フラグクラッシャーに、私はなりたい。
私はただ、校庭の隅の罠もないような道を、くの一の校舎に向かって歩いていただけなのに・・・。目の前に突然降ってきた黒服包帯覆面男という、怪しいという言語でしか表現できない不審人物に、俄かに脅迫されながらびくびくと肩を震わせた。
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何がいけなかったのだろう。この場所を歩いていたこと?一人でいたこと?罠のない道を選んだこと?いや、むしろこれが罠だったのかもしれない。罠はないと思わせた罠。なんということだ!多分どこの罠よりも性質の悪い罠に違いない。だって不審人物と接触とか、嫌な予感がビンビンではないか。むしろ変なフラグを立てている気がしてならない。
経験上、こういうのは非常に厄介なことに面倒ごとに巻き込まれかねないフラグか、あるいはこの男が原作でもそこそこメインを張っちゃうような相手だということが多い。
むろん私は忍たまを知ってはいるけれども、それも小さいころの話。本当に、一年は組(しかも知ってたのと知らないのといる)と土井先生と山田先生とくの一の3人娘、ヘムヘムと学園長と食堂のおばちゃん、あとドクタケとか水軍の頭とか(名前なんだっけ?)、まぁそんな感じだ。他の、そう例えば上級生とか(声が聞き覚えがある気がするのは気のせいかしら?!)外の人間とかは、正直知らないというか見た覚えがない。何分忍たまを定期的にみていたのは小学校低学年かそこらまでの話だから、見ていたとしてもぶっちゃけメイン以外に小さい頃なんて興味ないんだから覚えてるわけないよね!ってことで、誰それが人気でメインでどうこうといわれても、個人的にはピンとこない。
だから目の前の人が実はメインキャラとかでも、私は知らないのだから完全に不審人物でしかないというわけだ、知っていればまだ余裕も持てたかもしれないけど、知らないのだから仕方ない。とりあえず変に興味をもたれないようにびくびく小さくなっていよう。
得てしてこういう人間は、怯えずに普通に接したらそれだけでなんか興味持っちゃうことが多いのだから、ていか見た目的に性格歪んでそうだし。ちくしょう、こういうメインキャラと接触フラグはそこらの通行人Aである私ではなくて、今学園のどこかできゃっきゃうふふしてる件のお姉さんだろう!?お願いお姉さん今すぐここに!私の代わりにこの人と接触してフラグたててーーー!!
「ねぇ、君。聞いてるかい?」
「ひっ・・す、すみませ・・!」
き、聞いてなかった・・・!内心それどころじゃない感じでパニックになってたから・・・!多分どこかでお仕事してるか生徒と戯れてるだろう主役に救援信号を送っていると、前方で無視される形になっていた不審者がそう口を開いた。反射的に謝罪してびくびく後ろに下がると、そんなに怯えなくても、なんて不審者は笑う。
「取って食べやしないよ。丸々として美味しそうだけど」
「・・・・っ!!ご、ご用件はなんでしょうか?!」
食われる・・・!?確かに子供はほっぺたとかふくふくして柔らかそうだけれども、ほぼ初対面に向かって吐く台詞じゃないよねそれ。すでに冒頭で大声出したらどうなるか・・的な意味を暗に潜ませたことを言われたせいで叫んで救援を呼ぶこともできない状態の私は、ひらすらこの強制イベントが早く終わることだけを願って先を促す。お願い、さっさと終わらせてさっさとどっかいってそして二度と私の前に現れないでー!
