06 サボタージュの小径



 呆れた、というよりもこれは微笑ましい、なのだろう。すうすうと寝息をたてて、お互いにもたれながら寝ている子供を見つめながらはそう思った。あまりにも心地よさそうに、幸せそうに寝ている2人に怒るという気すら失せて、肩を落とす。しゃがみこんで頬杖をつき、しばらく起きる気配の欠片もない2人を見つめた。それから、何の気なしに手を伸ばし、ぷくぷくと柔らかいシオンの頬を突つく。ぷに、と弾力に富んだ頬が指先を押し返したことに、軽い感動をは覚えた。若いっていいなぁ、と年寄り臭いことを考え、もち肌ってこういうことだよねぇと頷く。世の美に生きる女性陣も、この天然そのもののもち肌には適うまい。
 子供の頃だけの特権だ。まあ、頑張って維持している人とか、全然意識せずに持ってる人とか、割りといるけれども。あまりにも感触が良いので、何度もぷにぷにと突つきながら、童虎はいかがなものだろう、とはその魔手を童虎にも伸ばした。眠っている2人に、それを回避する術などなく、なんなく指は童虎の頬に触れた。ぷに、とやはり期待を裏切る事のない弾力が指先を押し返す。その時むしょうに、はこの頬を目一杯伸ばしてやりたい、と思った。どれだけ伸びるか、非常に楽しそうだと、思わず口端が持ちあがる。
 誰かが見たら何を企んでいるんだ、と不審の眼差しを向けられること間違いない薄ら笑いに、悪寒を覚えたわけではないだろうが、小さく童虎が身じろぎをした。
 その様子に突ついていた手を止め、再び顎を支える為には腕を引っ込めた。
 それからまたしばらく、沈黙が辺りに落ちる。ピチチ、と囀りが響き、さわさわと木の葉が擦れて音を奏でるのに、は微笑みを零した。それから思い立ったように立ちあがる。

「やっぱ、こういうのは残さないとねぇ」

 可愛いし。笑いながら呟き、瞬く間にその姿は掻き消えた。小宇宙の余韻も何もない、見事なテレポーテーションが展開され、後に残されたのは夢で遊ぶ子供2人だけである。
 しばらく、2人だけの空間が続き、やがて再びが現れた。その手に、行く時は持っていなかったカメラと、片手には布を持って。

「これ大きくなった時にでも見せたらどう反応してくれるかしら・・・まあそれまで私がいるはずないんだけど」

 にたにたと笑いながら、はカメラを構えた。しかも、まずこの時代にはないはずの、使い捨てカメラの形である。というかそもそもカメラがあるかどうか。練成したのだろう。
 必要な材料を集めて。あるいはそれすらも練成して。

「カメラの作り、知っててよかったー」

 報道部に属する幼馴染の持つカメラに興味を覚えた結果だった、それは。無駄に性能のいい自分の頭も同時に褒め称えつつ、は迷いなくレンズに眠りこける2人をおさめて、シャッターを切った。パシャ、と音が鳴り、満足そうにカメラから顔を放すと、は目を細めて微笑む。

「良い夢を」

 偶にはこんな日もいいだろう。紛れもない師の顔で微笑み、は持ってきていた布を広げると、音もなくそれを童虎とシオンにかけた。ふわりと、白い布が2人を包む。
 それから踵を返し、は予定外に空いた時間をどうするかと首を捻った。

「・・・・・・12宮突破でもしてみるか?」

 12宮の守護者にとって不吉極まりない呟きを零し、彼女は鼻歌交じりにてくてくと歩いていった。その後、実際にそれが行われたのかどうか、それは不確定のままである。