最後の晩餐



「まあ要するに、登ればいいんでしょう」

 今にもミスターに殴りかかりそうなクロスを尻目に肩を竦めれば、それは意外そうな視線を向けられた。
 一体標高は何千メートルとあるのだろうか。高ければ高いだけ強く吹きつける風にコートの裾を煽られながら、ぶっちゃけて超寒い、と襟元を掻き集める。気温が低くなるし酸素は薄いし、何より一歩踏み外せば御陀仏だ。良い所なんざ微塵もない。なんつか、正義の味方の秘密基地は地下ってのが通説のはずなのになぁ。これじゃ悪の秘密結社のポジションよ。ほら、馬鹿となんとかは高いところが好きっていうし。あんな感じ?剥き出しの岩肌のそこここを眺めながら、単調な風景にも飽き飽きしてクロスを振りかえる。さすがにこんな所ではタバコを吸う気にもなれないのか、コートのポケットに手を突っ込んで黙々と歩くクロスは、私の視線に気付いてピクリと眉を動かした。

「なんだ」
「別にー。退屈だなぁって」
「・・・本当なら、退屈だと思うような場面じゃねぇんだがな・・・」
「なに、不満なの?だったらクロスだけ今からでもロッククライミングする?」
「冗談。誰がそんな面倒臭いことするか。大体、それならお前がすればいいだろう。退屈なんだから」
「やなこった。誰が好き好んでこんな所登るのよ」

 なら我慢するんだな、とぼやいてちら、とクロスは足元を見る。そこには整列に並んだ段差があり、周りの凸凹と不規則な岩肌とは一線を隔していた。それからずずぅい、と視線を上げていけば遥か先にも続く階段の道。真っ直ぐと整った果てしないと思えそうな段差の連なりに、クロスは呟いた。

「今だかつてこの崖をこんな方法で登った奴はいないんだろうな」
「イノセンスにもよるんじゃないの。飛べる奴とかあるかもしれないし」
「そうかもしれないが、まさか階段作って登ってくる奴がいるとは思わないだろう」
「だってわざわざ体力を倍使いそうな方法で登りたくないじゃない。汚れるし。使える力は有効に使うべきよ」
「そりゃそうだ。そのおかげで俺も面倒な方法にならずに済んだしな」
「感謝しなさい」

 ふふん、と笑えばひょい、肩を竦められる。こいつ、感謝する気微塵もねぇな。今からでもここから突き落としてやろうかと思ったが、さすがに死ぬかと断念する。いや、クロスならなんか生きていそうな気もするんだけど。一旦途切れた会話に、しかし本当に長い階段だ、と自分で作っておきながらそう思う。だって元々の高さがとんでもないんだから仕方ないじゃない。私に小宇宙の方の力が使えれば、テレポートで一瞬で上に行くのも簡単な話しなんだけど、生憎とそれは使えないし。できるのが魔術と錬金術。今回はその錬金術の方を使わせてもらった。  つまり、崖に沿って階段を練成したのである。呆気に取られていたミスターとクロスの顔が実に愉快だったわ。
 まさかこんなことができるとは思っていなかったのだろう。思えば装飾具の練成も、クロスの知らないところでやってたし。どこから調達してきた、という質問を一切されなかったのはあれか。
 私ならどこぞで何かヤバイことやっても不思議じゃない、とでも思われていたのだろうか。
 さすがに犯罪には手を染めないわよ。一歩手前までならともかく。それにここ、エド達のいた所じゃないから別に法律で金とかの練成の禁止なんてされてないしねー。つまり、違反じゃないのだ。反則だとはしても。鳥の一羽、小動物の一匹すら見かけない荒廃した崖の味気なさに、聖域以上につまんないところ、とぼやく。いや、あそこはまだ人がいたし、通過地点には宮が転々とあったのだから、あちらの方がましか。

「てーか聖域で慣れてなかったらこの階段だけでも大変よねー」
「・・・聖域?」

 十二宮の馬鹿長い階段の、生活するには不便この上ない場所を思い出しながら呟く。
 あれを経験したからこそ、これぐらいわけないといえばないと思える。人間、経験というものはとても大切なのだ。経験したからこそ耐えられるものなどいくらでもある。気構えというものが事前にできるのだ。それがあるないの違いは、思うよりも遥かに大きい。  背後のクロスの呟きにも気付かないまま、薄い霧のような靄が立ち込める場所にきて、やっと一息吐いた。

