RPGは見る専門のはずでした



「そこ、模様が違うんで触らないようにしてください」
「足元、不自然に石が並んでるでしょう?その先危ないですよ、多分」
「だから、わかりやすいボタンには触らないでくださいってば!」
「あー・・・これ、ここに火とかつけると熱を感知して動く仕組み?っぽいですね。火種ありますか?」
「ライターでいいか?」
「十分です。多分」

 差しだされたライターを受け取り、黒い壁を見上げる。あぁ全く、私なにしてるんだろう、とは、言ってはいけないお約束だ。





 ほい、と渡されたライターをカチカチと回し、シュボッと音をたてて点いた炎を本来は蝋燭か松明でも置いてあったのだろう壁の窪みに近づける。ゆらり、と火が揺らめいてじりじりとその熱が壁の窪みをオレンジに染めると、しばらくしてゴゴ、と低い地鳴り染みた音が聞こえ、洞窟全体が振動した。
 音の発生源を振り返ると、壁がゆっくりと音をたてて横にスライドしていく様が見えてなんて大掛かりな仕掛けなんだ・・・と呆れとも感動ともつかない心境でライターの火を別の火種に移して窪みに安置する。
 おおおお!!と感動して目をキラッキラさせているロジャーさんがしきりにすっげぇすっげぇ!と叫んでいたが、レイリーさんは淡々と紙を広げて何かを書き付けていた。
 あの古代遺跡の間で、今後行動するにも、万が一のことを考えて何か記録していくことは大切だと進言した結果、レイリーさんがマッピング係りとなったのだ。ロジャーさんに仕事はない。多分、あの人基本何もできないと思うから。

「書けました?」
「あぁ。一応な。しかし・・・この洞窟は一体なんなんだ。こんな大掛かりな仕掛けがあるとは・・・」
「そうですねぇ。昔の人は何を考えてこんなダンジョン作ったんでしょうね」

 普通こんなゲームみたいな仕掛け作らねぇよ。面倒くさい、と思いながら今にも走り出しそうなロジャーさんの右手を捕まえてストップをかける。うずうずと先に行きたそうにしているのだが、放置しているとまた何か変なものに触ってやらかしそうなので、苦肉の策だ。
 手を繋いでいると案外大人しいので、何故かストッパーにされているんだが・・まぁ、実際この方が彼のやらかすことに対応できるので不満はない。
 彼を止めることは引いては自分の身の安全にも繋がるので、致し方のない選択である。

「すっげぇなぁ!他にはどんな仕掛けがあるんだろうな?!」
「さて・・・簡単な仕掛けならいいんですけど・・・。複雑になってくると対応できるかどうか」
「いや、ここまでの罠を回避できただけでも御の字だ。よくわかったな」
「あー・・・・知り合いに、カラクリが好きな子がいるんで」

 感心の眼差しを送られ、はは、と空笑いを浮かべながら遠い目をする。作法委員のカラクリは年々恐ろしい進化を遂げているので、間近で見てるとほんと肝が冷えるのだ。
 しかも被害者い組とか加藤君とか佐武君とか皆本君とか保健委員に多いし。怖いよ作法委員・・・。まぁ、くの一教室の罠も年々悪質さを増している気がするのでこっちが言えた義理ではないかもしれないが・・・。いやでもそこ私関与してないし。主にユキ先輩達だし。
 まぁ、つまり、身近にえげつない罠が潜んでいる生活なだけに、回避のスキルは年々上がってきている、と思っている。しかも伝七とかよく笹山君の罠にかかるっていうか、かけられてるし。おかげで助けるのにも技術がいるんだよ・・・。
 良いことなのか悪いことなのか。まぁ、現在その日々の賜物と言わんばかりに役立っているので、結果オーライと言っておこう。
 ともかく、先へ進もう。どんどん奥にいっている気がしなくもないが、それは必然的に中枢に近づくことであり、すなわちゴールに辿り着けばおのずと帰り道もわかるんじゃないかという希望の元、結局ダンジョンクリアに精を出す羽目になったのだ。
 ・・・まぁ、どっちにしろ横の人がいる限り避けられない道だった気もするが。ふっと半ば諦観を篭めて微笑を浮かべ、ぐいぐいと奥に進み始めたロジャーさんに繋いだ手を引っ張られながら、暗い洞窟を歩き始める。こつこつという私以外の足元から聞こえる靴音が洞窟内に反響するのを聞きながらうろうろと視線を泳がせて、この奥には何があるんだろうなぁ!と声を弾ませるロジャーさんになんでしょうねぇ、と適当な相槌を打つ。

「ここまで罠がそこかしこにあるんですから、よほど仕掛け好きでそれが趣味だっていう人間でない限り、なんらかの物がありそうですけど」
「お宝か?!」
「かもしれないですね」
「宝だとしたら・・・さて、どんな財宝が眠っているのやら」

 にぃやり、と口角を吊り上げたレイリーさんに、わかりやすい金銀財宝ならいいけどなぁ、とちょっとひねくれた考え方をして財宝ーーー!?と目をキラキラさせるロジャーさんから視線を逸らした。

