あの人のことは好きだ。優しくて暖かくて、甘い良い匂いのする心地よいひと。今でも好きだ。それは間違いない。まるで母のように、柔らかくあいしてくれる人。
 だけど、きっと俺とあの人は相容れないと悟った。だってあの人はとても綺麗だったから。だってあの人は無知だったから。俺は醜くもあの人の言葉に反発を覚えるだろう。何もわからないくせに、暖かな場所を手に入れたあの人を妬むだろう。きっと俺とあの人は相容れない。優しく甘い綺麗な人は、泥水啜って地べたを這い蹲る俺には勿体無さ過ぎて。
 花瓶に大きく大切に生けられた、鮮やかな大輪の花のようなひとは誰からも綺麗だと褒められて。みる人全てを幸福にしてくれるような、心豊かにしてくれるような、あの人はそんな華やかな大輪の花だったから。・・そんな、存在だった、から、



 誰にも見向きもされないような、そんな伸ばせば手の届く足元の野花が、とてもいとおしく思えてならなかったのだ。