「やっと雲の中か。そうなるともうすぐっぽいねぇ、クロス」
「あぁ・・・
「ん?」
「お前、俺に話していないことがあるだろう」

 階段を登る足を止めないまま、クロスの割合と真剣な声音に瞬きをする。振り向けばじっとこちらを見つめる隻眼を受けて、私はうーん、と首を傾げた。

「ある程度必要な分は話したと思うけど」
「ジャパニーズで人攫いにあって教会に放置、か。・・・お前じゃなかったらある程度信用してやってもいい嘘だな」
「全部本当なんだけど」

 いやマジで。端折ってるだけでかなり真実に近いよそれ。日本人なのは本当。多分そこはクロスも疑っていない。人攫いも本当。真理に拉致られてここにいるから。教会に放置も本当。
 ただ空から落とされて屋根ぶち抜いてそのままというだけで。ほら、嘘なんて一つもない。心外な、と眉を潜めれば溜息を零してクロスは目を細めた。

「お前、一応事が終われば話すといったよな?」
「話したでしょう。色々と」
「お前が大人しく攫われてくるような可愛い性格か」
「大人しく人攫いにあわなくちゃいけないような相手だったんですよ」
「大体攫った相手をなんで教会に放置する。拘束されてた様子もないしな」
「まあ、娯楽好きだからトラブルの臭いがしたんじゃない?」
「・・・
「本当だよ。嘘じゃない。ただ、全部じゃないだけ」

 それだけ、と微笑んで言い返せば、クロスは言葉に詰まりちっと舌打ちを零して視線をそらした。
 その様子を見てから、顔を前に向ける。どうやらクロスは割合と良い方向に勘違いしたらしい。
 どことなく不機嫌ながらもそれ以上追求しようとしない姿に、私にとって「話したくないこと」という解釈をしたのか。あはは。別にそんなことないのにね。ただ単に普通は信じては貰えないだろう内容を話すのが面倒なのだ。ついでに話したところで何がどうなるわけでもなし。無駄なことならば一々ややこしく、また頭を疑われるようなことを話す必要性も感じない。
 必要に迫られれば話すのも吝かではないが、ぶっちゃけそんな時は滅多にこないだろう。経験上、異世界人だろうがなんだろうが、その事実って実はあんまり重要ではないのだ。帰る方法もおおよその検討がつけられるほどには何度も繰り返してきたことだし。靄がかかったような灰色の中を、しっとりと服や髪が水蒸気で重くなる。微妙に水滴のつく鼻の頭を拭うと、すっと息を吸い込んだ。
 冷え切った空気は乾燥していてキリキリと痛かったけれど、雲の中に入れば水分も増したのか割合と気持ちいい。かといって視界は悪いし、長時間いれば湿気が鬱陶しいしで、結局環境としてはあまりよくないのに変わりはなかった。・・・本当、なんでこんな所に好き好んで本部作ったんだろう、ヴァチカンは。つらつらと思考を巡らしている間に雲の中を抜けて、眩いまでの空の近さに圧倒された。それだけ近く、また空気が澄んでいるということなのだろう。雲一つない空の、少し暮れかかった紫が優しい。手を伸ばせば届く、などと子供のようなことはしないけれど、近すぎる空と太陽は、けれども遥か彼方の産物なのだ。とん、と軽い音で最後の一段を登りきる。
 横にずれればクロスもまた登りきり、それを見届けると軽くぱん、と手を合わせて階段に触れた。
 バチィ、という青白い光が一瞬で階段の全てを走りぬけると、瞬く間に周りの崖と同じような剥き出しの岩肌へと変化する。整列と続いていた階段など跡形なく、元に戻したことを確認するとよいしょ、と立ちあがった。クロスはその私の行為を待っていたかのようにやっとタバコを吸いながら、ずっと前を向いている。私も体を反転させて前を向いて、素直な感想を零した。

