夕方、君を見つけました



 今日はいい天気だ。白い雲がぽっかりと浮かんで、時々地面に影を落としては流れていく。少しだけ雲の流れるスピードが速いので上の方は風が強いのかもしれない。
 気温は少々高めだが、湿気がひどいわけでもなく、風があるのでむしろ丁度いいくらいだ。少し強めに風が吹くと結わえた髪がたわむように揺れ、へにょ、と眉を下げた。

「・・・まぁ風邪は早々引かないだろうけど」

 でも、廊下で寝るのはあんまりしない方がいいと思うなぁ、とすかーと口をあけて寝入っている任暁君のあどけない寝顔を見下ろし、困ったものだ、と苦笑した。
 普段真面目で何事にもきびきびと動いている彼のことだから、寝ているときも行儀よく寝ているものだと思っていた。多分普段はそのイメージで間違いはないはずだ。多分疲れているからこんなにもあけすけな顔で寝ているんだろうなぁ。ずっと立ったまま見下ろしているのなんなので、横にしゃがみこんで覗き込むと顔に丁度影ができたのか、むず痒そうに瞼をピクリと震わせる。しかし起きる様子はない。よくよく顔を観察してみると、十歳の子供には似つかわしくない濃い隈が目元にできていたので、寝不足か、と鼻を鳴らした。

「そういえば授業中もきつそうだったな・・・」

 居眠りをすることはさすがになかったけれど、頭が上下に振れていたような気がする。思い出せば目も空ろだったような・・・・何してたんだろう、この子。
 夜遅くまで勉強してたのかな。いやでもテストもなかったし、そんな必死こいて目に隈作るほど勉強するようなことはないはずだ。そもそも普段しっかりと予習復習を欠かさない任暁君がいきなり一夜漬けのごとく勉強をするはずもない。他に何かこんな隈作ることあったっけ、子供が。

「・・・あ、委員会」

 確か忍たまには面倒な委員会が多数あったはずだ。くのたまにもないわけじゃないけど、でも忍たまほど必死こいてこなしているわけじゃないし・・・。えーと、任暁君の委員会は・・・会計?だったっけ?うん、先輩に聞いたことがある。確か夜中ギンギンと雄たけび上げながら鍛錬している暑苦しくてやかましい人が委員長の委員会だって。何度闇討ちしてやろうかと思ったかしれないわ、と笑顔で語った先輩が怖かったなんてそんなこともあったなぁ、あっはっは。そういえば偶にくのたまの方にも「ギンギーン」って声が夜中聞こえてくるんだよねぇ。そんな結構どうでもいい情報を引き出しながら、その委員会のせいなのかなぁ?と首を傾げた。

「大変だったんだねぇ」

 夜遅くまで委員会の仕事か。委員長も子供の体のことぐらい考えてくれればいいのに。成長期の睡眠は大切だというのに・・・これで任暁君が背の伸び悩みを覚えたら会計委員長のせいだと思っておこう。まぁ別に何も言わないけど。すやすやを気持ちよさそうに寝ている任暁君を見下ろしながらしばらく観察してみたけれど、起きる様子はない。
 まぁまだ夕飯まで時間はあるし、これだけ疲れているんなら寝させてあげるのが親切というものか。あぁでも夕方になるとさすがに寒いよね。どうしようかなぁ、と考えながらごろりと任暁君が寝返りを打つ。仰向けから横になり、後ろ頭の天辺に高く結わえられた髷に、あぁ寝にくかったのだろうか、と思案した。肘をついて掌に顎を乗せ、しばらくその髷を見つめながらそっと手を伸ばす。指先で抓むように紐の先を取り、引っ張ればしゅるりと擦れた音をたてて紐が解けた。ぱらり、と床に濡れたような黒髪が広がって乱れる。うん、これで仰向けになっても寝やすいはず。微笑むと。よいしょ、と声を出して立ち上がった。

「掛けるものもってこよう」

 彦四郎君に声かけたらいいかなぁ?首を傾げつつ、のったりとその場を後にした。