「財宝が手に入ったら何に使うか・・・」
「肉!肉が食いてぇ!」
「酒もいいなァ。極上の酒を浴びるように飲む。最高だな」
「飯ーーー!!!肉ーーーー!!」

 とりあえずあんたの頭の中には飯しかないんか、と内心で突っ込みつつ、知らず彼らは結構浮かれてるんだな、とその時初めて気がついた。いや、ロジャーさんが浮かれているのはわかっていたんだが、レイリーさんも存外ウキウキしているのだとその時になってようやく悟ったのだ。冷静に見えて、しかしロジャーさんほどとは言わないが輝いて見える双眸には確かに無邪気に現状を楽しんでいる子供のような光も窺え、男ってこんなものなのかなぁ、と首を傾げる。・・・・よくわからんな。私は早くここから出たいとしか思えないっていうか、こんな危険極まりないところを楽しめるだけの無邪気さなんてもうどこに置いてきちゃったか。純粋に子供ならまだ楽しめただろうか、と思いながら、不自然に出っ張っている石を踏みそうになったロジャーさんの手を軽く引いて針路を僅かにずらしながら、とりあえず、と私は呟いた。

「もぬけの空じゃないことを祈りたいですねぇ」
「「夢がねぇ!!」」

 両サイドからすごく非難がましく突っ込まれたんだが、現実問題何もなかったら骨折り損のくたびれ儲けって奴じゃないですか。ていうか。

「財宝使って買うのがお酒とかお肉な人たちに夢がないとか・・・心外です」
「じゃぁは何に使うんだ?」
「・・・・・・・・・生活費?」
「余計夢から遠ざかった!!」

 子供だろ!?もっとこう、何かないのか!?と言われても・・・夢を持つのは生活に余裕がある人の考えであって、生活がままならない場合、夢ってのはほぼイコールで安定した生活になると思うんだけど。ていうか私の夢は最初から最後まで平凡で穏やかな生活と人生なんで。それになぁ・・・多分、恐らく、いや確実に?

「私、ここから出たら途方に暮れそうな気がして・・・」
「外に何かあるのか?」
「いや、多分何も無いというか無さ過ぎて困るというか」

 はふ、と溜息を吐くと、二人は揃って首を傾げた。それを横目で見つつ、無意識に暗く表情に影を落す。・・・・多分さぁ、学園、ないんだろうなぁ、って、思っちゃってるんだよね。正直なとこ。
 ホント、外には出たいが出たところで路頭に迷うというかここが文明がある所ならいいんだけど、誰もいなかったらマジどうしようだし。出た途端に夢オチでしたはい!っていう終わりならいいけど。なさそうな気配がムンムンだな、と今後を憂いていると、麦藁帽子ごと頭を傾け、顎に手をかけたロジャーさんがふぅん、と呟くとならよ、と口を開いた。それに自然俯けていた顔をあげてロジャーさんと見上げると、ニカ、と歯を見せて彼が満面の笑みを浮かべる。

「行くとこねぇなら俺の船に来いよ」
「船?」
「ロジャー」
「いいじゃねぇかレイリー。な、。お前仲間になれよ!」
「ロジャーさん達のですか?」
「おう。こんな風に探検したり、冒険したり!と一緒にいたら割りとなんとかなる気がすんだよなぁ。あとあの携帯食?干し飯?美味かったし!肉っ気ねぇけど」
「まぁ、罠の回避には確かに有能そうだが、幼すぎるだろう」
「年なんか関係ねぇよ。俺が気に入ったんだからな。、俺と一緒に世界をひっくり返そうぜ!」

 そういって、握っていた手を放し、大きく両手を広げて堂々を言い放ったロジャーさんをポカン、と見上げながら、えぇっと?と首を傾げた。

「世界とか、またスケールの大きなこと・・・てかお二人とも、一体なにをする気で?」
「わかんねぇ。けど、そんなのどうでもいいんだよ。自由に、思うが侭に生きてこそ海賊だ!ま、当面は仲間集めだけどよ。ししし、これで二人目だな!順調順調!」
「え、何時の間に仲間決定に?てか海賊?え?海賊?」

 あれ、なんかすごくナチュラルにカミングアウトされたんだけど、待ってそこ重要。話の流れが急すぎて処理速度が追いつけないんですけど。ポンポンと落とされる言葉に目を白黒させながらしきりに瞬きを繰り返すと、ロジャーさんは海賊はいいぞぉ!面白いんだ!と胸を張って自慢を始めた。いやー・・問題はそういうことじゃなくて。

「・・・海賊、だったんですか」
「あぁ、まぁ、な。まだ俺とこいつしかいないが」
「・・・ちなみに、ここはグランドラインとかいう場所だったりするんですか?」
「ん?いや、違うぞ」
「え?」