「悪の秘密結社か、ここは」
「正義の味方のつもりもないが、それ以外言い様がないな」

 空がまだ明るいからマシなものの、怪しい雰囲気でしかない一面の光景にいっそ見事だといってしまっていい。鬱蒼と蔦の蔓延る枯れ木のような木々の連なり、標高が高すぎるが故に積もった一面の白い雪。空を飛んでいる蝙蝠らしき物体に、森の奥、どーんと見える建物も黒い。
 「黒の教団」というぐらいなのだから白くはないだろうが、それにしたってこのセンスは何事だ。
 雪の白と建物の黒と木々の灰色程度しかない、見事なモノクロの空間。色彩というものが空しかないとは、いっそ天晴れだ。じろじろと不気味な、・・・あー。某ネズミの国の幽霊屋敷を彷彿とさせるこの光景に、これが夜ならさぞかしいい雰囲気になるだろうと思った。アトラクションにすれば儲かるんじゃない?しばらくそうして、普通の感覚ならば行きたくないな、と思わせる建物の様子を観察してから、溜息を零す。タバコを咥えてクロスは紫煙をふぅ、と吐き出すと、面倒そうながらも無言で動き出した。あぁ、やっぱり行かないとダメなんだ?非常に行きたくない気持ちにさせるホラーハウスに顔を顰めて、溜息を零すとクロスの後ろにのろのろと続く。人の歩幅など気にもせずに、あまり踏み荒らされてもいないような雪の上を踏みつけた。二人分の足跡が転々と残されていく。

「・・・寒い」
「文句なら教団に言え」

 空風の吹く冷たい空気に首を竦ませてぽつりと悪態を吐けばすげなくクロスが言い返す。
 かくいう本人も寒いのか、乱暴にコートの襟元を掻き集め肩を竦める様子に、本当に人に対して不親切極まりない本部だ、と唸った。建物に近づくまでに、道中をぐるりと観察してみる。
 基本的に白と黒と灰色、そして薄暗い木々があるだけでこれといった特徴はないのだが・・・不自然な点といえば、木々の合間をパタパタと飛んでいる黒い物体、だろうか。

「蝙蝠、なわけないわよね。さすがにこんな高いところに生き物は棲んでないでしょうし」

 生息するには標高が高すぎる。それによしんば棲んでいたとしても、天敵もいなさそうなこの土地では大繁殖をしてもよさそうなものだ。だというのに、ちらほら見えるだけということは・・・何か人為的なものなのだろうか。じっと蝙蝠らしき物体を見つめていると、不意に一匹がフラフラとこちらに飛んできた。首を傾げ手を伸ばせば、蝙蝠・・・というよりもなんだこの玩具、と疑問が浮かぶ丸いフォルムの何かが大人しく手の上に収まる。全身真っ黒で、蝙蝠型の羽が丸い胴体にくっついた、みたいなよくわからない物体。・・なんだこれ?

「・・・教団のゴーレムか」
「ゴーレム?っていうとあれか、泥人形とかロボットみたいなファンタジーの敵には欠かせないあの」
「その把握の仕方も可笑しいだろ。教団との連絡に主に使われている奴だ。師匠が同じのを持ってたな」
「ふぅん・・・」

 クロスの注釈に、なるほど。電話の代わりというわけね、と頷く。確かに、この時代はまだ携帯電話というものはないし、あったとしてもやたらめったらでかいもののはずだ。コンパクトに収める技術ってのばまだまだ先の話なんだが・・・。

「こんなの作れるんなら普通に作れるんじゃないの・・・?」

 それともなに、これもファンタジー系統の呪術的なものであって、科学ではないということなのか?いまいちこの時代の科学水準がわからず、首を傾げるとジジ・・・ッと何か電波のぶれるような音が聞こえ、はっと手元を見下ろす。二人の視線が同時に注がれるのを感じたのかはたまた確認したのかは知らないが、黒いゴーレムから何か音が漏れ出てくるのを感じて耳を寄せた。

『ガガ・・・ッ、・・・君達がアートライトさんの弟子ですか?』
「そうだ」

 何かが繋がるような音とともに、低い男の声が、やや無機質に電波を通して聞こえてくる。
 無言の私の代わりにクロスがぶっきらぼうに答える。君達っていうけど、私全然ミスターとは関わりないんですけどねぇ。しかし言うとややこしくなりそうだから無難に沈黙を守りつつ、これどこにスピーカーがあるんだろう、と会話の最中だというのにゴーレムを抓んでしげしげと眺めてみる。しかもクロスも止めもしないで覗き込むものだから、存外に知的探求心が高いのかもしれない。

