02 教育上良くないです
「えーというわけで小宇宙を巧く扱えるようになる為にー繊細なコントロールを身につけましょうー。特にシオンはサイコキネシス系統だから余計に小宇宙の扱いは長けてないとだめだよー」
くるくると器用に柄の所で刃物を回しながら、行儀よく体育座りなんかしちゃってる2人を見下ろして言うと、2人は元気良くはい!と返事を返した。うんうんいい返事。人としてそういう基本は抑えておかないとだめだよー。ニッコニコ笑顔でくるくると弄っていた刃物を最後に一つ回転させて、ぱしりと音をたてて握る。
「さて、ではその肝心のコントロールなわけだけど、より緊張感を出すためにこんなもの用意してみました」
言いながら身体をずらし、座っている2人にも見えるように自分の背後を示す。素直に2人は視線を私の後ろに向け、そしてこれまた素直にぴしりと固まった。いやぁ、擦れてない反応ってなんか逆に新鮮。
「ふむー!ふむー!!」
「えーちょっと煩いですがー周囲の雑音にも気を取られない集中力を出す為なので、出きる限り気にしないよーに」
ガッタガタと煩い音をたてて暴れている道具、もとい人間をさらりと無視して童虎とシオンに言い含めるように言うと、2人は激しく戸惑った顔で首を傾げていた。というか、後ろの雁字搦めに縛られている男が気になって仕方ないらしい。
「あの、師匠」
「ん?なに童虎」
「あれって、人ですよね」
「うん。人だね」
「なんで、じゅうじかに張りつけにされてるんですか・・・?」
恐る恐る問いかける童虎に、きょとんと目を瞬き、振りかえる。暴れている男はしかしそれでも自身を拘束している鎖を引き千切れないのか、顔を真っ赤にして唸っていた。ふむ。
「だから、緊張感と臨場感をより出す為の、言わばオプション?」
「・・・・・・・・あのひと、この前先生をおそったひと、ですよね・・・?」
今度はシオンが、若干青褪めつつ問いかけてくる。童虎からシオンに視線を向けなおし、しばらく考えると、にっこりと微笑みを浮かべた。その途端、ひぃ!!と引き攣った悲鳴を出して、シオンはぶるぶると縮こまる。失礼な。ちょっとばかし笑っただけなのにそこまでビビらなくてもいいんじゃない?まあ、若干子供に優しくないものが含まれてたかもしんないけども。
「えーでは質問疑問は後に回して、これから如何にあれを使うかの説明をしまーす」
「むむーーーー!!!」
「まず、ここに刃物があります。あそこにもアイスピックやら鑿やら包丁、千本にクナイなどなど、様々な武器があるから別に刃物に限ったわけじゃないけど、とりあえず説明は刃物でいくわね」
ついっと指を向けると、2人もその指の先を追いかけて、頷く。箱の中には様々に先の尖った武器が溢れかえり、中には日本にしかないようなものもあったりと結構種類豊富。
「ちなみに鑿などの大工工具はアリエスの仕事道具からちょっとお借りしました。あれがシオンの道具になるかもしれないものだよー」
「わぁ、そうなんですかっ?」
「うん。そう。童虎も天秤座は武器を預かっている星座だから、色んな武器に触って慣れておこうね」
「はぁい!」
うんうん。子供はこうやって興味が外れてくれるから扱いやすいよ。比較的この子達素直で純真だから尚の事。こーいうタイプは成長も早いからね。実に良い事だ。
「さて、じゃぁまずこのナイフを小宇宙で浮かせます。まあサイコキネシスね」
「「ふんふん」」
「むむぅぅーーーー!!!」
「そして次に、このナイフを自在に動かし、尚且つ精密なコントロールを身につける為に、手に触れずこの状態であの的に向かって、投げます」
言った瞬間、ヒュンっと風を切る音がしたと思ったら、一瞬後にはカッ!という鋭い音がし、辺りが静寂に包まれた。的、まあ縛り付けられている人もまた、沈黙し、固まっている。
ナイフは、男の頬を僅かに掠めた状態で、顔の横に突き刺さっていた。はらりと、男の赤毛が何本か切れてふわりと風に乗って飛び、頬に赤い筋が出来たが、さてもともかく静かになったからいいか。
「あのように、男に当てないよう、まあ当ててもいいけど、ギリギリの位置までスピードを維持したまま当てられるようになるまで繰り返しやる。あれもあれで聖闘士の端くれだから、ある程度までなら死なないから大丈夫よ。良いところに刺さったら死ぬだろうけど」
「んんんぅぅぅぅぅぅーーーーーーーー!!!!!!」
ものすっごい渾身の叫びが男から上がったが、猿轡を噛まされているせいで何を言っているのかわからない。ので、快く承諾したのだと解釈をして、にっこりと2人を見た。
固まっている2人は、一瞬哀れそうに張りつけられている男をみる。が、しかし私の視線に気づくと、にこり、と2人共笑顔を浮かべた。
「先生、どこまでなら刺さっても大丈夫なんですか?」
「急所じゃなかったら平気なんじゃない?スカーレットニードルに耐えれるぐらいだから」
「スカーレットニードルって蠍座のセイントの技ですよね?うわぁ、だったら結構刺さっても大丈夫そうだぞ、シオン!」
「そうだね!ゴールドセイントの技に耐えられるぐらいだから、ちょっとぐらい刺さっても平気そうだねっ」
「そうそう。だから、遠慮なくやってしまえ」
「「はい!せんせい!」」
元気良く挙手をし、立ちあがった2人はそれぞれ思い思いの武器を手に取る。
その間、必死に男の悲鳴、というか絶叫、が間断なく響いていたわけだが、私達は快くそれを無視した。嬉嬉として(あの2人も私に毒されてきたなぁ)物騒なものを浮かせて狙いを定める弟子を見守りつつ、空を仰ぐ。あぁ、良い天気だ・・・・快晴って、こういうことを言うんだなぁ。しみじみと思いつつ、穏やかな森には言葉にならない悲鳴が、BGMとして流れていった。翌日、聖域に呼び出され教皇がさめざめと泣きながら、お願いだから子供の教育に良くなさそうな、というか聖闘士1人にトラウマを植えつけるような修行はやめてくれ、と懇願されるわけだが。現在の私には関係ないので、微笑ましくぶすぶすと中々危険なところに刺さっている的を長め、頑張っている弟子を応援しつつ、平和だなぁと噛み締めていた。
ちなみに、その訴える教皇の横ではぼろぼろの獅子座がいたりしたわけだが、さてなんのことやら。