「はは、早く帰ってほしそうだね」
「・・・」
「そりゃそうか、不審人物だものねぇ。いいよ、私もあまり長居はしていられないから」
だったら姿見せずにさっさと帰れや!!・・・と、言えたならばいいのだけれど小心者にそんな暴言が吐けるはずもないので、私はじりじりと退路を確保しながらひたすら我慢した。
もう誰でもいいからこの現場に乱入して有耶無耶にしてくれないだろうか。な、何いわれルンだろう・・・!嫌なフラグじゃありませんように!あと面倒ごとじゃありませんように!恐らくそうでない可能性は限りなく低いと思いながらも祈っていると、不審者は一定の距離をあけたまま、人差し指をぴっと立てた。
「学園を狙っている人間がいるから、気をつけてね」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
「影っていうのは、光の下にできるものだからね。あまり光にばかり目を向けすぎると、足元掬われてしまうよ」
「え、あの、ちょ。え?学園が・・・?え、」
えぇ!?突然前置きもなく落とされた爆弾みたいな発言に目を剥いて硬直すると、不審者はだから気をつけなさい、と見た目とは裏腹な穏やかな口調で諭すように言った。いや私に諭されても、小さく突っ込んだが、それより不審者から落とされるにはあまりにも意外性抜群な内容に動揺を隠し切れない。そもそも隠せてなかったという話は置いておいて、私は拳を握ると息を詰めた。
「あ、あなたは、一体・・?」
「さぁ?保健委員にでも聞いたらわかるんじゃないかな」
教えてはくれないんだ。でも裏を返せば、つまり保健委員とは知り合いだということだ。ふむ、一応学園内に知り合いがいる程度には関係者、なのか・・・?図りかねる、と思いつつも私は唇を引き結んでじっと伺うように顎を引く。不審者はふと、遠くを見るように首を巡らし、それからぽつりと呟いた。
「元々学園に敵は多い。味方も多いけれど、十分に警戒するんだね。敵はどこに潜み、何を機会にここを陥れようとしているかわからないから―――私のようにね」
そう、ふっと意味深長に囁いて。私がえ?と問いかける間もなく、不審者は片手を翻すと人とは思えない跳躍力で一気に木の上までジャンプし、枝の上に着地した。えぇー人間って道具使わずにあんなジャンプできんのー?!ぎょっとしつつも木から塀へ、そして塀の外へ・・・あぁちょ、なんかもう一人増えてる!?ぎょっとしつつ消えていった背中を呆然と見送り、私は脱力したように肩から力を抜いた。学園は広いし、そりゃ全部が全部見張りやらなんやらたててるわけじゃないし、侵入者ぐらい入ってこれるのかもしれないけど(あ、でも小松田さんがいるから大丈夫なのか?)・・・実際目の前でみるとここの警備どうなってんの!?って言いたくなる。上級生はともかく下級生に危険が及んだらどうするつもりなんだか・・・あぁ、でもそんな学園の多分どうにもできない現状よりも、不審者の発言のほうが大事か?えーと・・・?
「学園が、狙われてる・・・?」
そりゃドクタケとかその辺が学園を敵視してるから、色々食って掛かってくるけど・・・。あぁでも、あれはそんなギャグ的な意味合いじゃなかった。もっと真剣な、大切な、重たいような・・・そもそも何故不審者がそんなことを知らせるんだ?あれは学園の味方だということ?いやでも、最期の捨て台詞はとてもじゃないがそうは取れないし。むしろ、敵だけど今は敵じゃないみたいな中立というか、あぁもう!
「私に言うなよ・・・!」
そういうのはやっぱり主役とか上級生とか、厳密に言えば事務のお姉さんとかその周囲とかに言うことだろー!?何故私をチョイスしたんだ!偶々か!?偶々ここ通ったからか?!なんなの!?もうなんなの!私何かしたっけ!?地味に過ごしてたよね、普通に生活してただけだよね、別に事の中心にいたわけじゃないはずなのに・・・!
混乱も極めて頭を抱えてうんうん唸り、どう対処したらいいのか頭をフル回転させる。このまま聞かなかったことにしてしまえば一番楽だ。虚言かもしれないし、敵がわざわざそんなこちらが有利に働くようなことを告げ口するとは思えない。けれども、私がこの情報を提示しなかったことでもしもが起きたら?それは周囲だけでなく、私にも被害が及ぶということだ。学園が襲われるということは、そういうことだ。けれども、こんな危ないことをおいそれと言って回るわけにもいかない。あぁでも、学園が狙われてるとか、先生達が情報を掴んでないとも言い切れないし。結局私が言おうといわなかろうと、結果は変わらないのかもしれないし。
「・・・・シナ先生か、安藤先生に相談しよう」
うん、生徒は教師に頼るべし!全部丸投げにする気満々というか、こういうややこしくなんかど偉いことになりそうなことは、生徒とか個人で片付けちゃいけない。まずは大人に相談し、指示を仰ぐのが子供の正しい行動だ。ていうか自分じゃどうにもできない、あるいはどうしたらいいかわからないものとは他人に相談するのが一番いいんだし。うん、私間違ってない。それに学園が危ないかもしれない、なんて情報、それこそ先生に話さず誰に話すのよ!って話だし。生憎と私は決して冒険心旺盛だったり責任感がとっても強かったりプライドが高いわけでも、自分の実力に自信を持っているわけでもない。そして、上級生よりも教師を頼る派だ。別に上級生を信頼していないわけじゃないけども、でもどちらがより頼りになるのかっていったら、そりゃ子供よりも大人だと思うし・・・ここの先生は、少なくともそれだけの実力を持っているし。自分の手に負えないことは、誰かに素直に頼りましょう。自分でしか背負えないことはともかく、これはそういうことじゃないし。むしろ本当だったら学園全体の問題だ。方針を固めると、私は止めていた足を動かして、その場から駆け出した。とりあえずくの一長屋にいって、シナ先生を探す。いなかったら忍たまの方にいって、安藤先生。とりあえずどっちかを探さなくてはならない。
「全く、もっと人を選んで情報を落としていって欲しいよ・・・!」
私は何も知らない下級生でいたいってのに・・・っ。これでいらんフラグがもしも、もーしーも!立ったら恨んでやる・・・!内心で恨み言をぼやき、くの一教室の垣根を飛び越えた。
「シナせんせー!」
どこにいらっしゃいますかーーー!!