『そのまま門の前まで行き、門番の審査を受けて・・って何してるんですか、君達は』
「いや、どうやって声出してるのかな、と。スピーカーらしきものはないんですねぇ。ところでこれって科学ですか、呪術ですか」
『科学に決まってるじゃないですか』
「あぁ、じゃあロボットなんですね。中身は機械?」
『勿論です。・・て、そうではなく。そんなことはいいから、早く門番の審査を受けてくださいね』

 えー、気になるのに、と唇を尖らせたがどことなく呆れた様子の通信先相手は、溜息を混じらせてブツリ、と一方的に回線を切る。残念、と呟くとゴーレムは手の中から飛び立ち、パタパタと人の周りを旋回し始めた。さっさと行けってか。

「・・・中入ったらとりあえずどうやって作ってるのか聞いてみたいなぁ」
「あれだけ小さいサイズの通信機器なんていうものはないからな。おまけに雑音も入らない、クリアな音だ」
「かなり高度な技術よね。お金かけてんのねぇ」
「でなけりゃ対抗できないだろう、こんな組織」
「維持費だけでも莫大だものね」

 リアルにお金の会話をしつつ、中身は携帯電話と似たり寄ったりなのかなぁ、と考えていたりもする。こちらの様子もわかっていたことから、どうやら映像も取られているようだし、小型カメラ技術も中々素晴らしい。一度分解してみたいな、とそう思う。思いの外クロスのノリもいいみたいだし、談義してみるのも楽しいかもしれないなあ。そうこうしている内に指定された門の前に立ってみる。高く、黒い柵が建物の周囲をぐるりと囲み、分厚い門がどん、と威圧感を放ちながら佇む姿は圧巻だ。元々大きな建物だと遠目からでも思っていたが、近くに寄れば尚の事大きさを知る。一体どれだけの人間が生活しているのか。感嘆の吐息を零しながら、ぐると周囲を見まわして首を傾げた。

「門番とか言ってたけど・・・人影はないわね」
「さっさと終わらせたいんだがな、俺は」
「同感」

 タバコを吸いながらだるそうに言ったクロスにこくりと頷き返しながら門番とやらはどこにいるのか、と視線を泳がせ・・・目の前のそれと目が合った。パチリ、と瞬きをすると相手もまた瞬きをする。あぁ、あれ動くんだ、と感心しながら、でかい顔だなぁ、としげしげと眺めた。
 なんだろう、あまりに巨大且違和感がありすぎて逆に気付かなかったというか。堂々としすぎていてわかんなかったというか。灯台下暗し?しばらくの見詰め合いの後、クロスの服の裾を引っ張り、注意を促す。

「クロス、クロス」
「ぁん?」
「あれ」

 振り向いたクロスにちょいちょい、と前方を指差す。クロスは片眉を動かし潜めてから、ゆるゆると前方を振り向いた。そして私と同じようにきょとんと瞬き、柵というか扉?の顔に目を留める。
 しばらくクロスと顔の見詰め合いが続き、無言の時間が流れた。タバコの煙だけがふわふわと空へと吸い込まれていく、なんともいえない時間が過ぎて。やがてその沈黙に耐えきれなくなったように、扉の顔が顔を歪めて、口を動かした。・・・口?

「何か喋れお前らあぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!」

 う、わっ。びりびりと空気を震わせる大声に、咄嗟に耳を塞いで顔を顰める。同じくクロスもそれは非常に鬱陶しげに顔を凶悪に歪めて耳を塞ぐ。余韻がまだ残る中、なんという声量だろう、と瞬きをしながらまたなんか変なのが出た、と顔を顰めた。なんだこれ?

「普通ここはもっとなんか反応するところだろおいぃぃーーー!!」
「声でけぇ・・・」

 なんだ、顔の大きさに声の大きさは比例しているのか。耳を塞いで丁度いいぐらいの声量に、ずっと耳を塞ぎながら眉を潜める。本当になんだこれは。顔が喋っていることにも驚きだが、意思があるようなところにも驚きだ。まさか人工知能搭載されているのか?この時代の技術で?
 うっわすごくないそれ。いやまあ、色々とぶっ飛んだ世界観だとは思ってたけど・・・それにしても趣味が悪い。声はでかいしなんかぺちゃくちゃ喋ってるし顔はでかいし。
 不気味この上ないな。何か文句を言っている顔を右から左へ受け流しながら、門番ってまさかこれじゃないだろうな、と思考を巡らせる。門まで行け、とわざわざ言ったからには門に何か仕掛けが施してあることは想像に容易い。その仕掛けがこの五月蝿い顔だとするのならば、門番とやらはこれ、と考えるのが妥当だ。普通は人を連想するものだが、ゴーレムなんぞを作っているところである。おまけに風体は悪の秘密組織そのままの怪しいところ。センスを信じたほうが馬鹿をみる。  しかしこんなのにどうやって審査されるというのだろうか。口頭?つらつらと考えていると、不意に横でガチャン、という金属音が聞こえた。うん?と横を振り向くと。