 違うの?海賊の癖に気のいい兄ちゃんたちだな、と思いながら(昔夢に見た彼等のような、陽気さで)なんとも言えず微妙な顔をしての問いは、割とあっさり否定を返されて目を丸くしてレイリーさんを見上げた。
 彼はなんでそんなことを聞くんだろう?というような顔をしているので、私はあれ?と首を傾げた。・・・・・素面で海賊だ!って宣言するから、てっきりあの夢のような世界、まぁつまりワンピースの世界にきちゃったのかしら?って思ってたんだけど。一年生の頃の状況に、似てなくもないし。地面に落ちて見知らぬ場所とか。てかそれを肯定するってことは、あれって夢じゃなくてやっぱ現実?ってことになるにはなるんだけど・・・。うーん?でもグランドラインじゃないっぽいし?じゃぁどこなんだここ。どういう世界なんだ。
 一つの仮定が崩されたようで、途端不安を覚えて眉を寄せれば、レイリーさんはまぁいずれは行くことになるだろうが、とぼやいた。・・・・・・・・・・・・・・・・・んん?

「いずれ?」
「あぁ。最終的にはな。まぁまだ段階じゃない、そうすぐには行かんさ」
「えっと、じゃぁ、ここはどこの海なんですか?」
「東の海だな。なんでそんなこと聞くんだ?」
「えっ。いや、なんとなくです」
「そうか」

 怪訝な顔で問い返してきたレイリーさんに咄嗟に言い返しながら、グランドライン以外にも海ってあったんだっけかな?と首を捻った。えーと、ワンピース読んだのが大分前だから記憶が結構曖昧だけど・・・そういえばルフィ達は東の海からグランドラインに入ってた気がする。そうか、ここはまだグランドラインじゃないのか・・・。てかナチュラルにグランドラインで通じるってことはやっぱりここはワンピースなのか・・・。どうしよう、海軍ならまだしも海賊とか危険すぎるんだけど。白髭は規模の大きい海賊だったし人が好い人が一杯いたからまだしもさぁ・・・。ロジャーさん達は、レイリーさんとロジャーさんだけなんでしょ?え、なにその危険フラグ乱立状態は。嫌だそんな不安この上ない航海とか・・・!

「ロジャーさん」
「ん?どした?」
「仲間の件は謹んでご遠慮させて頂きたいのですが」
「え、嫌だ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌だって・・・・!

はもう仲間にすんだ。そう決めたんだから、もう仲間だ!」
「そんな無茶苦茶な論理がありますか!!」
「無茶苦茶じゃねぇ。決定、もう決定なこれ」
「私の意見は!?」
「ない!」

 そんな殺生な!ドキッパリと言い切ったロジャーさんにひくっと顔が引き攣る。異論なんか認めません、とばかりにぷいっとそっぽまで向いた姿にはどこのおこちゃま!と拳を握り締めた。このやろ・・・!

「レイリーさんからも言ってやってくださいよ!そもそも私が仲間になったところで利益なんてありませんよ!というか私平和に生きたいんです真面目に!」

 海賊になんてなったら、というかこの人といたら命がいくつあっても足りない感じになりそうな気配がムンムンなんですけどぉぉぉ!!子供のような言い争いに(個人的には死活問題だと思ってる)ただ見ているだけだったレイリーさんに矛先を向ければ、彼はんー?と首を傾げ、首筋を撫でながらそうだな、と一つ頷いた。

「諦めたほうがいいぞ、
「そっち!?」
「お、レイリーよく言った!そうだそうだ、諦めろー

 どこか哀れみを篭めてぽん、と頭に手を置かれ、私は愕然とした顔でレイリーさんを見つめた。彼は緩く頭を振り、諭すように深く頷く。そ、そんなぁ・・・っ。
 悲壮な顔をした私を痛ましいものを見る目でみたレイリーさんとは裏腹に、ロジャーさんは我が意を得たり、とばかりにニヤリと口角を吊り上げ、がしっと私の手首を掴んだ。

「よろしくな、!」
「よろしくしたくないです・・・!」

 てか、本気で言ってるのかこの人は?!急転直下の展開に、半べそかきながら私は往生際悪く、断固拒否です!と叫んだ。しかし聞く気がないのか、ロジャーさんは鼻歌混じりにまた歩き始めて、手首を捕まれてるから必然的について歩く羽目になりながら、私はなんなのこの人!!と内心で涙した。
 この地下洞窟の罠よりも性質の悪いものに捕まった気がするのは、きっと気のせいではないのだろうな・・・。

「わ、私は土の上が好きなんですよぉ・・!」
「海の上も楽しいぜ!」
「レイリーさぁん!」
「住めば都だ。なぁに、海の上も悪いもんじゃない」
「そういう問題じゃ・・・!」

 ていうかあんたは反対はせんのかい!?よく考えて、私子供!子供ですから!戦えないし、船上生活とか慣れないし!ねぇ、ほんと役立たずだと思いますからもっと有能な人材を選びましょうよ!

「フィーリングで選びすぎだと思います!」
「気に入るかいらないか、それが全てだ!」
「どんな理屈ですかーーー!」

 うわぁん、という私の泣き言は、洞窟内に木霊しては、ただただ虚しく消えていった。
 ・・・・・地上に出たら即行この人達から逃げないと、我が身の安全が遠ざかる・・・!