰れることも考えなければならない。どちらにせよ、この依頼、私達の今後を左右する依頼であることだけは確かだ。そして、その決断をするのは、私でも、カタリナさんでもルリアちゃんでもない――

「どうするんだ?グラン」

 騎空団の団長である、兄さんなのである。それぞれの意見を聞いて、ラカムさんが最終決断を迫るように兄に問いかける。一旦持ち帰って考えを纏める、という手もあるが自体は恐らく急を要するのであろう。一体どれだけの間大公が不在なのかは知らないが、一刻を争う事態なのは明白である。今この場で、受けるか受けないか決断し、答えを告げねば特務官さんも次の一手が打てないだろう。落ち着いているかのように見せているが、その実彼の内心が常にないほど焦っていることはなんとなくわかる。揺れる瞳が、彼の真正面に立つ兄さんに向けられた。
 全権を委ねられた兄は、一度静かに目を閉じて、一拍、考えるように沈黙する。その時間は決して長い時間ではなかったが、じりじりとした緊張に糸が張りつめた瞬間、すっと開いたヘーゼルの瞳は力強い決意を浮かべていた。

「――このご依頼、お受けします」

 静かに、力強く、張りを伴って告げられた決断に、ふっと詰めていた息を吐いたのは誰だったか。私はその兄の決断にやっぱりなぁ、と溜息を零して少しふてくされたようにそっぽを向いた。ぜっっったい、依頼内容以上にくっそ面倒くさいことになるからね!!

「グラン!」
「困ってる人は放っておけないよね。それに、この騎空団にきた初めての依頼だから―――頑張りたいんだ、皆と」

 駆け寄って喜ぶルリアちゃんに微笑みかけ、後ろを振り返ってカタリナさんやラカムさんを見た兄さんの真摯な眼差しに、ふっと彼女らの顔も綻ぶ。

「よっしゃ。そうこなくっちゃな!」
「ふふ、大変な任務だぞ?気を引き締めて行こう」
「なぁに、オイラたちはあのティアマトだって救ったんだ。この国の大公ぐらいすーぐ見つけてやるぜ!なぁ、グラン!」
「あぁ!皆、大変だと思うけど、一緒にやり遂げよう!」
「はい!一緒にがんばりましょうっ」

 ビィとがっし、と腕を組んで発破をかける兄達の様子を見ながら、私はまた一つ溜息を吐いて、そそくさとシェロさん達に近づく。まぁ、色々と思うところはあれども兄さんの決定を覆す気もなく、というよりもあくまで私は臨時団員としてのスタンスなのでこれ以上の難癖をつけるつもりもない。しかし、依頼を受けるとなれば、だ。

「では、私達騎空団がそのご依頼を受けるにあたりまして、つきましては報酬についても話を進めていいですか?」
「あぁ、勿論だ。そちらの話も済ませてしまおう」
「私も参加させて頂きますね~」
「是非。はいはい兄さん、まだお仕事あるからねーこっちきて席ついてー」

 盛り上がってるところ悪いけど、ぶっちゃけこの辺りもものすんごく重要だから、全部終わるまで気は抜かないように!団長として、キビキビ動いてもらいますよ!
 まぁ依頼内容が内容だから、報酬の方も高額だろうしなー。そうなれば艇の整備に回しても余裕はできるかもしれないし、武器や防具も改められるだろうし。
 そして個人的なことだが、自分の部屋の家具もちょっとは揃えたいところだし!書類とそろばん片手に、椅子に座った兄さん、そしてカタリナさん達も含めて、私は報酬の交渉に身を乗り出したのだった。ぺーぺー新米騎空団といえども、こちとら一つの島を命がけで救ったちょっと中々類をみない実績持ちの団である。出し渋りは認めませんことよ!