「黙れ」

ズガン

「ギャアァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 クロスがそれはそれは至極苛立たしそうに且鬱陶しげに、断罪者を顔に向けてぶっ放した。
 火を吹いた銃口が問答無用でべらべらと喋っていた門番(仮)の顔すれすれに着弾する。一部扉が破損してしまったが、力加減はしたのか盛大な破壊までには至っていない。
 絹を裂く、というよりも岩を砕くような野太い悲鳴を上げた門番(仮)の声が鼓膜を直撃し、クワーン、と脳が揺れた気がした。ってか耳がやばいんですけど。

「お、お前なにす・・・!!」
うるせぇ黙れ。今度は当てるぞ」
「ごめんなさい許してくださいお願いします・・・」

 ギロッ、と睨むクロスの迫力に怖気づいたのか、門番(仮)の顔がどことなく青褪めたような?
 元々目つきはさほどよろしくないし、顔は良い分凄むと凶悪さが際立つ。そもそも普通に立っているだけでもふてぶてしく、近寄り難い雰囲気があるのに、不機嫌さも相俟って凶悪さは類をみないもので、門番(仮)はしおしおと声量を落とした。ちっと舌打ちをしたクロスは門番(仮)の顔に弾丸をぶち込みたかったのだろう、きっと。だって断罪者を仕舞うことなく手に持ってるし。
 今度五月蝿くしたら確実にぶち込む気だ。器物破損とか一切考えずにこいつはやる。確実にやる。かくいう私もそろそろ五月蝿いマシンガントークには飽き飽きしていたので、止めはしなかっただろう。あるいは自分でやってたかもしれない。さてもとにかく。

「ねぇ、あなたが門番?」
「あ、あぁ・・・」
「ふぅん。てことはあなたから何か審査を受ければいいわけね」

 大人しくなった、というよりもやっと一区切りがついた、という心地で話しを前に進ませる。
 まったく、ここまでくるのにどうしてこんな時間をかけなくちゃいけないのか。それもこれもこの門番のおしゃべりが原因だ。突き詰めると真理のせいだけれど、そこまで行くと世を儚く思うしかないのであえて考えないことにする。先ほどの殺伐とした光景などさも関係ない、とばかりに接する私を、まるで隣の男と同類のごとくびくびくと見やる門番に笑みを浮かべる。胴体もないのにびくっとした気がした。

「じゃあさっさと審査とやらをしてくれないかな。いい加減吹きっさらしの中延々と立っているのは嫌なんだけど?」
「同感だ。無駄口叩く暇があるなら仕事をしろ」
「わ、わかったよぉ・・・じゃなくて、ワカリマシタ・・・・」

 クロスの睨みと私の笑顔が効いたのか、びくびくと縮こまりながら(顔の大きさの割りに肝っ玉の小さい)門番の目が俄かに光を帯びる。その光景を見ながら、頭の天辺から足の爪先まで確認されているような心地を覚えてふぅん、と鼻を鳴らした。さながらあの目はレントゲンのようなものといったところだろうか。そういえばアクマと人の判別ってどうやるんだろう。
 とりあえず門番の審査、というか検査?が終わるのをぼーっと待っていると、やがて門番の目の光が消えて。

「こいつ等、セーーーーーーーーーーーッフ!!!!!!!」
「黙れっつっただろうが」
「人の耳壊す気?」

ズガンドガン

 性懲りもなく人の迷惑も考えず叫んだ門番に向かって、クロスの銃口と今度は私の魔術が火を吹いた。黒の教団の歴史上、門番に向かってこんな無体を強いた入団者は後にも先にも私達だけだったという。おかげで門番が私達と会うたびへいこらするというのは、まあ後々の話しである。だって一々五月蝿いんだもん、これ。
 それは、全てを疑いにかかるしかない世界の、歪んだ証明。